第七十話 仇討ちのその先
アルバーノ伯爵領に来て、ライネル様の案内で竜がいるという火山に向かった。
私は火山の入り口付近で山を見上げている。
「ルーク! 入山の許可と、麓の町の退避をお願いしてきた」
「ライネル様、ありがとうございます。どこに被害が出るかわからないので。助かります」
「あぁ。では向かおうか」
「はい」
私とライネル様は、先に入口で仁王立ちして待っているエステル様の元に向かった。
「母上。お待たせしました」
「お! もういいの? それじゃあ行きましょうか!」
ハーフエルフのエステル様とライネル様、そして騎士団長の私の3人だけだ。他に人を連れてこなかったのには理由がある。
守るものが少なければ少ないほど戦いに集中できる。
ライネル様とエステル様にはすでに話してあり、いざという時は私を置いて逃げるようにと伝えてある。そして、これから来るであろうナギが私の仇であることも。
フェルス王国を出発する前、私の親友であり、師でもある獣人のモーリスと話をした。モーリスは城下町の片隅で小さな研師として店を構えている。ナギに片腕を奪われても、彼は変わらずいい奴だ。
「は? ナギと決着? お前それ何回言ってんだよ!」
冗談か何かだと思って笑い飛ばしているモーリスを黙って見つめる。それを見たモーリスは「まじか?」と喉を鳴らした。
「……勝てんのか?」
「分からない」
「片腕なんだろ?」
「切り落としたからな」
短い言葉のやり取り。だが私たちはそれだけで十分だった。
「兄貴の……仇か?」
「……わからない」
「お前は今も変わらず俺の親友だ。第一騎士団長じゃない。俺の親友」
「……あぁ」
私の返事にモーリスは手を止めて顔を上げた。
「死ぬなよ? お前の天昇の儀だけは絶対行かないからな」
「見送ってくれないのか?」
「馬鹿野郎」
私はフッと笑ってモーリスに背中を向けた。
「行ってくる」
モーリスの返事はなかった。視線だけが背中に注がれていた。
火山を登りながら、頭の中でナギを殺すイメージをする。頭の中では何度も殺している。だが現実はそうはいかない。何度も何度も機会はあった。なのに最後で追い詰められない。私の弱さなのか覚悟が足りないのか。
仇討ち……。ナギは私の兄を殺した。優しかった村のドワーフ達もだ。許さない。
私は火山の頂上を見つめながら愛槍を握りしめた。
◆
海さんが飛んで行ってしまった。すぐに追いかけたいが、それどころではない。僕たちは襲い来る魔族に対応するのに必死だ。
「ジョン! チャミ! 騎士団の指揮をとってくれ! 隙をついて僕とサントスは魔王のところに行く!」
2人はショックだろう。だが君たちは騎士団長代理なんだ。今こそ力を貸してくれ。
海さんがいなくなって、魔王は踵を返して城の中に引っ込んでしまった。アヤは城の前で仁王立ち。魔王の元には行かせないって事だろう。
防御魔法で雨のような攻撃を躱しつつ、僕はサントスの側を離れない。彼は非戦闘員だ。なにがなんでも僕が……魔術師である僕が守らないと。
ようやく僕の願いが通じたのか、獣人2人は奥歯を噛みしめながら走ってきて、騎士団に喝を入れた。
「宰相とカルロ先生の道作るぞ!」
「アヤはチャミと僕で対処する! それ以外を頼む!」
僕はふぅと息を吐いてサントスに小声で聞いた。
「サントス。海さんは西大陸に行ったのかな?」
「えぇ、おそらく。ですがあちらにはマスターもいます。何とかなることを祈るしか……。こちらは停戦のことだけ考えましょう」
表情は変わらないが、サントスも海さんのことはショックだろう。宰相としての役割を優先してきた結果がこれだ。
「サントス。海さんが戻ってきたらちゃんと謝れよ?」
「記憶がないなら謝る必要ないのでは?」
僕はサントスを睨んだ。
「わかりました。全く……カルロはそうやっていつも私を虐めるんだから」
「教育だ……よ!」
攻撃を振り払うのと同時にサントスに言い返す。
頭を抱えてうずくまりながらサントスが話しかけてくる。
「カルロ、魔王に対して感情が出すぎです。家系を考えればわかりますが、外交には向いてませんね」
「そうかな。普通に接したつもりだよ。ただ魔王だからね。力入っちゃったのかも」
父が死んだのは、幼いころ授かった魔王の力を使って自爆したようなもの。直接魔王が殺したわけじゃない。だから仇なんて思ってない。
それに元々、仇討ちするほど肝も据わってないし、覚悟もない。ルークのように。
きっとこれはあれだ。仇討ちを通り越した感情だ。魔王ではなく、仇を生み出すこの世界を変えたいんだ。僕は過去より未来の方が心配だから。やることがいっぱいなんだ。魔法学校の設立も走り出したばかり、フェルス王国の財政も不安定、流通も整えないと。
「カルロは変なところで思い切りがいいですよね」
「サントス。そういう話は帰ってからにしようよ。あ。頭下げて」
飛んできた矢を魔法で吹き飛ばす。
「もう帰りたいなー」と小さく呟いたサントスを無視して、周りの状況を確認する。
するとアヤとチャミがぶつかり合う音が聞こえた。そしてジョンが僕らに近づいてきた。
「今のうちに!」
その言葉を聞いて、僕とサントスは走った。
矢が飛んできて、魔法が飛んできて、魔族が追いかけてくる。
「サントス走って!」
「これでも走ってます!」
無我夢中で走った。もたもたしてる……全力疾走してるサントスの腕を引きずるように城の中に飛び込んで門を閉じた。
「……はぁ……はぁ……サ、サントス……生きてる?」
門に背を預けて、目の前でうつ伏せで息をしている病弱宰相に声をかける。
彼はゆっくり右手を上げて、親指を立てた。
「帰ったら何日でも寝込んでいいから、今だけは働いてくれ」
「……はい……」
切羽詰まった展開でたまに見えるコミカルなシーンが好きです。キャラ同士の深い繋がりがチラッと見えたときのご褒美感。
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