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最強船長、陸に上がって大暴れ 番外編  作者: 宮澤花
女魔術師、家に帰る
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女魔術師、家に帰る (4)

 小屋を退去する時はバタバタしていた。雪嵐がひどくて、迎えに来てくれた町のものたちはみな不安な顔をして焦っていた。


 記録を運んでくれた男が、何度か本の山を崩して床にぶちまけた。彼女は憤慨して自分で運ぶと主張したが、時間がかかりすぎるからと却下された。大切な父の遺品が乱暴に扱われるのことに、マージョリーは耐えなくてはならなかった。


 そしてあの、一歩先も見えないほどに荒れ狂った恐ろしい吹雪。知識に自信はあっても、彼女は荒事に向いた魔術師ではない。馬車の中で毛布にくるまって、父の記録を守りながら震えているしかなかった。


 時折、馬車が倒れそうになるほど揺れ、記録はちらばった。分厚い本が荷台から滑り落ちそうになるのを必死で押さえた。幌の中に吹雪が吹き込んできて彼女の顔を打った。氷の粒を叩きつけられたようでひどく痛かった。町に近付くにつれ嵐がおさまっていくと、安堵で目頭が熱くなった。


 思い出すだけで気持ちが沈む旅だった。マージョリーは首を振って、思考を立て直す。


 書斎、居間、玄関。小屋の中で記録を運んだ道筋はもう全て確認している。ちぎれた頁が落ちていれば、気付かなかったはずはない。であれば父の研究の一部は、あの逃避行の中で失われてしまったのか。

 なくなった箇所をもう一度確認した。綴じられた研究記録の半ば過ぎ、六章の最後と七章の冒頭部分が失われていた。


 彼女は大きく息をついた。


 それは父のたどり着いた、ひとつの結論。父が構築しようとした、ひとつの仮設。両方の根幹となる部分。父の理論の核ともいえる一頁。

 よりによってその部分が失われたことに、マージョリーは何かを感じずにはいられなかった。


 さほど信心深い方ではないけれど、それでも神の意志、天の配剤のようなものはこの世に存在するのかもしれないと思ってしまう。

 父のたどり着いた、最も輝かしい到達点。同時にぬぐい切れぬ父の罪であり、父の闇。だから永遠に喪われたというのなら、きっとそれで良かったのだ。


『父の死の真相を知りたいんです』

 記憶の中で、胸をえぐるような声がした。訪ねてきた少年のまっすぐな瞳が痛くて、あの時も彼女は顔を背けた。


 どうしてそこまでして知りたいのか。彼女は質問した。少年にとって、父親とはそんなにも大切な存在だったのだろうか。そのために命をかけるほど、彼は父親を愛していたのだろうか。


 すると少年はちょっと首を傾けて、

『どうしてだろう。……俺は父のことはほとんど覚えていないんです。だから何のために生きて何のために死んだひとだったのか、それを知りたいのかもしれない』

 と答えた。


 そんな親子もあるのか。そんな生き方もあるのか。単純に驚いた。そして彼女は少年に協力することにした。

 もし彼女があの少年の立場だったら、命をかけてまで父の求めたものを知ろうとしただろうか。彼女は自分に問いかける。


 父と自分はしょせん別の存在だ。求めるものも、たどり着きたい場所も違うのだ。そんなもののために命をかけることはできないし、荒野を旅することなどできない。そんな熱い血は、彼女の中に流れていない。


 マージョリーにとって、タラバランは遠い存在だった。温かい交流など思い出せる限り一度もない。彼女は常に弟子であり助手であり、相手は常に父というより師であった。


 魔術師の都で生まれ育った彼女は、太古の魔術に興味を持った。喪われた過去の術式、現大地は違う術構築。召喚術の大家である父とは違う分野に興味を持ったのは、彼女の小さな反抗だったのかもしれない。


 それでも、都を離れて隠退する父についていく道を選んだ。自分の研究を貫くなら、残るべきだった。こんな田舎に引きこもってしまっては、ろくな資料に出会うこともできない。わかっていたのに残らなかった。不思議と父も反対しなかった。


 もしかしたら、互いに求めていたのだろうか。師弟ではない、ただの父娘という関係を。

 魔術や研究といった媒介を必要としない、家族としての交流を。


 だとしたら最後まで叶わなかったのだけれど。父も自分も魔術師でありすぎた。息を引き取る瞬間まで父は先達の研究者であり、彼女は後進に過ぎなかった。


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