第八十四話 解放
Xにてイメージ画を投稿しました。
今回はナコです。第十五話、第十六話の再会シーンをイメージしました。
よろしければ覗いてみてください。
X→ @to_nan_turuimo
「黒竜と白竜が……死んだ」
補佐の子の言葉が部屋中に充満した。
わたくしはいつの間にか聞き返していた。
「今……なんて?」
その問いに彼は答えず、震える手で手紙を握りしめている。代わりに聞こえてきたのは冷たい宰相の声。
「あなたが所望した黒竜と白竜が死にました。残念ですがあなたの望みを叶えることはできなくなってしまいましたね」
白竜は黒竜の力がなければ死なないはず。黒竜が……ハナが殺したの? まさか記憶が戻った? それなら逆に殺さないはずだわ。殺せるわけがない。
黒竜も死んだってことは自らを消したということ?
嫌よ。ダメ。そんなの信じないわ。
「白竜も黒竜も死んだということは……カルロ……」
「うん……多分、器だったマスターも海さんも……」
2人が会話をしている。頭が働かない。
「海殿が暴走してそのまま……ということでしょうか」
「分からない。ここには黒竜と白竜が死んだことしか書いてない。あとシュウは死んで、リクはどこかへ消えたみたいだ。ダルシオン、シルビア、ナコさんも生きてる……と」
宰相がホッとしたように見えた。眉を寄せてわたくしをチラチラと見てくる補佐の子。
わたくしはその視線も気にしない。ただ空間を見つめる。
シュウは死んだのね。戦いの中で死ねたのなら本望でしょうね。
リク……あの子は読めない子だったわ。きっと彼は自分のやりたいようにしてるはず。
外から戦闘の音が聞こえる。
アヤが頑張ってくれてるのかしら。本当に都合のいい子だったわ。
不思議ね。彼が死んだって何も変わらないのに。
わたくしを理解しようとしてくれた唯一の存在だった。でも理解してもらえなかったわ。それでもよかった。ただ話してるだけでよかった。共感も否定もしない。ただ言葉通りに受け止めてくれた。
罪滅ぼしのつもりだったのかしら? わたくしは気にしないのに。
『情』なんてものを持ってるからね……きっと。
「魔王」
「なにかしら」
呼ばれて顔を上げる。
「いかがされますか?」
「なにが?」
宰相の言葉が理解できない。
「あなたの停戦要求を呑めなくなってしまいました」
「そうね」
ただ相槌を打つように声を発するだけ。
「我々は魔族と友好関係を築いていきたいと考えています」
「わたくしはいいけど、他の魔族がそれを許さないのよ。ナギなんて特にね」
ナギはどうなったかしら? あの子はたまに癇癪を起した。記憶が零れてくる時に。かわいそうな子。
「君の力で何とかならないのかい?」
「あの子たちを縛り付けるつもりはないわ。自由に好きなように生きることがわたくしの方針なの」
わたくしは自分と同じように、他の子も好きにさせてあげていた。それが功を奏したのか、誰もわたくしの座を奪おうとしてこなかった。正直つまらなかったけど……楽だった。
静寂の中にかすかにわたくしを呼ぶ声が聞こえる。
「魔王様!」
アヤの声。わたくしの元に来ようとしているのね。
それを聞いて補佐の子が慌てだした。
「サントス! もう時間がない!」
宰相は小さく頷いて、わたくしをジッと見つめてきた。そして抑揚のない声で質問を投げかけた。
「魔王。あなたの望みはなんですか?」
わたくしの望み? そんなのもう叶わないわ。
黒竜が死んだならこの世界は崩壊しない。わたくしは永遠にこの世界の住人となった。
白竜が死んだならこの世界に未練はない。わたくしは永遠にこの世界で幸せになれない。
ねぇ? あなたはわたくしを助けてくれるんじゃなかったかしら?
