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第六十四話 好きなこと

「で?四天王になりたいの?」

リクの問いに私は答えた。


「四天王を壊滅させたい。」


リクは一瞬驚いた顔をして、そして心底嬉しそうに言葉を発した。


「いいね。楽しそうだ。」


すると談話室の扉が音を立てて開いた。入ってきたのは2人の魔族。1人はアヤ。そしてもう1人は黒の短髪に無精髭を生やした体の大きな男の魔族。

「おや?アヤ。それにシュウまで。」

リクの言葉が遠くに聞こえるほど私の心臓がドクドクと音を立てている。シュウと呼ばれたその男に見覚えがあるからだ。忘れもしない。

ペーター君を殺した張本人だ。

私は全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。こんなにも感情が高ぶったことがあっただろうか。

「この子はハナちゃん。魔王様の客人だよ。アヤが言ってたでしょ?」

「あぁ。あれか。」

シュウは私に向かって自己紹介してくれた。

「俺はシュウ。よろしくな。」

震える手を無理やり抑え込んで笑顔を作った。

「ハナです。初めまして。」

笑顔が引きつりそうだったから丁寧な挨拶を装って頭を深く下げた。心臓の音が全身に鳴り響く。私の頭の中は怒りや憎しみでいっぱいだ。今にもシュウを殺したい衝動に襲われている。


私はこの衝動から離れたくてアヤの方に足を向けた。

「私はハナ。あなたはアヤだよね?よろしく。」

不貞腐れた顔で睨んでくるアヤに握手の意味を込めて手を差し出した。するとアヤは私の手を払いのけて出て行ってしまった。

私のことを気に食わないのは知ってるけど、あからさまに避けられてちょっとショックだ。だけど今はそれどころじゃない。自分の感情を押し殺すので精一杯だ。

「んじゃ、俺は部屋に戻るぜ。ゆっくりしてけよハナ。」

「はい。ありがとうございます。」

笑顔でシュウを送り出し、さっきまで座ってた椅子に座って冷め切ったお茶を飲んだ。

するとリクが声をかけてきた。

「ハナちゃん。君シュウのこと知ってるの?」

私は笑顔を消して答えた。

「はい。仇です。」

不思議だ。なんでこんなに感情が高ぶるのか。もしかして……。

「そっか。あいつ戦闘好きだからね。敵は多いだろうね。ナギほどじゃないだろうけど。」

ナギもあの場にいたのは知ってる。ペーター君を殺せとナギが言ったのかもしれない。でも手を下したのはシュウだ。私はこの目で見たのだから。

楽しそうに微笑んでいるリクに私はある情報を伝えた。案の定リクは食いついた。



部屋に戻ってきて、私は窓ガラスに映る自分を見た。

「魔族は好戦的になる…………。」

シュウを見た時のあの感情の高ぶりはきっとそれだ。ペーター君の仇であることを思い出してしまった。そして殺したいと心から思ってしまった。自分が一瞬消えた気がした。

「もう限界かな…………。」

誰に言うでもなく呟いた。


リクにはマスターの居場所を教えた。目の色を変えて飛びついた。

ナギには竜の居場所を教えた。舌なめずりをしていた。

アヤはあの様子だと黒竜であることを口留めされていそうだった。

あとは…………。私自身がどうなるかだ。

シュウへの憎しみに囚われていたらあっという間に魔族になってしまいそうだ。だったらまだ自我が残っているうちにこの器を捨てるしかない。これはもう賭けだと思う。

私は頭の中にかなこを思い浮かべた。


『親友だからね』


私はベッドに寝転がり、目を瞑った。





暗闇の中に声が聞こえた。

『黒竜』

呼ばれた。あの者に。

『決意が固まったのか?』

『うん。黒竜もそれでいいんだよね?』

我は最後の忠告をした。

『力を抑えて使うつもりだ。だが異世界人の記憶が残るかはわからない。見た目は魔族でも、お主の自我が残るかわからない。本当に良いのだな?』

あの者は少しの間を置いた後、静かに言った。

『黒竜にとっての白竜が、私にはかなこなんだよ。親友なの。』

親友…………。そうか。我と白竜は親友という間柄なのだな。

『あ、そうだ。赤竜と橙竜から伝言。黒竜だけが背負うんじゃなくて私と一緒に背負っていけばいい、だってさ。よくわからないけど…………伝えたからね。』

赤竜と橙竜がそんなことを。我は嫌われていたと思っていたが。

我が背負うものをこの異世界人にまで背負わせるというのか?我が無理やり巻き込んでしまったのに。白竜という親友のために、この異世界人を巻き込めと?

