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第五十九話 はじまり

我がこの世界に生まれた時、隣には真っ黒な黒竜がいた。真っ黒な黒竜と真っ白な我。我はその気高き漆黒に憧れた。

人間、エルフ、ドワーフ、そして魔物。この世界の生き物達を見た。そして皆と関わった。皆は我を崇めた。だが黒竜は皆から疎まれた。破壊と消滅の力…。近くに寄ってくるもの全て壊れ、消えていく。それを再生し、作り直したのが我だ。

「白竜…我はなぜ皆と仲良くできない?」

「黒竜…そなたは我と(つい)なのだ。そなたが意図せず壊してしまったら我が元に戻そう。大丈夫。ずっとそうしていけばよいのだ。」

我はいつも黒竜を支えた。そして黒竜を愛おしく想っていた。双子のような絆だと後に誰かが教えてくれた。





ある時、人間の幼子が黒竜である我に近づいてきて言った。

「お友達になりましょう!」

我は断った。

「危険だ。離れよ。」

幼子はそう言うとどこかへ行ってしまった。そして翌日、幼子はまた来た。

「今日は美味しいものを持ってきたの。一緒に食べましょう!」

我はまたも断った。だが、それから毎日のように幼子は来た。遊ぼう、食べよう、話そう、歌おう…。そして月日は流れ幼子は歳をとり、杖をつきながら来た。

「私と友達になりましょう!」

毎日、何年も同じことを言う。我は諦めてその誘いを受けた。話し、食べ、歌い…楽しかった。

我はあの人間が来るのを待った。何日も…何年も…。だがあの者は来なかった。友達とはなんであろうか。思案し、悩んだ。

すると白竜がやってきてこう言ったのだ。

「人間の時間は短い。かわいそうな黒竜。さぞ辛かっただろう。」

我はその時初めて気づいた。寂しいという感情に。





黒竜は人と関わることをしなくなった。あの愚かな人間のせいで。黒竜は辛く苦しい想いを知ってしまったのだ。だが我は皆から崇められ続けている。黒竜のことを知りもしないで我だけに関わってくる。特に人間は勝手に寄ってくる。遠ざけても遠ざけても寄ってくるのだ。そして我はその関わりの中で多くのものを見た。短い時の中で輝こうとする力強さ、傲慢で欲深い愚かな姿、美しいものを生み出す力、誰かを想う心。ありとあらゆる人間の裏表を知った。

我は人間が羨ましかった。そして黒竜にもこのことを教えたかった。だがそれと同時に人間の汚れた部分を黒竜に見せたくなかった。きっと辛い想いをさせてしまうと思ったから。

そしてある時、黒竜が創造神に言った。

「我はなぜここにいる?なんのためにここにいる?」

創造神は言った。

「お前はどうしたい?」

黒竜は素直に答えた。

「必要とするものがいないのであれば消えてしまいたい。」

我は黒竜が望むのであれば我も共に消えたいと思った。だが創造神が出した結論は我らの想像を遥かに超えたものだった。

5匹の新たな竜を生み出したのだ。5つの自然の力を持つ橙竜、青竜、緑竜、赤竜、黄竜。そして創造神は言った。

「人間が汚したこの世界を綺麗にしなさい。その為に竜は存在するのだ。各々の力を使ってやり遂げなさい。」

我らは創造神の言う通りに世界を浄化した。橙竜は土を操って山々を作り出した。青竜は水を操って川を作った。緑竜は風を操って呪いや病を吹き飛ばした。赤竜は火を使って汚れた大地を燃やした。黄竜は雷鳴を轟かせて争いをやめさせた。そして我が創造と再生の力で自然溢れる世界を作り直した。しかし、黒竜は何も出来なかった。他の竜が作り出したものを壊してしまうのだ。そのせいで黒竜は嫌われた。

