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第六十六話 青竜に向かって出航

東大陸西側の港町。

今日もいい天気だな~と広々とした空を眺めている。

晴れやかな気分だ。さっきまでは……。


「まさか……あなたが来るとは……。マスター、なぜこのイノシシ団長なんですか?」

「ん?シュウとまともに殺り合えるのはシルビアだろうと思ってな。ルークはしっかりイカれた男になってもらわないと。」

「おいおい。助けてくれって泣きついてきたのはそっちだろ?」

「泣きついたのは俺ではなくてマスターです。ついでに言うとその文面も彼の計画ですよ。あなたを調子に乗らせたんですよ。で?ルーク殿は火山に向かわせたと?復讐の鬼にさせる作戦ですか?」

「あぁ。その方が力を十分発揮できると思ってな。」

「その作戦いつから練ってたんだ?ってカルロがブツブツ言ってたぞ?マスター。いつから?」

「シルビア殿黙っててください。今俺が話してるんです。で?いつからですか?マスター。」

「全くうるさい奴らだな。いつからなんて今更どうでもいいことだろう?」

「「どうでもよくない!」」

「仲良しだなお前ら。」

「「仲良くない!」」

漫才みたいだな~。確かに気になるけどいいのかな?急ぐって言ってなかったっけ?

私は仕方なく漫才トリオに話しかけた。

「あのー。出航しなくていいんですか?」

その言葉に3人分の視線を浴びる。

「ナコ!いたのか!おつかれさーん!」

いやいやさっきからいたし。船の上でずっと見てたし。

「馬鹿な話してないで行きましょう。マスター、続きは出航してから聞きますからね。」

ダルシオンさん諦め悪いな。だから鬼畜なんだろうけど。

「面倒だな。ナコ、代わりに話しといてくれ。」

いやー無理かな。全然知らないし。というかそれ海との作戦だったの?絶対違うよね?海そんなことこれっぽちも考えてないよね?グレンさんが勝手に海を巻き込んだんじゃないの?


三人が船に乗り込んでようやく出航した。

出航時もなんか揉めてたけど、生暖かい目で見つめてあげた。

そして予想通り、船酔いで死んでるダルシオンさんの介護は私。舵はシルビアさん。グレンさんは優雅に読書。

なんか私だけ損してない?

「ナコー。これ聞いたらいけないってみんなに口止めされてたんだけど聞いていい?」

突然シルビアさんが聞いてきた。

「え?みんなに口止めされてるのに聞くんですか?まぁいいですけど。」

なんだろう?と思いながら待ってると、死にかけたダルシオンさんが口を挟んできた。

「シルビア殿。ダメですよ。」

「やっぱダメ?でも気になるじゃん?」

私は自分のことなのに、のけ者にされてる気がして嫌な感じがした。

「なんですか?逆に気になります。」

痺れを切らして聞くと、2人ではなくグレンさんが聞いてきた。

「海が魔族になってナコのことも忘れてたらどうするんだ、と聞きたいらしいぞ?」

シルビアさんとダルシオンさんは、信じられない、といった顔でグレンさんを見つめている。

「おい!私だって我慢しようと思ってたんだぞ⁈」

「マスターあなたって人は……。」

私はグレンさんを責めている2人を無視して答えた。

「その時はその時です。思い出すまで話しかけるとか?引っ叩くとか?他にいい方法あります?」

シルビアさんとダルシオンさんは口を開けて固まっている。その様子を見てグレンさんは声を殺して笑っている。

「だって仕方ないじゃないですか!私だって不安ですよ?いざとなったらショックで死ぬかもしれません!でも……でも!だからって今それ心配しても仕方ないじゃないですか⁈むしろ今は青竜説得できるかなって方が心配です!」

私の必死の返答に誰一人反応を示してくれない。それはそれで困る。なんだか恥ずかしくなってきて、追い打ちかけようと口を開きかけた時、シルビアさんが思い出したように言葉を発した。

「あ……そうだ。青竜。どうやって青竜説得するんだ?私なんも知らないけど。」

言われてみると私も知らないことに気づいた。

「青竜と話すのはマスターです。でも……そもそも青竜とどこで会うんですか?」

私とシルビアさんとダルシオンさんの視線が一点に集中する。その期待の眼差しに答えるようにグレンさんは本から視線を上げてニヤリと笑った。

「ここに緑竜の鱗がある。これを餌にあいつを呼び寄せる。あいつは緑竜の気配を察して出てくるだろう。」

グレンさんの手にはエメラルドのようなキラキラした平たい物が光っている。鱗一枚で手のひらより大きいサイズだから、緑竜は相当な大きさなのが分かる。

「つまりそのでっかい鱗を持って海の上で待ってるのか?」

「んーー。正確に言うと誘き出すんだ。嵐を起こす。」

「はぁ⁈」

ダルシオンさんの叫びが聞こえた。

「まさか……嵐の日に海に出たのは青竜に会うため……。嫌だ!絶対嫌だ!」

ダルシオンさんは顔面蒼白で抗議している。泳げないのに嵐は確かに怖い。泳げる私だって嫌だ。

ダルシオンさんを苦笑いで見ながらシルビアさんが話を続ける。

「嵐の程度によるけどよ。船転覆したりしないの?」

「それを阻止するのがシルビアの役目だ。説得は俺とナコだ。ダルシオン。お前は嵐を起こせ。いいな。」

真っ白に燃え尽きてしまったダルシオンさんをシルビアさんはつついている。

「おーーーい。ダルシオン。死んだか?」

私は2人を放置して、グレンさんに近づいて聞いてみた。

「グレンさん。説得ってどうやればいいんですか?」

「知らん。お前が言い出したんだ。自分で何とかしろ。」

「えぇ⁈でも説得はグレンさんがやってくれると……思ってて……。」

「まだ時間はある。考えておけ。」

私も真っ白に燃え尽きた。





シルビアの舵で船は外海へと進んでいく。順調だ。

本から視線を外して弟子を見ると、船酔いなのか、この後の嵐の心配なのか、真っ青な顔をしてぶつぶつ言っている。そしてその反対側には、同じく真っ青な顔でぶつぶつ言っているナコ。


