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第五十七話 取引き

私は海から届いた手紙と本を手に魔法室に向かっている。そして中に入って、なにやら難しそうな本を片手に机に向かって何か書いてる人にいきなり本題を切り出した。

「ダルシオンさん!取引きしませんか?」

はぁ?という顔をして睨みつけてきたダルシオンさんに負けることなく私は自信満々に仁王立ちしている。

「藪から棒に何ですか?それより光魔法の精度上げしてください。」

ふっ…。そう来ると思った。だがその余裕もここまでだ。

「取引き内容聞かないんですか?きっと喉から手が出るほど欲しがりますよ?」

そう言いながら手紙をヒラヒラさせた。すると、ダルシオンさんは椅子にふんぞり返って腕を組んで私を試すような顔で微笑んで言った。

「……話だけでも聞きましょう。」

私はダルシオンさんと机を挟んで向かい合い、堂々と話し出した。

「この手紙にはある情報が書かれています。異世界人の帰り方についてです。」

ダルシオンさんは一瞬ピクリとした。

「そしてもう1つ。私はある事実を知っています。マスターの正体についてです。」

ダルシオンさんはため息をついた。

「ナコ殿…。マスターは白竜です。そんなこと知ってます。今さらなにを…。」

「白竜になる前は?」

私が被せて言うと、ダルシオンさんは首を傾げた。

「マスターは白竜と契約をして今のマスターになりました。ではその契約をする前は何者だったか…わかります?」

「それをあなたは知っていると?」

「知ってます。」

私はハッキリと答えた。するとダルシオンさんは真剣な顔で私を見つめてきた。そして私が顔色変えずに黙っていると諦めたようにため息をついた。

「分かりました…。では取引きと言うくらいですからそちらの要望を聞きましょう。」

私は心の中でガッツポーズをした。

まずは第一関門通過。ダルシオンさんを仲間に引きずり込む作戦。

私はにっこりとして要望を口にした。

「西大陸に渡る為に青竜を探すの手伝ってください。」

「頭沸いてんのか小娘。」

間髪入れずにダルシオンさんの辛辣な一言が返ってきた。

「そんな言い方?!……っく…。ま、まぁそう思うのも無理はないですけど、海からの手紙を読めばわかります。ついでに私と海が異世界に戻る方法も一緒に考えてください。」

頭に来てつい口走りそうになった暴言を飲み込んで話を続けた。

「お断りです。そもそも真実かどうかも分からないのになぜ俺があなたと取引きなど…。それに例え青竜を見つけたとしても俺たちには竜と会話する手段がありません。海殿じゃあるまいし。」

「あーそれは大丈夫です。マスターなら話せますから。」

あっさり答えたことに驚いたのか、マスターの名前が出てきたことに驚いたのか、珍しく焦ったダルシオンさんが聞いてきた。

「…ど、どういうことです?」

「つまりです。私はダルシオンさんにマスターの正体と今まで謎だった異世界人の帰り方についての情報を渡します。あなたはマスターの正体を暴くことができる。つ、ま、り!ダルシオンさんは大手を振ってマスターの元に戻れるということ。正体が分かるまで一緒にいたくない!という我儘をクリアしたことになります。そしてマスターと仲直りして一緒に青竜を探しに行く。そして青竜の力を借りて西大陸に行く。ついでに私と海が異世界に帰る方法を探す。どうです!」

私は今ドヤ顔をしているだろう。だってこれで揺るがない人がいるか?私と海は知っているのだ。この男の弱みを。マスター大好きっ子なこの男を。

ダルシオンさんは私たちの目論見に気づいたらしい。

「…最初からそれが狙いか小娘共…。」

こめかみピクピクさせて怒ってる…。怖っ!

絶対罵倒してくると思って構えていたら意外な返事が返ってきた。

「……いいでしょう。取引き成立です。」

私は肩透かしを食らった。

「え?…いいんですか?取引き成立?」

「ええそうです。ではそちらから開示を求めます。どうぞ。」

「え?あ、はい。どうも。…えっ?!私からですか?」

「取引きを申し込んできたのはそっちです。さぁどうぞ。」

なんだろう…。いやまぁ成功したからいいんだけどさ。なんかこう…もっと…まぁいいか。

「じゃあ…1つずつということで…。」

「いいでしょう。ではマスターの正体からどうぞ。」

あ、やっぱりそっちからなんだ。

笑いそうになるのを必死に堪えて私は手に持っていた本のページをめくりながら話した。

「マスターの正体は、大昔の大魔術師グレンという人です。」

カラン

ダルシオンさんが固まったままペンを落とした。

「だ、大魔術師…グレン…と…言いまし…たか?」

「…はい。グレンさんって人知ってます?」

ダルシオンさんはガタンと勢いよく立ち上がって机に両手をバンっと叩きつけた。

「知ってるも何も、大魔術師グレンといえば実在したかも分からないほど昔の天才です。彼は生まれながらにして魔法を操り、多くの複雑な魔法を生み出しました。今の魔法の原点とも言えるものをいくつも生み出した天才です。しかも未だに解明されていない魔法も沢山あります。誰も使えない、使い方も分からない、なのに存在してる魔法、今この瞬間も発動し続けている魔法まであるんです。そんな天才大魔術師グレンだというんですか?マスターが⁈」