我は黒竜を庇った。大切な存在である黒竜を。そしてなぜこんなにも黒竜を惨めにしたのかと、創造神を恨んだ。

その後も我ら竜は浄化を続けた。浄化し、汚され、また浄化し、汚される。何度も何度も繰り返した。そしてそのうち竜達は1匹、また1匹と浄化することをしなくなった。聞けば皆、無駄なことだと言った。どんなに綺麗にしても汚されてしまう。だったら浄化しても無駄だと。

だが我は最後の1匹になっても続けた。人間が好きだから。人間達にもこの世界を汚すなと伝えた。だが人間は変わらなかった。一時やめてもまた再び汚していく。我は悩み、苦しんだ。

そしてようやく気づいた。我の力では浄化は出来ないのだと。創造し、再生させることはできるが壊すことはできない。作り直すことができないのだ。だからこの世界は何も変わらないのだと気づいた。

浄化とは既にあるものを綺麗にすることではない。破壊して真っさらにしてから作り直す事なのだ。そうすればきっと人間達も分かってくれるはずだ。

私は創造神にこのことを伝えた。

「黒竜ならばこの世界を浄化できます。一度全てを綺麗にするのです。エルフもドワーフも人間も魔物もいない世界を作り出し、我がまた命を創造します。」

創造神は言った。

「命を消すことは許さない。白竜、お前は何も分かっていない。お前と違って黒竜は理解しているのだ。だから浄化に手を出さないのだ。」

「ではなぜ黒竜をこの世に生み出したのですか?我と共に生み出したのはお互いを支え合うためではないのですか?」

創造神は答えた。

「黒竜は私の意志とは関係なく生まれた存在だ。不要なものだった。あの時黒竜の望み通り消してあげれば良かった…可哀想なことをした。」

黒竜が不要な存在…?消してあげるべきだった…?我の大切な…黒竜を消すというのか?

我は憤り、創造神に歯向かった。憎しみ、恨み、悲しみが我を支配した。体が勝手に動き、創造神を殺そうと動いた。だが我は何かを破壊する力はない。

どんなに苦しかったか…。どんなに自分が無力に感じたか…。

「白竜…お前も黒竜と共に消えなさい。私の可愛い命よ。」

創造神に消されそうになったその時、黒い光が我の後ろから飛んできて創造神に当たった。創造神はその光によって消えた。黒竜が創造神を消滅させたのだ。

「白竜…我は創造神を殺した。許されぬことをした。白竜を守りたかったのだ…すまない。」





新たな竜を生み出した創造神は我に消えることを許さなかった。それが何故かはすぐにわかった。白竜が我とともに消えたいと願っていたからだ。創造神は白竜が生まれたことを喜んでいた。人間のように美しい命だから…。

浄化という使命を与えられ、我も他の竜と共に浄化しようとした。だが我は全てを破壊してしまう。その事で他の竜に怒られ、責められることも少なくなかった。その度に白竜が我を庇い、慰めてくれた。

「黒竜には黒竜の役目があるのだ。責めないでくれ。」

そう言って皆をたしなめていた。

「黒竜。そなたは無理をせずとも良い。我のそばにいてくれれば良い。」

そう言って我を救ってくれた。

ある時、白竜が創造神と話しているのを聞いてしまった。

「黒竜ならばこの世界を浄化できます。一度全てを綺麗にするのです。エルフもドワーフも人間も魔物もいない世界を作り出し、我がまた命を創造します。」

白竜は何を言っている?我ならば浄化ができる?まさか有り得ない。我は壊してしまうだけで、山や川を作り出すことも、呪いや病を消すことも、大地を清めることも、争いを止めることもできない。白竜のように美しい自然を生み出すこともできない。それに命を消すことなど我がやっていい事ではない。

「ではなぜ黒竜をこの世に生み出したのですか?我と共に生み出したのはお互いを支え合うためではないのですか?」

我は白竜の言葉にドキリとした。

お互いを支え合う…関係…。我は白竜に支えられてばかりだ。我は白竜を支えたことなど1度もない。

すると創造神が答えた。

「黒竜は私の意志とは関係なく生まれた存在だ。不要なものだった。あの時黒竜の望み通り消してあげれば良かった…可哀想なことをした。」

あぁそうか…。やはり我は創造神にとっても邪魔なのだ。あの時白竜さえいなければ創造神に消してもらえたのに…。

この時初めて嫉妬という感情を知った。

そして次の瞬間、白竜が創造神に歯向かったのだ。

「白竜…お前も黒竜と共に消えなさい。私の可愛い命よ。」

創造神の言葉に我は勝手に体が動いた。

白竜を助けなければ!

