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第八十五話 雪解け

大変お待たせしました。

終章・新生編、始まります!

 雪の中に小さな緑が見え始めた。中庭の花壇は相変わらず綺麗な花が咲いている。雪の中でも鮮やかな色が並び、手入れが行き届いているのが分かる。


 黄竜の背に乗ってフェルス王国に戻ってきた時は、大騒ぎだった。黒竜の次は黄竜か! と国王様も酷く慌てたらしい。そりゃそうだ。

 魔属領に行こうとしていたけど、途中でダルシオンさんに手紙が転送されてきた。


『魔王討伐。負傷者多数。フェルス王国にて合流』


 なんともサントスさんらしい文面だった。海と私が『負傷者多数』に反応して魔族領に行こうと言い出したが、ダルシオンさんに無視された。なんでも『死傷者』じゃないから大丈夫、ということらしい。

 不満だらけで2人でぐちぐちダルシオンさんに文句言っていたら、シルビアさんに笑われた。ペーター君は焦ったようにオロオロしていたし、グレンさんはそんな様子を眺めているだけだった。


「ナコ? 寒くないの? 風邪ひくわよ?」

「あ! 王妃様!」

 振り向くと、いつもの笑顔を浮かべた王妃様がいた。だけど少し疲れているようにも見える。

「王妃様、ちゃんと休んでます?」

「大丈夫よ。色々準備も整ったし、みんなの容態も安定してきたから、昨日はぐっすり眠れたわ」


 王妃様は大勢の負傷者の看病をずっとしていた。かくいう私もだけど。


 ルークさんは内臓飛び出るくらい横腹がえぐれていた。でもライネル様とエステル様の迅速な処置のおかげでなんとか命を繋いだ。

 さっき騎士団の近くを通りかかった時に、大きな声でシルビアさんと言い合ってる声が聞こえたけど……寝てなくて大丈夫なのかな?


 チャミ君は片目を失くした。「眼帯カッコいいだろ?」とドヤ顔していたけど、ジョン君がこっそり「本当は痛くて眠れてないんだよ」と教えてくれた。

 それを知ってか知らずか、海は毎日のようにチャミ君に、似合ってる、カッコいい、貫禄が違うね、と声をかけている。気にしてるんだろうなと、私にはわかる。


 ペーター君は魔族の姿ということもあって、表には姿を現さない。天昇の儀もやってしまったから死人扱いだ。かわいそうだけど仕方ない。今は身を隠しながら、サントスさんの手伝いをしている。

 サントスさんも死人扱いだからちょうどいいのかな? 多分これ言ったら怒られるな……黙っておこう。


 グレンさんは魔法室に入り浸っている。動けないはずなのにいつもソファに座って、横から口を出してくる。ダルシオンさんに魔法を叩きこんでるらしい。私も何回かボロクソに言われた……。部屋で海にめちゃくちゃ慰めてもらった。

 余裕たっぷりな雰囲気は健在で、余命僅かとは思えない。正直、声を聞くだけで背筋が伸びるようになった。


「そういえば、カルロがあなたを探していたわよ? 儀式のことで相談したいって」

 王妃様の言葉に、ソワソワしながら走り回っているアライグマ・カルロが想像できた。

「そうなんですか。魔法室かな?」

「行ってあげて」

「はい。ありがとうございます」


 歩き出してから、すぐ振り返って王妃様にいたずらっぽく言った。

「王妃様。クマやばいです」

「うそ! 隠さなきゃ!」

 慌てる王妃様と笑い合った。可愛い人だな、と思ってしまったが、声には出さないでおこう。





 魔法室の前に来ると、中から会話が聞こえた。

 ダルシオンさんとカルロさんの声。中の気配を探るとグレンさんは居なさそう。

 私は大きく息を吐いてから扉を開けた。


「カルロさーん。探してたって聞きましたけどー」

「あ! ナコさん! よかった探してたんだよ。天昇の儀のことでさ」

 カルロさんが安堵したような顔で振り向いた。そしてその後ろにゾンビみたいな顔のダルシオンさんを見つけてしまった。

「ダルシオンさん……」

「言わなくて結構。さっきまでマスターがいました」

「……お疲れ様です」

 色々察して、その言葉しかかけられなかった。ご愁傷さまです。


「それでナコさん。天昇の儀の魔法はうまくできてる?」

「はい。今朝も成功しました。本番も大丈夫だと思います」

「よかった。本当に急で申し訳ないよ……」

 肩を落とすカルロさんに返事をしたのはダルシオンさんだった。

「カルロ殿、あなたはもう魔法が使えないんです。気に病む必要はありません」

「そうなんだけど……」

 いじいじしているカルロさんから目を逸らしてしまった。


 カルロさんはもう魔法が使えない。

重奏辺撃魔法じゅうそうへんげきまほう』とかいう、言いにくい禁断の魔法を使ったらしい。

 サントスさんを庇うために咄嗟にその魔法で魔王を殺した。

 フェルス王国に戻ってきて、カルロさんが教えてくれた。

「相手の魔法に自分の魔力を上乗せして打ち返す魔法だよ。咄嗟のこととはいえ僕は全魔力を上乗せしてしまった。上乗せした魔力は戻らないんだ」

 悲しむわけでもなく、淡々と話しているカルロさんになんて言ったらいいのか分からず、今もその話題は苦手だ。


「カルロ殿、魔法学校はどうするんです?」

「あぁ、それは順調に進めているよ。魔法使えなくても教えられるしね。どうしても魔法を見せるときは君やナコさんに頼むつもりだからよろしく」

「「えっ!」」

 私とダルシオンさんの声が重なった。

「え? サントスから聞いてない?」

「「聞いてない!」」

 また重なってしまった。

 カルロさんは苦笑いだが、ダルシオンさんはご立腹だ。

「あのクソ宰相……また勝手に色々決めやがって……」

 サントスさんの勝手ぶりは今に始まったことじゃない。でも……マジかぁ……。


「ナコさん」

「はい!」

 急に呼ばれてちょっとびっくりした。

「さっき海さんが来て、マスターと一緒に部屋に行ったんだ。そのソファからシュっと消えたから多分2人で話してるんだと思うけど……様子見てきてくれないかな?」

「え? マスターの部屋ですか?」

「うん。彼動けないから転移魔法で移動してるんだよ。ここと自室を」

 あーなるほど。それでいつもソファにいるのか。

「了解でーす」

 私は1人納得して、くるりと方向転換した。


 扉に手をかけると、後ろからダルシオンさんの声が聞こえた。

「2人の会話、盗み聞きしといてください。ちゃんと気配消してくださいよ?」

「はいはい、わかってますよ」

 適当に返事をして廊下にでる。

 これから向かう場所で2人の会話を盗み聞きできるのは私だけ。損な役回りだ。バレたら絶対グレンさんの怖い笑顔が降り注ぐだろう。

「よし! がんばれ私!」

 気合を入れて、気配を消して、歩き出す。


色々みんなの状況を説明する回になりました。

傷は深いですが、その先の世界が始まる意味を込めて『新生編』と名付けました。


次回の更新は【5月4日 21:00】を予定しています。

毎週 月曜、水曜、金曜の21時更新です。


最後までお付き合いいただけると幸いです。


また、Xにてイメージ画を投稿しました。

覗いてみてください。

X→ @to_nan_turuimo

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