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第六十話 黒竜と白竜の器

グレンさんの話を聞いた私とダルシオンさんは何も言えずに黙っていた。

「白竜の望みを知った俺は、白竜に呑み込まれないようにしていた。主導権を握られたらこの世界は無くなってしまう。黒竜を探すこともしなかった。」

つまりグレンさんは白竜からこの世界を守るためにずっと一人で戦ってきた。そして黒竜が海と合体しちゃったから動かざるを得なくなった。自分の中で黒竜を求めて暴れる白竜を押さえつけながら。

するとダルシオンさんが口を開いた。

「なぜ白竜と契約したんですか?時が欲しいと言ってましたが…。」

グレンさんは言うのを躊躇いながらも答えてくれた。

「病だ。俺は魔術師としてやらねばならないことが山ほどあった。その為には時が欲しかったのだ。人間の時間では足りなかった。」

ダルシオンさんはそれ以上問い詰めず、別の質問を投げかけた。

「大陸を東大陸と西大陸に分けたのは何のためですか?」

そうだ。東大陸と西大陸を作ったのはグレンさんだって聞いた。本当なのだろうか…。

「黒竜が大陸の西側にいるという情報を得たんだ。だから物理的に離れるために割った。青竜と緑竜が遊びでたびたび洪水を起こしていて困っていたというのもある。大陸間の海を作り、そこに居ろと言ったら大人しくしてくれたよ。全く…あれは本当に大変だった。」

竜が遊び半分で洪水起こしてたなんて…確かにシャレにならない。迷惑すぎる。

「グレンさんは大陸間の移動はできるんですか?転移術とかで。」

「できなくはないが負担が大きい。白竜を押さえつけながらその距離を移動するのはリスクが高くてな。移動は青竜か緑竜に頼むか、歩いて行くかにしている。」

ん?歩く?

「あの…歩くってどういう意味…。」

私の疑問に答えたのはダルシオンさんだった。

「海底です。この人は陸上と同じように海底を歩いて移動するんです。化け物ですよ…。」

想像しただけで化け物だわ。そんなんもう人間じゃないじゃん。あ、白竜か…。

「ダルシオン。お前ならそれくらいできるだろう。後で魔法を教えてやろう。」

「あー…じゃあ魔法だけは教わります。ですが絶対使いません。」

ダルシオンさんは泳げない。水が嫌いだ。そんな猫みたいなこの人が海底を歩くなんて想像できない。

「そうか。魔法の前に泳げるようになってからにするか。」

「はぁ?!ふざけんな!絶対泳ぎません!」

2人のやり取りににやけてしまう。ダルシオンさんもグレンさんも吹っ切れたような顔で話しているのが嬉しい。海にも見せたかったな…。

「ナコ。」

「ふぁい?!」

突然グレンさんに名前を呼ばれてびっくりして変な声が出た。

「海は…黒竜の力で俺と白竜を切り離すつもりなのか?」

「あ、はい。グレンさんと白竜が望むなら…と言ってましたが。白竜は嫌みたいですけどグレンさんはどうなんですか?」

白竜は絶対嫌だろう。でもグレンさんの希望は聞いてない。

「白竜のやろうとしてる事を阻止できるなら構わない。それに俺は白竜を殺すことができる。この途方もない長い年月でやっと身につけた魔法だ。だが白竜をこの体から追い出さないとできない。」

切り離した後、白竜がどうしても望みを叶えようとするならそれを阻止できる術はあるってことか。ならグレンさんは離れたいはず。自分の中に閉じ込めておくのも大変そうだし。

「海殿が切り離す方法を探っているはずです。」

ダルシオンさんが答えると、グレンさんは顔色を曇らせて話した。

「あの子が人間ならできた…。だがあの子はもう魔族だ。魔族の器で力を使えば黒竜と共に消滅するだろう。」

「え?海が…魔族?どういうことですか…?」

私はわけが分からず聞いた。

「魔族になるのを遅らせ、黒竜に主導権を握らせないためにあの姿にした。黒竜は檻の中に閉じ込められている状態だ。それに魔族になると記憶も失くしてしまうからな…色々厄介だった。俺が最後にあの子を見た時からすると…恐らくもう魔族だろう。オーラが見えるからあの子自身も気づいてるはずだ。」