ものすっっごい早口で言われた。オタクが自分の領域の話をする時みたいだ。私も好きなアイドルの話する時こんな感じなのかな…。

呆気にとられながらも私はあるページを開いて、興奮しきったダルシオンさんにゆっくりと差し出した。

「こ、この挿絵の人が…グレンさん…です…。」

これは多分言っちゃいけないんだろうけど…私はかなり引いている。この人の圧に負けてドン引いている。

ダルシオンさんは本を眺めて固まった。

「こ、これが証拠です…ど、どうです?」

固まったままのダルシオンさんが心配で声をかけると、ダルシオンさんは本を眺めたまま座った。そして顔を上げずにバッと手を差し出してきた。

「手紙…。よこせ。異世界人の帰り方。」

「あ、はい。」

海からの手紙を渡すとダルシオンさんは開いて一心不乱に読んでいる。そして読み終わると本棚のあちこちから本が飛んできて机に積み重なっていく。

「ナコ殿。この手紙とさっきのマスターの話、カルロ殿にもしてきてください。」

「え!カルロさんに話していいんですか?」

「えぇ。一応念の為誰か連れてってください。その辺にいる兵士で構いません。」

「え?」

ダルシオンさんの言ってる意味がわからない。なぜ兵士?カルロさんに話すだけで必要?

「俺はこれから調べます。さっさと行ってください。」

しっしっとされて私は魔法室を追い出された。そしてその辺にいる兵士さんにお願いして一緒にカルロさんの部屋に行き、さっきと同じことを話した。

兵士さんの出番はすぐに来た。

マスターの正体がグレンさんだという話をしたら立ったまま気を失っていた。

あー…なるほど。これか…。

私はダルシオンさんの言ってた意味がわかり、カルロさんを兵士さんに任せて魔法室へと戻った。


魔法室に戻ってくると山積みの本があちこちに散らばっている。

この数分間で何が起こった?

「ダルシオンさん!カルロさんに話してきました!」

大声で呼びかけると奥の方から声が聞こえた。

「カルロ殿死にました?」

「立ったまま気絶しました。」

私が素直に答えると奥でダルシオンさんが笑ってるのがわかった。私も苦笑いだ。

ダルシオンさんはニヤニヤしながら奥から出てきた。

「カルロ殿は大魔術師グレンのファンです。しかもマスターのファンでもあります。まぁ魔術師なんてみんなそうだとは思いますがね。」

あなたもでしょ。ダルシオンさん。

私はあえて言わずに黙って聞いていた。

「で?ナコ殿。もう1つ確認したいことがあります。」

「なんですか?」

私はまだ話してないことあったっけ?と思考をフル回転させた。

「なぜ西大陸に行くんですか?」

「あ…。」

私の間抜けな返事にダルシオンさんはため息をついた。

「えっとですね。西大陸に行くのは召喚を止めるためです。西大陸では、緑竜を食べて勢力拡大している魔族に対抗するために異世界人をバンバン召喚してます。魔族は元異世界人。つまり異世界人が増えれば増えるほど魔族も増えてしまう。だからそれを防ぐ為に行きます。」

ダルシオンさんは考えに耽っている。

「ちなみに海曰く。マスターもそれを止めたいと思っているはず…との事です。」

「つまりマスターと俺たちは目的が同じ。だからあの人の協力を得られる…と。そういうことですか…。」

私は頷いた。

ダルシオンさんは頭を掻きながら困ったように呟いた。

「そもそもあの人がどこにいるのかも分からないってのに…。」

確かにそうだ。その事が頭からすっぽ抜けていた。

「ど、どこにいるか…知らないですよね?」

「知るわけないでしょう。」

ですよねー…。

せっかく第一関門ダルシオン攻略出来たというのに…。第二関門マスター攻略に行くことすらできないとは。こんな序盤でつまづいてしまった…。しかも私たちには時間がない。雪解けがリミットだ。北国だから他より春が遅く来るのはありがたいがそれでも時間はない。

「どうしよう…海…。」

私は遠くにいる海に泣き言を言った。





魔族領とフェルス王国の国境付近。

宣戦布告されてからここの防衛は以前より強固なものになっている。王妃様のご実家であるアルバーノ伯爵からお預かりした魔法使い達がいるとはいえ、いつ何が起こるか分からない。