このことしか頭になかった。そして気づいた時にはもう…創造神は我を優しく見つめながら消えていった。

「黒竜…なぜ…なぜ創造神を…。」

我は白竜に答えた。

「白竜…我は創造神を殺した。許されぬことをした。白竜を守りたかったのだ…すまない。」





創造神を殺した黒竜を守らねばと思った。

「黒竜。そなたは何もしておらぬ。この事は誰にも言うな。よいな?」

黒竜は頷いた。

それからはこの事を隠し通すために懸命に浄化に励んだ。頭の中に()ぎる望みを押さえつけながら。

『一度この世界を真っさらにすべきだ』

こんな恐ろしいことを考え出した自分が怖くなった。命を消すなどあってはならないのに。我はいつの間にか人間のように愚かな考えをするようになっていたのだ。力があるがゆえの傲りだ。

自分の浅ましさと創造神を殺そうとして黒竜に罪を被せてしまったことに罪悪感を抱いていた。

そしてある時、他の5匹の竜が来た。

「白竜。そなた…創造神がいないことに気づいておったか?」

心臓が跳ねた。

「赤竜…なんのことだ?」

「とぼけるな。創造神は死んだのではないか?」

青竜…やめてくれ…。

「ねぇ白竜?君は優しい。だから庇っているんでしょ?」

庇う?橙竜は何を言ってる?創造神は我が殺したのだ。我のせいなのだ。

「白竜…黒竜はどこにいる?ここに連れてきてくれないか?」

緑竜…。黒竜は苦しんでいるのだ。創造神に手をかけてしまったことを。

「黒竜は今いない。一体なんのことだ?我はわからぬ。」

我はとぼけた。すると今まで黙っていた黄竜が口を開いた。

「白竜…創造神を殺したのは黒竜です。我がこの目で見たのです。黒い光が創造神を消したのを…。」

な…んだ…と?まさかあの瞬間を黄竜が見ていたのか?

「白竜。貴様がどんなに庇おうとも無意味だ。黄竜が真実を知っている。黒竜に真意を問いたださねばならない。」

「あいつは浄化できないことを根に持っていた。どうせその腹いせにやったに違いない。庇うことなどない。」

赤竜…青竜…違うのだ。我が…我のせいなのだ。

「青竜。決めつけるのは良くない。」

「だが緑竜!お前もそう思っているだろう?皆思っていることだ!」

緑竜、青竜。やめてくれ。皆に真実を言わねばならない。本当は我が創造神を殺そうとしたのだと。そして創造神に殺されそうになっているのを黒竜が守ってくれたのだと。

だがなぜか我はそれが声に出して言えない。喉につかえて真実が出てこないのだ。

するとどこからか声が聞こえた。

「我が殺した。」

6匹の視線が集まる。そこには黒竜がいた。

「やはり君か。なんで殺したの?創造神が憎かったの?」

橙竜の問いに黒竜は頷いた。

その時、我は自然と口が弧を描いてしまった。全ての罪から逃れられる事への安堵なのか、黒竜が嘘をついてまで我を庇ってくれる事への嬉しさなのか。どちらにせよ、我の心は穏やかになり、いつものように皆を宥めることにした。

「皆、黒竜を責めないでくれ。黒竜の気持ちを分かってやってくれ。皆も失敗を責められるのは辛かろう?それに黒竜には黒竜の役目がある。創造神がいなくとも…我がいる。創造と再生の力を持つ我が。だから問題ないはずだ。それに皆は浄化は無駄だと言っていた。それで良い。もうそなた達は自由だ。創造神が居ないということは我々はもう浄化をしなくて良いのだ。」