海が…魔族?人間だったのに?確かに魔族になりかけて記憶が抜けていってた。でもまだ記憶はある。

するとダルシオンさんが口を開いた。

「魔族では竜との共存ができないってことですか…。ではどうしたら海殿は黒竜の力を使えるんですか?」

グレンさんは真剣な顔で私とダルシオンさんを見つめた。あまりにも見つめられるからドキドキして声をかけようとしたらグレンさんが答えた。

「黒竜と共に消滅覚悟で力を使うか、黒竜に呑み込まれて黒竜として力を使うかだ。」

つまりそれって…。海はもう助からないの…?

あまりのショックに私はその場に崩れるように座り込んだ。

「ナコ。だから俺は別の道を提案する。」

グレンさんの言葉に私は縋るような眼差しを向けた。

「海に力を使わせない。俺はこの先も白竜と共に生きていく。そして海とナコを元の世界に帰す。そうすれば海は人間に戻れる。黒竜はどうなるかわからんがな。」

「でも!グレンさんは白竜と離れられなくなっちゃいます…。いいんですか?」

グレンさんはいつもの余裕そうな笑みを携えて言った。

「何千年とこいつと共にいるんだ。今更離れられないと言われてもどうということはない。しかも主導権を握られたのはさっきが初めてだ。それにこれからは俺より優秀な大魔術師を育てることの方が骨が折れる。」

するとダルシオンさんがグレンさんに何か言いたげな顔をしてから私の肩をポンと叩いた。

「ナコ殿。海殿を救うにはこれしかありません。あなたと海殿を急ぎ元の世界に帰します。その為の取引きなのでしょう?」

あぁそうだ。私はダルシオンさんと取引きをしていたのだった。元の世界に帰る方法を探すという取引きを。

「それと同時に西大陸にも行くのだろう?ナコ。取引きを持ちかけたのはお前だ。最後までやりきれ。それが結果的に海を救うことになる。」

「グレンさん…ダルシオンさん…。」

私は立ち上がり2人に90度のお辞儀でお願いした。

「お願いします!」

2人は力強く頷いてくれた。こんなに頼もしいことはない。

海…絶対守るからね!必ず2人で元の世界に帰ろう!





「なるほどね。じゃあ黒竜は創造神を殺した。でもそれは白竜を創造神から守るために殺したってことか。」

「あの時なぜそれを言わなかったのだ?貴様が素直に言えば我らも責めなかったというのに。」

「赤竜。それは言えないでしょ。白竜が創造神を殺そうとしたなんてまず誰も信じない。信じたとしても結局は黒竜が殺したんだから。」

我は赤竜と橙竜に全てを話した。だがあの事だけは言えなかった。

白竜から逃げた事…。

世界の破滅のために我の力が必要だと言った白竜は我の知っている白竜ではなかった。同じ時に生まれ、同じ時を生きてきた。いつも隣にいてくれた白竜は我にとって他の誰にも代えられない存在だった。だがいつの間にか白竜は人間に憧れ、人間のようになっていった。別にそれが悪いことではない。ただ…遠くに感じてしまったのだ。我の隣ではなく前に進んでしまった。振り返りもせず…。

創造神は我によく言っていた。

「白竜に対して決して偽らずに真っすぐな気持ちをぶつけなさい。偽りでは何も守れないのだ。」

白竜を守りたいという気持ちに偽りはなかった。だがそれと同時に白竜に疑いを持った。白竜は我を利用しようとしているのではないか…。本当はあの時創造神に消されたかったのではないか…。

