第六十九話 西大陸上陸
決戦編突入です。
心のボヤキ→AIって難しいなぁ。自分で絵が描けたらいいのに。
青竜の背中というのは思ったより揺れない。船よりはマシだし、水もないからそこまでではない。
だが高い。恐ろしく高い。下を見ると胃の中身が逆流しそうになるから見ないことにした。
「ダルシオンさん! 見て! 西大陸見えてきましたよ!」
ナコ殿が嬉しそうに声をあげている。俺は前を向いたまま答えた。
「見えてます」
「竜酔いですか?」
「竜酔いなんてあんのかよ。あはははは!」
俺はナコ殿とシルビア殿を睨んだだけで言い返さなかった。というより口を開くのも面倒になった。
シルビア殿は風を受けながら「いや~快適だわ」と言っている。このイノシシ団長は本当に何でも楽しめる人だ。そしてマスターは……また本を読んでいる。竜の背の上で本を読む人間を俺は他に知らない。
「青竜ありがとね」
ナコ殿が青竜にお礼を言っている。青竜は唸っているだけでなんと言ってるかわからない。けど関係なさそうにナコ殿は話しかけている。会話成り立ってなさそうだな。
チラッとマスターを見るが、彼は通訳する気がないようだ。
西大陸の海岸線が見えてきた。自然は東大陸と同じだが、街並みが全く違う。恐らく魔族の襲来で破壊されたのだろう。
人間はまだいるのだろうか……。
青竜が降下を始めた途端、俺の胃がまた主張し始めた。
急に降下するな!
そんな俺のことなど関係なく、マスターが本を閉じながら言った。
「落ちても自己責任だからな」
ナコ殿の叫び声とシルビア殿の笑い声が響き渡る。
ドンっという衝撃と共に青竜が地面に降り立った。
ナコ殿はシルビア殿にしがみついてガタガタ震えている。
「怖かった……。死んだかと思った……」
「さっきまではしゃいでたのに。ナコ変なところでビビるよな」
シルビア殿に抱えられながら降りたナコ殿は苦笑いをしながら「へへ……」と言っている。
俺はどう降りるか悩んでいる。そしてゆっくり動き出そうとしたら後ろから蹴られた。
「ダルシオン。早く降りろ」
俺はベシャっという音と共に地面と再会して、師を睨みつけた。
「人を蹴るなんて……」
スタっと軽々降りた師は意地悪そうな顔をして見下ろしてくるだけ。俺は舌打ちをして立ち上がった。
ナコ殿とシルビア殿がこちらを見て笑っている。俺はまたも舌打ちした。
「ありがとう青竜」
ナコ殿が青竜に声をかける。青竜は鼻を鳴らして答えた。
「さて。以前来た時より荒れてるな」
マスターが西大陸の景色を見渡しながら口を開いた。
それに続くようにシルビア殿がため息をついた。
「人間住んでんのか? まさか魔族しかいないとかないよな?」
俺は悪態をつく。
「そもそも青竜が来たことに気づいて、魔族が集まってくるのが一番嫌なんですが」
するとナコ殿が不安そうに青竜を撫でた。
「青竜は危ないから帰った方がいいですよね? 狙われちゃうかも……」
「まぁそうだな。こんなデカい的を守るのは骨が折れる。青竜、もういいぞ。ご苦労様」
マスターの言葉に怒りを露わにした青竜が唸って、今にもマスターに嚙みつきそうだ。
「なんだ。俺たちに手を貸してくれるのか?」
意地悪そうな顔のマスターを、俺たち3人は黙って見つめる。青竜の言葉が分からないからマスターの言葉から推測するしかない。
「わかったわかった。それでいい」
話がまとまったのか、青竜はその場に大人しく座った。
俺はマスターを見つめた。ナコ殿とシルビア殿もだ。その視線に気づいたマスターがフッと笑う。
「緑竜の仇をどう取るのか見届けないと気が済まないそうだ。もちろん手は貸さない。傍観するだけだ」
ナコ殿はそれでもいいのか、微笑んでいる。だがアレはそうはいかない。
「はぁ?! なんで! 見てるんなら手貸せよ!」
憤りを隠せないシルビア殿は青竜に向かって吠えている。
「お前が死にそうになっても助けてやらないからな! 自業自得ってやつだ!」
青竜が唸る。
「あぁ? 何言ってんのかこっちはわからないの!」
意思疎通もできてないのにイノシシ団長と青竜は喧嘩を始めた。
器用なものだ、とため息が出た。
ギャンギャン騒いでいるのを呆れながら見ていると、マスターが低い声を出した。
「おい。その辺にしておけ」
