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最強船長、陸に上がって大暴れ 番外編  作者: 宮澤花
幻想は現実を超えうるか
12/32

幻想は現実を超えうるか (1)

 スフレ先生の同人誌「レジェンドノベルス第?巻」vol.1 に寄稿させていただいた作品を、小説家になろうのフォーマットに合わせて行間などを調節したものです。ep.148~ep.152 「砂漠の旅」のどこかでの一幕です。ハールーンはパーティ加入前なのでいません。

 大鍋に湯を沸かし、乾燥野菜と干し肉を投入する。そこに塩と香味、調味料を放り込んでしばらく煮込む。やわらかくなったら夕食の出来上がりである。


「またこれですか」

 アベルがうんざりした声をあげた。

「昨日も一昨日も、いえもっと言えば朝も昼も同じ献立でしたぞ。目先の変化を考えることは出来ないのでしょうか。せめて少しでもおいしいものなら、私も文句も言いませんが」


 言いたいことはわかるとオウルは思う。大しておいしいものではないのだ。いや、正直に言えばまずい。


「仕方ないでしょう。オレたちは砂漠を横断している途中なんだよ」

 鍋をかき回していたロハスが言う。


「次の町まで何日かかるかわからないし、そこで食材が手に入るかどうかわからない。食べ物は節約しなくちゃいけないんだよ」

 それも間違いではない。砂漠の真ん中で食料が尽きたら、考えるのも恐ろしいことになる。


「確かにそれはそうでしょうが」

 アベルはロハスを疑いのまなざしで見た。


「毎度出されるこの乾燥野菜と干し肉の他にも、ロハス殿は食料を隠し持っていらっしゃるのでは。いつも新しい街や村に着くと、どこからともなく珍しい商品を出して商売をなさっているではありませんか。飲料や食料も出していらっしゃいますぞ。私たちに食べさせようとしないだけで、本当はもっとおいしいものがあるのではないですか」

 さすがクレクレ妖怪、そういうところは抜け目なく観察している様子だ。


「売り物にならなくなったら出すよ」

 あることは否定しなかった。商品と糧食は厳密に分けられているらしい。そして自分たち用の糧食はおそらく極限まで経費を節減されている。その結果が、この代わり映えのしない煮込み料理であるようだ。


「食材がおいしいうちに食べたいですぞ」

「ダメ。商品は商品」

 きっぱりと言ってから、ロハスはことさらに明るい表情を作った。


「ほら、人間には想像力という神様からの授かりものがあるじゃない。こういうときはそれを使うべきだと思うんだよね。代わり映えのしない料理も、おいしいものを想像しながら食べればいつもと違う味に感じるかもしれないよ」


「確かに、想像の翼は神の贈り物ではありますが」

 アベルは疑わしげな顔をした。オウルも、さすがにそれはどうだろうと思った。


「たとえば、アベルはどんなものを食べたいのさ」

 あくまで追加の食料を出したくないロハスはその思いつきに固執する。

「ほらほら。試しに言ってみてよ」


「私の食べたいものですか」

 アベルはちょっと首をかしげて、それからためらいなく言い切った。

「肉ですな。分厚くて骨の付いた、脂のたっぷり出る肉の塊を食べたいですぞ。味付けはこってり目が良いです」


「待て。神官は、肉食はご法度なんじゃねえのかよ」

 オウルはついついツッコんでしまった。


「表向きはそうですが」

「表も裏もあるかよ。戒律じゃねえのかよ」

「しかし、私はいつも皆さまと肉を食べておりますが。この貧乏くさい煮込みにも干し肉のかけらが入っておりますぞ」


 言われてみればそうだった。食べる姿が自然過ぎて、疑問に思ったことすらなかった。


「戒律も大切ですが、神は何より人が生きることを望んでおられるのです。他に食べるものがなく飢えに苦しむような場合であれば、肉を食べることも許されるのですよ」

「お前はいつも飢え死にの危機にあるのかよ」

「似たようなものではないですか。日ごと夜ごと、ロハス殿が食材をケチりにケチった粗末な料理しか口に出来ないのですぞ。既に苦行です」


 苦行なのは確かだが、いくら何でも教義を拡大解釈しすぎではないだろうか。とオウルは思ったが、もともと拡大解釈しまくらなければこの規格外神官は存在することすら不可能なのだった。肉を口にするくらい、当然かもしれない。


「いいね、分厚い肉。ちょうど料理が出来た、おいしい肉を想像しながらこの煮込みを食べるんだ」

 出来立ての料理を皿によそって、ロハスはアベルに差し出した。


「さすがにこれを肉料理と思いこむのは難しいのではないですか」

 アベルは抗議したが、

「大丈夫、信仰心があればいける。アベルは大神殿の神官でしょ、出来るって」

 ロハスも譲らない。


「荒行が過ぎますぞ……」

 アベルは煮込みを見て情けない顔になった。今回に限ってはアベルの方に理がある。オウルも自分の皿を見て、そう思わずにはいられなかった。想像の翼を広げるのにも限界というものがあるだろう。


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