わたくし覚えているのよ? 初めてこの世界に来て、魔法使いとして冒険者たちと出会う前。あなたの魔法に魅せられたの。
水を操って美しい光景を作り出して子供たちの笑顔を引き出していた。
火をおこして凍える人々にぬくもりを与えていた。
病を治して、死者の墓穴を掘って弔っていた。
貴方の魔法を見て思ったのよ。
『なんて美しい』
魔法が美しかった。それを難なくこなすあなたが美しかった。
隣に立ちたかった。対等になりたかった。魔王討伐なんてどうでもよかった。憧れのあなたを見ていたかった。
「ふふふ……」
不思議ね。勝手に笑いが込み上げてくるわ。
「ど、どうしたんだい?」
窺うように見てくる補佐の子がかわいく見えてきた。あの顔……思い出したわ。わたくしの力を奪ったアイツと同じ顔。この子はその子孫ってわけね。
「ふふふふふふふふ……」
これも縁なのかしら。アイツに奪われて、アイツの孫に殺されかけて、アイツの血縁者が目の前にいる。
「なんてこの世界は美しいのかしら!」
右手を宰相にかざす。指先が震えているのが分かる。
後ろの扉が勢いよく開いた。
それと同時にありったけの魔法を放った。わずかに残っている魔力を使って。
「魔王様!」
アヤ……わたくしの可愛いアヤ。あなたはとてもいい子だったわよ。後で褒めてあげなきゃね。
「サントス!」
補佐の子の叫びが聞こえて、わたくしは後ろのソファに身を預ける。
胸にぽっかり穴が空いてしまった。わたくしの心は……いつから空っぽだったのかしら……。
◇
赤い猫の片目を射抜いた。
「いってぇぇぇぇ!」
「チャミ!」
グレーの猫が赤い猫を庇うように立ち塞がる。そこへ魔族たちを一斉に襲わせた。その隙に私は城の中に向かう。速く飛ぶのは苦手だ。でも今はそんなことどうでもいい。
「魔王様!」
あの方の側を離れてしまった。全部……全部ハナのせい!あいつがここに来なければこんなことにならなかったのに。
後ろから矢が飛んできた。ギリギリ躱して床に転がる。痛む体も、矢がかすめて血が出る翼もそのままに足を動かした。
「待て!」
グレーの猫が叫んでまた矢を放ってきた。今度は風魔法を纏わせている。避けても竜巻が行く手を阻む。
「邪魔しないで! 魔王様のところに行かなきゃいけないの!」
体中が疾風に切り刻まれながら竜巻を無理やり通り抜ける。
痛い。体中が。血が点々と私の足跡となっている。
ようやく魔王様の部屋が見えてきた。大きく、重厚。何度も何度も訪れた場所。
走ってきた勢いのまま扉を押し開ける。
「魔王様!」
世界が凍り付いたように固まった。目の前の光景がスローモーションに見える。
宰相を突き飛ばしながら赤黒い魔法を放つ男。
赤黒い魔法が魔王様の胸を貫いている。
美しい漆黒の長い髪が揺れている。
そのままソファに崩れるように倒れる魔王様。
魔王様は心から笑っているように見える。
ソファでぐったりしている魔王様は……美しかった。
私は糸が切れたみたいにその場に崩れ落ちた。
心の中にある何かが崩れた。
「私……なんで……魔王様……」
自分がなぜ今まで魔王様の為に尽くしていたのかが分からなくなった。あんなに憧れていたのに。側にいたくて何人も殺して、騙して、蹴落としてきた。魔王様の側近の座を手に入れたくて。
でも今思うと、なんであんなに死に物狂いでやっていたのだろう。
「アヤ」
名前を呼ばれて顔を上げる。
宰相が手を差し出している。
「あなたは魔王に呪いをかけられていたのです。従順になる呪い」
宰相の向こう側には座り込んで、私をジッと見つめる男。魔王様を殺した男。
「……呪い……」
私の頭は真っ白になった。
何も考えられない。何も聞こえない。何も見えない。
魔王様……こんな時はいつもあなたが助けてくれた。私……どうしたらいいの?
カレンの本音と最期は、私自身とても悩みながら書きました。
彼女をどう感じていただけたか、教えてくださると嬉しいです。
次回からいよいよ終章に入ります。
ここまでお読みくださり本当にありがとうございます。
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誠に申し訳ございませんが、少しお休みをいただきます。
次回の更新は【5月1日 21:00】を予定しています。
最後まで一緒に見届けていただけたら幸いです。