シルビア殿はピタリと止まり、剣に手をかけた。
「来たな。どっちだ?」
「わからん。ここの魔族ならいいが……あっちだと面倒だ」
「2人来るんだよな? 私はどっちを?」
「シルビアは状況に応じて……いや待て。両方だ。かなりの大群だな」
「ちっ! 最悪だ。大群と四天王2人同時はきついぜ?」
シルビア殿とマスターが話を進めている。もしやと思い、魔力感知の範囲を広げた。
僅かだが、山の向こうから大群の何かが向かってきている。恐らく西大陸の魔族だろう。
そして問題は海からやってくる方だ。リクとシュウ。どうしたものか。
「あのー。どうしたんですか?」
一人すっとぼけた声を出したのはナコ殿。この戦いで最も重要な人物がこの状況を理解していない。
俺はため息を吐いて、説明した。
「ナコ殿。西大陸の魔族が大群でこっちに向かってきています。そして、海の方からリクとシュウが来ています。あなたのやること……わかってますね?」
一瞬にして顔を強張らせたナコ殿は、息を大きく吐いて頷いた。
「光魔法で西大陸の魔族を撃退。それが彼らを救うことになる。きっと元の世界に戻れるから。そして、リクとシュウは説得。ダメなら西大陸の魔族と同じように対処」
「その通りです。あなたはなにがなんでも死ぬな。死んでも働け」
「鬼畜魔術師」
ナコ殿は笑顔で悪口を口にした。俺は同じようにニヤリとして答えた。
「へっぽこ天才魔術師」
青竜を離れた場所に向かわせて、私たちは崩れかけた町の真ん中まで来た。恐らく広場か何かだったんだろう。
そしてついに来た。
幸いなのは、西大陸の魔族よりこっちが先に来たこと……。
「待たせたな。マスター」
姿を現したのは2人の魔族。1人は穏やかな笑みを浮かべた男。もう1人は無精髭を生やした大柄な男。
私はグレンさんを横目で見た。グレンさんは表情を変えない。
「久しぶりですね。マスター。あの日の決着をつけましょうか」
私は黒竜を奪い合った時の戦いを思い出して体が震えた。怖いわけではない。ペーター君を失ったあの瞬間の無力感を思い出したからだ。
もう誰も失いたくない。
ただそう思った。
するとシルビアさんが私の前に来て、剣を構えながら囁いた。
「ナコ。油断するな。いつでも攻撃できるようにしとけ」
「はい」
私は拳をぎゅっと握って、余計な力を抜いた。
両者が睨み合っていると、ダルシオンさんが挑発するように投げかけた。
「リク、シュウ。マスターを殺しに来たんですか? それとも、ここの魔族とお話ししに来たんですか?」
リクは表情を変えずにいるが、シュウは癇に障ったのかしかめっ面をしている。
「ダルシオン。君をここで殺すのは惜しいな。君は優秀な魔術師だ。それに後ろの女性陣も巻き込みたくない。僕は平和主義者なんだ……そこをどいてくれるかな?」
最後の言葉だけワントーン下がった。
本気だ。本気でグレンさんを殺しに来たんだ。
私は割り込むこともできずに黙っていた。
ダルシオンさんはグレンさんみたいに余裕そうな顔をして話している。でも多分相当無理してるはずだ。いつも側で見ていたからわかる。
ダルシオンさんは臆病なのを、あの憎ったらしい態度で隠しているだけなんだ。
2人の睨み合いを破ったのはグレンさんだった。
「リク。西大陸の魔族を止めてくれ。そうしたら好きなだけ相手をしてやる」
黙っていたシュウが鼻で笑った。
「おいおい、あいつらに言葉は通じないぜ? 俺らのことも信用しちゃいない」
リクは冷徹な笑みを浮かべた。
「シュウ、西大陸の魔族が来る前にマスターを始末しよう。あいつらが来ると横取りされかねない」
「ああ」
リクとシュウは目をぎらつかせた。
グレンさんは珍しく舌打ちをして、私たちに顔も向けず、指示を出した。
「ダルシオンはリク。俺はシュウ。ナコは隙を見て2人に光魔法を。シルビアはナコを守れ」
シルビアさんはニヤリと笑い、ダルシオンさんは息を吐いた。
「交渉は決裂だ」
グレンさんの言葉を合図に全員が地面を蹴った。
緊張感に私が呑まれてしまい、手がずっと震えてます。
最後までお読みくださりありがとうございます。
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