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第六十七話 残されたもの

快晴、波も穏やか。風も安定。

私は舵を握りながら後ろでぶつぶつ言ってる魔術師たちに声をかけた。

「おーい。そろそろポイントに着くぞ。嵐なんて起こせるのか?こーーーんなにいい天気だぞ?」

真っ青な顔のダルシオンは苛立った様子だ。

「嵐を起こすのはできます。ただ本当に転覆しないと確証があるならです。」

私は口の端を上げた。

「嵐の程度による。でも今まで船を転覆させたことはない!」

ダルシオンがじとーっと見てくるが、私は表情を変えない。

「青竜はきっと高飛車な感じだ。下手に出てお願いしますって頼むのがいいはず。でも待って。緑竜の鱗で誘き出したって思ってるから、初めから怒りゲージは高めってことだよね?怒ってる人をなだめる感じ……かなりハードル高いよな?いやいやここまで来て引き下がれない。」

さっきから気になってることを口にする。

「ナコ!落ち着け。というかうるさい。」

「あ!すみません!でも……あー……どうしようシルビアさん!」

泣きそうな顔で言われても私はどうしようもない。

「言うだけ言えば?食われるかもしれないけど。」

「あーーーーーー!それが嫌なの!」

ナコの発狂ぶりに私もダルシオンもちょっと引いた。

すると本をパタンっと閉じる音がした。

「さて、そろそろ始めるか。ダルシオン、嵐。ナコ、うるさい。シルビア、船を頼む。」

良くも悪くもマスターがいると話が進むから楽だな、と思った。

「へーい」

適当な返事をして舵と帆を確認する。

「嵐……嵐……。」

呪文みたいにぶつぶつ言いながら集中しているダルシオン。

「青竜様……そうか怒りをお収めください。」

祈祷まがいを始めたナコ。

それをいつもの笑顔で眺めるマスター。

やはり私はここに来るべきじゃなかった。面倒ごとを押し付けられただけな気がする。そう思ったが口にはしなかった。


暫くすると空が厚い雲に覆われてきた。真っ黒な雲。そして頬に雫が飛んできた。そしてなんども雫が落ちてくる。船が風に煽られて揺れた。

「おっと!」

「シシシルビア殿!ちゃんと船守ってください!」

顔面蒼白な魔術師の必死のお願いにニヤリと笑って答えた。

「悪い悪い。嵐に集中しろー。」

船の先端に器用に立ってるマスターは海面を見つめている。そしておもむろに例の鱗を取り出した。

嵐の中、そのエメラルドグリーンだけが異様に浮いて見えた。

するとマスターは鱗を海の中に投げ入れた。

え?投げちゃうの?

ポカンと見ていると船底からズンっという振動が伝わってきた。突き上げるような振動。

船が転覆しないように注意しながらマスターの視線の先を見ていると、大きな水柱が出てきた。船なんて蟻みたいな小ささなんだろうなと思うような、デカい水柱。

私は後ろで「でか……」というナコの呟きに、つい頷いてしまった。


青竜が海の中から姿を現した。


「しばらくぶりだな。青竜。」

マスターが話しかけると、それにこたえるように青竜が唸った。

「緑竜の鱗を使ったのは認める。だがこうでもしないと会ってくれんだろう?」

青竜がなんて言ってるのか分からないが、雰囲気的にご機嫌はよろしくないようだ。

するとマスターが振り向いて「ナコ」と呼んだ。

ビクリとしたナコは、恐る恐る足を前に踏み出していく。

「話をしろ。通訳は俺がする。」

ナコは不安に包まれたまま頷いて、青竜に向き合った。

「あ、あの!こ、こんにちは。」

私はズルっと舵から手を放しそうになった。

こんにちはって……挨拶から入るのはいいけど雰囲気に合ってないだろ。

マスターも笑っている。ダルシオンは……それどころじゃないか。

「私たち、西大陸に行って、魔族を止めたいんです。力を貸してもらえませんか?」

青竜は唸る。

「なぜ貴様らの手伝いをしなければならない。西大陸の魔族を滅ぼすのには賛成だがな。」

マスターが通訳する。本当に何言ってるかわかるんだ。

「魔族は異世界人です。異世界人の召喚を止めれば魔族はこれ以上増えません。それから魔族をどうにかします。」

青竜は暫くナコを見つめていたが、近づいてきて船に手をかけた。

「貴様ら人間など、どうなろうと関係ない。勝手に行って勝手に魔族を止めればいいだろう。」

マスターがバランス崩すことなく通訳してるけどこっちはそれどころじゃない。

「おい!船に手かけんな!転覆するだろ!」

私の大声に青竜はフンっと鼻を鳴らして離れた。

「……ったく……」

船を立て直して、ふと後ろを見ると、凍ったみたいに固まってるダルシオンが船の縁にへばり付いて私を見つめている。

「しかたないだろ」っと口パクで伝える。

「急いで行かないといけないんです!どうしてもあなたの力が必要なんです!お願いします!」

ナコが叫ぶように言うが、青竜は顔色一つ変えない。

「我は緑竜を貴様らのような愚かな魔族に殺された。もう貴様らと関わるのはごめんだ。帰れ。さもなくばここで海の藻屑にしてやる。」

通訳したマスターはため息をついてナコに小さな声で何か言った。私には聞こえなかったが、ナコは顔を曇らせたから、良くないことだろう。

私はやはりダメだったと感じて、ダルシオンに嵐を止めろと口を開きかけた。その瞬間、ナコが声を張り上げた。





もう用はない。こいつらと話すことなど初めからなかったのだ。

踵を返して海の底へ向かおうとした時、さっきまでとは違う声色が聞こえた。

「待って。」

振り返らず動きを止めた。

「私は……親友が黒竜に食べられて死んだかと思った。でもその子は生きてて、黒竜になって生まれ変わったの。」

なんだ。自慢でもしたいのか。我はもう……緑竜はもういないのだ。

「親友がいなくなるのは寂しい。でも何より辛いのは……残された方がどうしようとも何しようとも親友は戻ってこないこと。」

我は振り向いた。ナコという人間は真っすぐ見つめてくる。

「緑竜はどんな竜だった?一緒に過ごした時間は忘れてないでしょ?もし立場が逆なら緑竜になんて言う?」

我を失った緑竜に……?何を言うかだと……?

「貴様に言う必要はないだろう。」

「言わなくてもいい。答えはわかってるから。私はそれを実行しようとしてるの。」

白竜を宿した人間は黙って我を見ている。他の2人もだ。ナコは続けた。

「西大陸の魔族たちを救わないといけない。私ならできる。青竜にはそれを見届けてほしい。」

不思議だった。なぜその言葉に動かされたのか分からない。だが我は答えた。

「いいだろう」


大変遅くなりました。申し訳ございません。

この先、最終章に向けて盛り上がっていきます。

最後までお付き合いくださると幸いです。


感想、レビュー、評価など頂けたら励みになります。誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

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