第七十七話 共感
目を開けたら真っ暗だった。
何も見えない。音もない。自分の輪郭すら分からない。
あの時と……黒竜の中にいた時と同じ。
『海』
私を呼ぶ声がした。どこから聞こえるのか分からない。でも聞いたことのある声だ。何度も……何度も暗闇の中で聞いた声。
「黒竜……」
『そうだ』
暗闇の中に大きな黒い影が浮かび上がってきた気がする。私は不思議と安心した。
「私……何をしたの」
自分の声が震えてるのがわかった。
さっきの光景が頭に焼き付いて離れない。
シュウの胸に短剣を突き立てた自分の手。
苦しそうにもがくシュウ。
血まみれなのに優しく微笑んでくれるマスター。
気づいたら……そうなっていた。
『お主は仇を取った』
黒竜は淡々とした口調で言う。
「違う……私はあんなこと……」
『お主がやった』
黒竜が現実を突きつけてくる。
真実を言っているとわかっているのに認めたくない。
黙ることでしか返事ができない自分に腹が立つ。
「マスターを……傷つけた……」
『あぁ』
「シュウを……殺した……」
『あぁ』
「ペーター君は……覚えてくれてたのに……私は……何も……」
言葉が続かなかった。暗闇の中で体が震える感覚を覚えてその場にうずくまる。両腕をギュッと爪を立てて握る。込み上げてくる何かを必死に押し込めるように。
すると黒竜がゆっくり近づいてきた。
『海』
「なに……」
言葉を発するのも怖い。また誰かを傷つけてしまいそうで。
『白竜はまだ生きている』
「マスターが無事ってこと?」
『あやつも生きてる。だから白竜も生きてる。……だが……』
黒竜の言葉の続きを黙って待つ。
『我はもうここで終わりにする』
「え?」
終わりにするってどういうこと?
『頼みがある。白竜を……死なせてやってくれ。あいつはずっと恐れていた。本当は終わりたかったんだ。お主ならできる』
「黒竜はそれでいいの?」
黒竜は数秒黙った後、悲しそうに呟いた。
『我ではできない。お主と同じだ』
「白竜を説得できるって言ってたよね?」
『すまない』
「諦めるの?」
『……違う。我は白竜の隣に居たかったのだ』
黒竜は少し間を置いてから、覚悟を口にした。
『白竜の背中ばかり見ていた。隣に並びたいと思った。だが……それはもう叶わない。ならば我は、最後だけでも白竜を導きたいのだ』
黒竜の考えてることが手に取るようにわかってしまった。私はかける言葉が見つからず、黙っていた。
『お主は親友のために生きろ。我にできなかったことをしてくれ』
黒竜は自嘲するように笑った。
『我を卑怯者と罵るか?』
私は首を横に振った。
「あなたは優しいから。同じ立場なら私も同じことをする」
黒竜は何も言わない。でも笑った気がした。自嘲ではなく、心から安堵したように。
『ありがとう、海』
その言葉を最後に、私はまばゆいほどの光に包まれた。同時に黒竜の鳴き声を耳にした。
キュイキュイ!
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