私は焚き火の側に立って魔族領方面の切り立った山を見つめた。

「ルーク団長様よ。春が近いとはいえまだ寒さは尋常じゃない。アルバーノんとこの奴ら結構疲れてんぞ。なんとかしねぇと。」

「その件についてはこちらに来る前にサントス殿に言ってあります。何か対策をすると言ってました。」

私は振り返ることなくシルビア殿に答えた。隣に来たシルビア殿は腕組みをして私と同じ方角を見ている。

「ふーん。その病弱が対策考えられるならな。今年の冬は色々あった。あの病弱が倒れるのも時間の問題だぜ?」

ニヤニヤとしながら不吉なことを言うシルビア殿に私はピシャリと言った。

「シルビア殿。そんなこと言うもんじゃありません。本当にそうなったらどうするんですか?カルロ殿がまたミイラのようになってしまうでしょう。」

「あははは!ミイラな!あれ本当にやばいよな〜」

全く。この人は…。

すると後ろの方から部下が血相変えて走ってきた。

「団長!大変です!」

私はシルビア殿と顔を見合せた。


転移術で急ぎ城に戻ってきた。そして部屋の前まで来るとナタリー殿が部屋から出てきたところだった。

「ナタリー殿!」

「ナタリーさん!」

私とシルビア殿は焦りを隠さずナタリー殿に声をかけた。ナタリー殿は私たちに気づくと俯いて首を横に振った。

「おい…マジなのか?ナタリーさん!」

シルビア殿がナタリー殿の肩を掴んで揺さぶるように声をかけている。だがナタリー殿は何も言わない。

私はゆっくり部屋に入った。

そこにはベッドに横たわるサントス殿。そしてその脇で椅子に座って項垂れる国王。壁際には黙って立っているダルシオン殿。

私は国王の側に跪いて言葉をかけた。

「国王…。」

国王は項垂れたまま小さな声を発した。

「私が…いけないのだ。無理をさせてしまった…。」

私はかける言葉が見つからなかった。

するとダルシオン殿が代わりに話し始めた。

「一昨日、熱を出して寝込みました。医者の見立てではこの時期の流行り風邪。本人もそのように言ってました。回復に向かっていると聞いていましたが、昨晩急に容体が悪化して…。つい先程、息を引き取られました。」

私は目の前の光景が真実なのだと知り、静かに部屋を出た。

廊下ではシルビア殿がナタリー殿から話を聞いたのか、拳を握って耐えていた。そしてもう片方の手で涙を流すナタリー殿の背をさすっていた。

私はシルビア殿と視線が合い、お互い頷き、そのままカルロ殿の部屋へと向かった。


「カルロ殿。ルークです。」

声をかけるが中から返事はない。失礼だと思いながらも扉を開けると机に突っ伏しているカルロ殿がいた。

「カルロ殿…。」

名を呼ぶとカルロ殿は赤い目を向けて苦しそうに微笑んだ。

「サントスは僕にとって友人であり憧れでもあった。昔から体が弱かったからいつかこういう日が来ると思ってたよ。だから覚悟は決めてたんだ。でも…」

カルロ殿は言葉を詰まらせた。そして何か言いかけてからまた口を開いた。

「やっぱりダメだな。いざとなったらどうしようもない…。彼の穴を埋めるのは簡単じゃないけど、僕がやらなきゃ!ルーク!こんな時だからこそ君を頼らせてくれ!」

「はい。もちろんです。」

私は第一騎士団長。国の大事があろうともやるべき事は変わらない。どんなに辛くとも皆の前に堂々と立っていなければならない。後ろにいる者たちを守るために。





サントスさんの天昇の儀が行われる。私は以前着た真っ白なローブを羽織った。

「海…また天昇の儀見れないね…。でもこんなのは辛いだけだよ。」

サントスさんとはフェルス王国に戻ってきてからあまり話していない。海を捕らえるだの殺すだの進言したのはあの人だ。別に責めてるわけじゃないけどなんとなく以前のように話せなかった。

コンコン

「はい。」

私は扉の向こう側の人に返事をした。

「ナコ?準備は…出来てるみたいね。」

王妃様だ。ペーター君の天昇の儀と同じで私を見に来てくれたようだ。

「もう始まりますか?」

「ええ。私はナタリーの側にいるわ。ナコは…もう言わなくても分かるわよね。よろしくね。」

そう言うと王妃様はニコリとして出ていった。

私は鏡の前に立って深呼吸をした。そして気合いを入れるために声を出した。

「よし!やるぞ!」


最後までお読みくださりありがとうございます。


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