あの時、我が真実を皆に話していたら何か変わったのだろうか。白竜の罪を被ることが本当に白竜の為だったのだろうか。偽りでは何も守れない。まさにその通りだ…。

白竜…。我はただ隣にいたいのだ。友として同じ時を過ごしたいだけなのだ。

「黒竜。貴様、その器を壊して出て来い。分かっているだろう?力を使うためにはその人間の器では無理だ。せめて魔族の器にならなければ。」

赤竜の言葉に我はこの異世界人のことが気にかかった。我が助けを求めたせいでこの異世界人は余計なものを背負わされた。親友とも離れてしまった。

「赤竜。この器我らが壊して無理やり黒竜引きずり出せないの?」

橙竜の問いに赤竜は我を見つめて言った。

「いや。我らにはできない。だが黒竜ならできる。破壊と消滅の力でな。この器がどうなるかはわからないが。魔族になるか…黒竜になるかだ。」

「そっか。じゃあきっとこの器次第だね。」





夢の中で黒竜たちの話を聞いていた。そして初めて黒竜の気持ちを知れた。

黒竜は白竜が罪悪感に押しつぶされそうになっているのに気づいてた。だから自分が罪を被ることで守り、支えるつもりだった。だけど白竜はそれによって世界の破滅という夢に囚われてしまった。そして最後はこの世界と一緒に消えるつもりでいる。

黒竜が自分の気持ちに嘘をついた結果が今のこの状況だ。

世界を破滅させないためには黒竜の力を使わせないこと。幸いなことに黒竜も使う気はない。あとは白竜だ。説得できればそれがいいけどそれには黒竜自身にやってもらうしかない。もし説得が叶わなかったら…最後の手段は一つしかない。黒竜もそれを望んでいる。魔族の器で黒竜の力を使って白竜とグレンさんを切り離す。

黒竜がいなくなれば白竜も諦めてくれるはず。それにグレンさんなら白竜を何とかする術を知っているだろう。かなこの力も加われば鬼に金棒ってやつだ。


私はもう後戻りできない。後悔ばかりだけど誰のせいにもできない。流れに任せてきたとはいえ私自身が選んできた道だから。そして今回も私自身で道を選ぶ。この器を捨てて魔族になる。今までの記憶を失って魔族になる。だけど絶対黒竜には呑み込まれない。そして絶対にかなこのことは忘れない。

ねぇ。黒竜。私とあなたは出会ってからずっと一緒なのにまともに話したことなかったね。それにとても短い付き合いで何も分かり合えてない。でもとても大切な時間だったと思う。お互い成長できたし、自分のことを知れた気がする。


『大切な時間って長さじゃないと思うの。』


神話の本を初めて読んだ時、ハーフエルフと人間の時間の差について話してくれたエステル様の言葉が頭に過った。

ずいぶんと遠くまで来た気がする。

この世界に来たあの時の光景を思い出した。海と空の境目が分からないほどどこまでも続く青。私はあの青が好きだ。だから魔法を使うと花の色も青だし、魔石も青になったのかもしれない。

元の世界で突然消えたかなこを探すためにあらゆる手段を尽くした。仕事もやめて警察はもちろん、大金かけて探偵にも頼みこんだ。そして扉を潜ってこの世界に来た。フェルス王国に来てかなこをあの中庭で見つけた時、あの気持ちをなんて言葉にしたらいいか未だにわからない。嬉しくて悲しくて懐かしい気持ち。

今の私がここにいるのは自分で招いた結果だ。役に立たないからといって黒竜に全てを委ねた。死をも受け入れようとした。周りのことなんか考えてもいなかった。かなこがどう思うかなんて考えてなかった。卵になった私を見てどんなこと考えてたんだろう。いつも手に取るようにわかるのに今は全然わからない。自分勝手な私を『親友』と呼んでくれるのはきっと後にも先にも彼女だけだろう。


親友とは、文字通り「親しい友人」。

信頼し合っている。

一緒にいても気疲れしない。

久しぶりに会ってもすぐに今までの感覚を取り戻せる。

ふとした時に頭によぎる。

お互いの良い面も悪い面も理解している。


『かなこ』

それが私の親友だ。


私はその時誓った。

この世界を滅ぼさせはしない。絶対に守る。例え自分がどんな姿になろうとも。かなこの側に最後までいるのは私だ。


最後までお読みくださりありがとうございます。


感想、レビュー、評価など頂けたら励みになります。誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

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