「嵐なんておかしいと思った。あの時、俺はあのままマスターの側にいたら青竜に会えたってことか?考えただけで身震いする。竜だぞ?青竜は気性が荒いと聞いたことがある。絶対食われてた。でもこれから会いに行かないといけないんだよな……。代償とか言われないよな?」

「あーどうしよう。私が青竜を説得するの?無理じゃね?だって竜だよ?神話に出てくるような生き物だよ?でも説得して西大陸行かないといけないし……そもそも西大陸で四天王2人と暴走した魔族たちを退治するんでしょ?負担大きくない?海何考えてるの?あ、でもこれはグレンさんの考えか。海がそんな鬼畜なことするわけないし。」


この2人は似ているな……など思いながら本に視線を戻す。

青竜の説得をナコに任せたのには訳がある。俺では無理だからだ。緑竜を失った青竜は全く話が通じない。仇討ちに行くのを止めるのが精一杯だ。

つまりナコに押し付けた。申し訳ないとは思うがな。

もし説得がうまくいかなかったら転移術でも使うしかないだろう。だがリスクがデカすぎる。また白竜に乗っ取られたら再び俺が戻ってこれる保証はない。

白竜は俺と切り離されるのを恐れている。俺に殺されるとわかっているから。この世界の滅亡を見届けてからでないと意味がない。

海はどうなっただろう?黒竜になったか、魔族になったか。記憶を残したまま魔族になれれば満点。黒竜に呑み込まれてしまったら及第点だな。黒竜なら話が通じる。もし、記憶を失って魔族になってしまったら……一番厄介だ。俺たち側に引き込む必要がある上に、失敗したら脅威になる。

フェルス王国本隊だけで海を救えるだろうか。シルビアの話では獣人2人がいるという。あの2人がどこまで海に影響を与えるかってところか。

それにナギとルークも気になる。赤竜と橙竜なら緑竜のようなヘマはしないだろうが、油断していると食われるだろうな。ルークがナギをしっかり討てれば問題ない。あの男は俺へも殺意を向けていた。恐らくあれから腕を上げたはずだ。それに賭けるしかない。

あとは……カレンとアヤだ。


「なぁ。マスター。」

「ん?なんだシルビア。」

突然名前を呼ばれて思案を途中で遮られた。

「魔王とうちの本隊がぶつかったらやばいよな?そこはどうするんだ?チャミとジョンがいるから騎士団は機能するけど魔術師がカルロだけだ。大丈夫なんか?」

シルビアの問いに答えたのはダルシオンだった。

「シルビア殿は知らないんでしたね。魔王は力の半分をカルロ殿の曽祖父に取られているんです。そしてその力を使ってフェルス王国を守ったのがカルロ殿の父上です。つまり魔王は、今現在、力がほとんどないんです。」

「その話、ちゃんと聞いたことないんですけど。何があったんですか?」

今度はナコが口を開いた。

ダルシオンは俺を見て目で訴えてきている。仕方なく本を閉じて代わりに話してやることにした。

全く困った弟子だ。船酔いで喋るのも嫌だと駄々をこねるとはな。

「あそこの家系は魔王との因縁がある。力を奪ったのはカルロの曽祖父だ。50年前、俺が魔族領の結界を解いたら、魔族はフェルス王国に侵攻した。その時、カルロの曽祖父が魔王の力を抜き取る魔法を使った。だが、魔王の力はあまりにも強大で半分しか奪えなかった。しかもその力の保持すら危うかった。だから、魔力が高く、器の出来上がっていない、当時生まれたばかりのカルロの父に力を埋め込んだ。」

「器が出来上がっていない?」

ナコの問いにダルシオンが答えた。

「赤子というのは余計なものが備わっていないんです。元々魔力が高いなら、それ以上の魔力を注ぎ込んでもそれを受け止めるだけの器に育っていくんです。自我が芽生える年齢にまでなると器は大体出来上がってしまうので、器は育たず、余分な力に耐えられず体が壊れてしまいます。」

ナコは納得したようで、うんうん、と言っている。

俺は話を続けた。

「そして8年ほど前、再び魔族が侵攻してきた際に、カルロの父はその魔王の力を使って魔族の大半を消した。王妃レイチェルの父も、その時にカルロの父と共に死んだ。囮役を買ってでたんだ。強力な魔法だったから発動までの時間稼ぎが必要だった。2人とも承知の上で作戦決行したらしい。つまり魔王は力がほとんどない状態。お前たちとカルロの3人で戦えば勝てるほどだ。」

「え?じゃあダルシオンとナコが本国にいれば魔王に勝てんじゃん!なんでこっちに分散させたんだよ!」

シルビアがダルシオンとナコの疑問を代わりに口にした。3人の目が俺に向く。

俺は一呼吸置いてから答えた。


「魔王を倒し、勝つのが目的じゃないからだ。」



最後までお読みくださりありがとうございます。


しばらく更新遅くなるかもしれません。

申し訳ございません。


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