だが不思議なことに、この異世界人なら当たり前のように受け入れてくれるような気がする。

白竜を救いたい。

ただその一言で全てが伝わるような気がする。

『黒竜。』

『なんだ?』

異世界人は優しい声で言葉を発した。

『白竜のこと信じてる?』

ドキッとした。我は白竜を一瞬でも疑った。だから今まで逃げていた。

『昔のことは置いといてさ。今は信頼してる?』

今…………。そうか、今か。

『あぁ。白竜ならきっと我の言葉を聞き入れてくれると信じている。』

『そっか。じゃあ大丈夫だね。黒竜、私も黒竜を信じてるよ。きっと伝えられるよ。頑張ろうね。』

我はこの異世界人に背中を押されたのだとわかった。そして人の心の温かさを感じた。

我はようやく、他の竜の言っていたことを理解したのだ。可愛い命たち。愚かだと諦めたはずなのに、割り切れずに手を下せずにいるその気持ちが。

『異世界人。いや、海。ありがとう。』


我は力を使った。創造神を消してしまった時以来、一度も使わなかった力を。





廊下を歩いている後ろ姿を見つけて私は声をかけた。

「リク!」

彼はいつもの微笑みを貼り付けたまま振り返った。

「アヤ。どうしたんだい?」

私は前振りもなく問いただした。

「ハナと何話してたの。四天王になりたがってるの?あの女。誰を蹴落とすつもり?私以外なら手を貸す。」

リクは目をぱちくりさせて笑った。

「アヤ。君って本当に魔王様が大好きだね。そんなに側近の座を奪われるのが怖いの?」

「うるさい。で?どうなの?」

リクはゆっくりと歩き出した。私はその後ろをつきまとう。

「ねぇ!リク!」

するとリクはピタリと止まって口を開いた。

「ハナちゃんは四天王を壊滅させたいんだって。つまりわかる?そうなったら君は四天王じゃなくても魔王様の側近になれるんだよ。僕も好き勝手出来る。シュウも好きなように戦える。ナギも好きなだけ暴れられる。そもそも自分勝手な魔族が徒党を組んでること自体おかしいんだよ。」

そこまで言うとリクは振り向いた。

私は全身凍り付いたように動けなくなった。リクの微笑みが今まで見たこともないくらい冷徹で殺気に満ちていたから。

「僕はシュウと一緒にマスターを殺しに行く。ナギは力を手に入れるために竜を探しに行く。アヤ、君はどうする?」

「私は…………。魔王様の側にいる。」

そう言うとリクはニヤリと笑って行ってしまった。嫌な言葉を残して。

「せいぜい魔王様を守ることだね。」





青竜に会うために転移術で大陸の西側に来た。そこから海まで馬車で移動する。そして海に着いたら今度は船で外海に出る。

その道中。馬車の中でも彼は別の世界に旅立っている。俺とナコ殿が話していようが、関係ないらしい。

本の世界に浸っている時間は、彼にとって唯一の安らぎだと言っていた。だから話しかけると機嫌を損ねることがある。

「マスター」

「ん?」

返事はしても本から顔は上げない。だが、返事もしたし、声色も普通だ。俺はそのまま話を続けた。

「魔王ってどんな奴ですか?」

マスターはようやく視線を向けてくれた。そして本を閉じると意地悪そうな顔でニヤリとした。

「どうした急に。魔王と話し合いでもしようというのか?無駄だぞ。攻めてくるのは魔王じゃない。四天王だ。」

そんなこと分かってる。

「そうではなくて…………。魔王は力の大半を失ったと聞いています。カルロ殿の祖父だか曽祖父だかのおかげで。魔族は実力社会です。魔王になり替わろうとする者もいます。それでも魔王として君臨している。何か特別な力でもあるんですか?」

すると隣に座って外を眺めていたナコ殿が、俺たちの会話に入りたそうに見つめてきた。仕方なく頷くと、姿勢を正して聞く体勢になった。

マスターはその様子を見つつ、ため息をついた。

「ダルシオン。これからする話を後でカルロにも伝えておけ。どうせあいつも聞きたがっていたのだろう?」

やはりお見通しか。

「えぇ。そのつもりです。」

マスターは持っていた本をシュッと消して外に視線を移した。

魔法だろうか……本はどこに?