我の言葉に皆驚いた。

「では…もう浄化しなくていいのか?自由に好きなことをしていいのか?」

「あぁ。そうだ赤竜。」

皆は笑った。それはもう嬉しそうに。

「ならば我はもう行くぞ!好きなところで好きなことをするのだ!」

赤竜はそういうやどこかで飛び去った。

「我もだ!緑竜行こう!」

「あ、あぁ。本当に良いのだろうか?」

「何言ってるの緑竜。もう自由なんだよ!」

青竜は緑竜を連れて飛び去り、橙竜も嬉しそうに行った。残るは3匹。

「黄竜?そなたも好きな所へ行って良いのだぞ?」

「…白竜…。あなたはどうするのです?」

我は黄竜の問いに答えた。

「わからぬ。創造神がいない今、代わりを務めるのは我だ。少し考えたい。」

「そう…ですか…。分かりました。」

黄竜はそのまま飛び去った。我は皆を見送りながら黒竜に話しかけた。

「黒竜。そなたは身を隠せ。黄竜はそなたを許さないだろう。他の竜のように自由を求めず我とともに浄化に勤しんでいたからな。それに時が来たらそなたにやって欲しいことがあるのだ。そなたにしかできぬ役目だ。」

「役目…?」

「そうだ。破壊と消滅の力を持つそなたにしかできぬ。この世界を破滅させるのだ。何もない…誰もいない世界にするのだ。そして我が作り直す。創造神のように愚かな命ではなく、美しい命だけを生み出して、浄化する必要のない世界を作るのだ。」

そうだ。これが一番良い。創造神は命というものを分かっていなかったのだ。命を持たず、命を知らないから。だが我は命を持ち、命を知っている。

「…わかった…。いつもの所にいるよ。」

そう言うと黒竜は飛び去った。


我はその後、破滅させる前に最後の時を命達と共に過ごした。やはり人間は面白い。エルフもドワーフも面白い。だが、これが最後だと思うからこそ優しく見守れるというもの。不思議とどんな愚かな行為も許せたのだ。どうせ消えてしまうのだから。

そして時が来て、我は黒竜の隠れる場所に向かった。役目を果たして貰おうと。

「黒竜。時が来た。世界を破滅……。」

我はその先の言葉を言えなかった。黒竜がいないのだ。いつもここにいたのに。

「黒竜?どこにいるのだ?」

我は探し回った。世界中を探し回った。他の竜達に聞いても誰も知らないと言う。草木をかき分け、山を飛び越え、海の中に潜って探したが見つからない。

どれだけの年月が経ったのだろう。人間の国がまた変わったのにも気づかなかった。

「黒竜……どこにいるのだ…。」


黒竜は見つからず、我は望みを叶えることもできなくなり、山に隠れ潜んだ。人間もエルフもドワーフも来れないような場所に。たまに黄竜が様子を見に訪れたが我はどうでもよかった。人間達の話も浄化の話も他の竜の話も右から左へと流れていった。黄竜はいつも去る時に

「また来ます。」

っと言って去った。

そしてある時、あの人間が来た。我は人間と話し、自分の望みを叶えるために契約を交わした。

白竜の姿のままでは黒竜は会ってくれない。人間という皮を被れば黒竜も姿を現すかもしれない。それにこの人間は大魔術師と呼ばれるほど特別な力を持っている。きっと我の竜の力にも耐えられる器だろう。それに…人間になれば黒竜が役目を果たすときに消えることができる。きっと黒竜も我がいなくなれば自由になれるだろう。人間に憧れた我が人間を憎み、人間になって人間として死ぬ。創造神を殺した我にはちょうどいい罰となろう。黒竜…許してくれ。そなたに全ての罪を被せた愚かな我を許してくれ。我は…我は…そなたがいなければ怖くて何もできないのだ…。片割れを失ったら何も出来ないのだ…。


最後までお読みくださりありがとうございます。


感想、レビュー、評価など頂けたら励みになります。誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

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