聞きたい衝動を抑えてマスターが話し出すのを待つ。ナコ殿も本が消えたことに驚きを隠せないようだ。

「魔王は異世界人だった時の記憶があるようだ。そしてスキルを持っている。どんなスキルかは教えて貰ったことはないが、おそらく、異世界人に関する何らかの情報を得るスキルだ。」

「魔族になったら記憶はなくなるんですよね?魔王は魔族なのに……なんで……?」

ナコ殿が質問をした。

「分からん。たまに記憶を残したまま魔族になる者がいるらしい。」

何か条件があるのだろうか。もし異世界人としての記憶が残っているなら、話が通じるかもしれない。ナコ殿が言っていた話し合いというのも、異世界人同士ならできるかもしれない。戦いは避けられるものなら避けたい。

「魔王の名は『カレン』という。あれは異世界人でありながら、元の世界に戻りたくないらしい。好き勝手に生きていける魔族という種族を楽しんでいる。何百年も前に召喚されて、魔王討伐に行った勇者一行の一人だった。だが魔王を倒して自分が魔王になった。勇者一行の仲間を殺してな。なぜ殺したのかと聞いたらあいつは答えた。『殺したくなったから殺した』と。」

隣のナコ殿が息を飲んだのが分かった。俺も言葉が出なかった。

マスターは俺たちの様子を横目で見てから話を続けた。

「これは俺の推測でしかない。証拠もないし、データも取れてないからはっきりとは言えん。頭の片隅にでも入れといてくれればいい。」

マスターは俺たちを真っすぐ見て言った。

「魔族は異世界人だ。異世界人というのは、どいつもこいつも特別な力がある。するとどうだ。力があるから自分には大事を成せると思い込んでしまう。そして死ぬ時に強く願うのだ。もっと力があれば、自分は選ばれた存在なのに、と。その想いが強ければ強いほど魔族になった時に昔の記憶を失くしてしまう。そしてそれぞれ快感を得られること『好きなこと』への執着が強い。分かりやすいのはナギだろう。あいつは自分の力を見せつけたがる。それが『好きなこと』だからだ。」

「では、魔王は記憶が残っているから、その異世界人の時の強い想いがなかったと?」

マスターは俺の問いに頷いた。

するとナコ殿がポツリと零した。

「海は…………魔王と同じかも…………。」

海殿が魔王と同じ?

「ナコ殿。どういう意味ですか?」

俺が聞くと、ナコ殿は自分でも整理がつかないような様子で話し出した。

「海と昔話したことがあるんです。もし勇者として異世界に行ったらどうする?って。私は『物凄く強くなって確実に倒せるくらいになったら勇者として行く』と答えました。でも海は違ったんです。『私は断るかな〜。いわゆるスローライフを過ごしたい。』と。せっかく力を貰えたのにそれを使わないんです。ほら、黒竜の時もそうでしたよね?海はスキルも力も使おうとしてなかった。便利で楽しい魔法しか教わってなかったでしょ?」

確かに、海殿は攻撃魔法なんかは全く教わろうとしてなかった。魔力感知とか物を浮かせるとか、そういった魔法しか使わなかった。スキルも普段は全く使ってなかった。

そこまで考えて、ふと嫌なことが頭をよぎった。そして目の前の師を睨みながらそれを口にした。

「マスター。あなたという人は…………。海殿で試しましたね?自分の推測が正しいのかを立証するために!」

マスターはニヤリとして外に視線を移した。

この人は。またそうやって人で遊びやがって…………。

海殿がそういう性格であると知った上で、人間の姿にして魔族化を遅らせた。そして海殿を追い詰めることで、自分に力があることを自覚させ、どう転ぶかを見ようと言うわけだ。記憶を残したまま魔族になるか、欲に溺れて記憶を失うか。

俺は、隣で頭にハテナを浮かべてるナコ殿にため息をつきながら説明した。そして予想通りナコ殿は怒りを露わにした。

「グレンさん!ひどいです!もしこれで海が記憶失くしたり、黒竜になっちゃったら許しませんからね!死んでも許しません!なにがなんでも呪います!」

俺は今にも殴りかかろうとしているナコ殿を落ち着かせながらマスターに言った。

「この先どうなっても自業自得ですからね…………。」

マスターの笑い声とナコ殿の暴言を聞きながら、俺はステータス鑑定の時に呟いた自分の言葉を思い出した。

海殿が覚えていてくれてるのを願うばかりだ。


『その辺の民より使えねぇ……。』


最後までお読みくださりありがとうございます。


感想、レビュー、評価など頂けたら励みになります。誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

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