表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/86

第五十五話 橙竜と赤竜

目の前に現れた橙竜に圧倒された私は拳を握った。

怖い…。

黒竜を目の前にした時と同じ恐怖が襲ってきた。橙竜はまだこちらに気づいていないのか山の頂上の方を見つめている。私は今がチャンスと思って唯一まともに使えるスキルを発動させた。

スキル『エンパス』。強い共感能力。相手に考えを伝えることもできるし、相手の考えも読み取れる。そして共感すればするほど相手の力を模倣できる。

私は橙竜の心の中に集中する。考えを読めればこっちの考えも伝えられるはず。みんなを危険な目に合わせずにうまく進められるかもしれない。

すると不思議な感覚に捕らわれて遠くの方から声が聞こえてきた。そしてその声はどんどん近づいて頭の中に流れ込んできた。

『今なんか呼ばれた?赤竜かな?せっかく寝てたのに…ついこの間叩き起されたばかりなのに…。』

ん?これは橙竜の声?

私はゆっくり橙竜に近づいて大きく息を吸い、大声で声をかけた。

「橙竜!こっち見て!」

するとピクリとした橙竜が頭を左右に動かしてキョロキョロしている。

「下!こっち!下見て!」

後ろでライネル様とジョンが慌てて止めようと声をかけてきているが気にせず声を出し続ける。その甲斐あってか、橙竜が私たちに気づいた。そして顔を近づけてきた。

私はすくむ足に力を入れて耐えた。黒竜に食べられた時を思い出すほどの大きな顔が目の前にきて私を見つめている。

『…君…黒竜…?なにそのちっぽけな姿。呼んだのは君?』

橙竜の声が聞こえて私は心の中でガッツポーズをした。

よし!黒竜って気づいてくれた!しかも橙竜の言葉がわかる!

「わ、私は海です。黒竜に食べられて黒竜になりました。は、初めまして…。」

変な挨拶だけどそれしか言葉が出てこなかった。

『白竜みたい…人間になってどうするの?何しに来たの?この前白竜来て赤竜と揉めてたよ。おかげで叩き起されたし山の噴火止めるの大変だった。黒竜も赤竜と喧嘩しに来たの?』

白竜と赤竜が揉めてた?ということは規制線が張られる原因になった噴火はそれ?

「な、何を揉めてたんでしょう?」

恐る恐る聞くと橙竜はもっと近づいてきて、目と鼻の先に大きな歯が見える。この歯だけでも私と同じくらいの大きさな気がする…。怖い。

『黒竜が来たら手を貸してやれって言ってた。でも赤竜は黒竜が大っ嫌いだから断ってた。それで揉めてた。ちなみに赤竜は今居ないよ。怒ってどっかまで散歩に行っちゃった。代わりに我が聞こうか?』

私は橙竜の言葉に甘えて要件を伝えるために後ろにいるライネル様を呼んだ。

「ライネル様。橙竜が話を聞いてくれるみたいです。例のお願いをするチャンスです。」

するとライネル様は恐る恐る近づいてきて橙竜の前にひざまづいた。

「土の竜、橙竜様。我々は呪いをとくために万能薬を作りたいと考えています。その為に貴方様の血をほんの少し分けて貰えませんでしょうか。この瓶に入る程度で良いのです。」

ライネル様はカバンから結構な大きさの瓶を取り出した。

あれ…ずっと持って山登りしてたの?ライネル様凄いな…。けっこうな重さありそうだけど…。

私は関係ない事に意識を持っていかれそうになり、慌ててこの緊張感漂う現実に戻った。

『血?万能薬?呪いなんか竜の血で解けるの?因みにどんな呪い?』

私はライネル様に通訳した。するとライネル様は呪いの話をした。

「突然深い眠りについて、1年後に目覚めることなく息を引き取るのです。」

すると橙竜は何か思い出したのか、あぁ…と言った。

『それはついこの間赤竜と我が喧嘩した時に撒き散らされた残骸かもしれない。我らの血が大地に付着してそこから呪いとかいうのになったんだね。』

ん?ついこの間?呪いはもっと昔からあるって言ってなかった?

「あの…ついこの間ってどのくらい前ですか?」

嫌な予感がして聞いてみると橙竜は答えた。

『えっと…500年くらい前かな。』

やはり…。

私は竜と人間の時間の差に気づいた。500年は竜にとってついこの間らしい。私はライネル様に橙竜の話をすると、ライネル様はハッとして橙竜に聞いた。

「では橙竜様の血で呪いが生まれたのなら橙竜様がその呪いを解けるのでは?浄化という力で…。」

するとさっきまで友好的だった橙竜が豹変し、牙をむきだして唸り出したのだ。

『浄化?なぜ我が人間ごときのために浄化せねばならない。嫌だ。』

え?なんで突然そうなるの?駄々っ子みたいになってる。

私は橙竜に聞いた。

「浄化するのがなんでそんなに嫌なんですか?」

橙竜は私をちらっと見ると大きな手で私を鷲掴んで持ち上げた。力の強さの加減が出来ないのか体がミシミシ鳴ってる。息もできない。動こうとしてもビクともしない。チャミとジョンが攻撃体勢になったのが目に入って必死に首を横に振って止めた。

『黒竜…お前には分からない。浄化してもどうせ汚れる。お前が人間の中に引きこもっていると知ったら赤竜はこんなちっぽけな器すり潰すぞ。業火に焼かれて塵と化す。そしたらお前も消えるだろう。羨ましいよ。』

私は遠のく意識を何とか保ちつつ、声を出した。

「私は…白竜と人間を切り離します。その為に黒竜の力が必要です。手を貸してくれませんか?黒竜の破壊と消滅の力を使いたいんです。」

そう言うと橙竜はぴたりと止まった。そして次の瞬間私を火口の方に向かってポイッと投げた。

空を舞い、私は空高くからこの火山の火口を見下ろした。火口からは湯気が上がり、中はほんのり赤い。おそらくマグマだろう。そして最高点に達したのか私はそのまま火口に向かって真っ逆さまに落ちていく。

あぁ…私はここで死ぬのだ。マグマの中でグツグツ煮られて骨も残らずに消えていくんだ…。

なぜか冷静になりながら状況判断をして死を覚悟した瞬間、何かが飛んできて私は硬い地面に叩きつけられた。風に流されて飛ばされそうになるのを必死にゴツゴツした地面に捕まって耐えた。よく見るとその地面は赤かった。真っ赤な炎のような赤い地面。いや、これは赤い鱗?

『全く橙竜は気分屋で困る。貴様もだ。今更何をしに来た黒竜。』

橙竜ではない別の声が聞こえた。

「今のは…赤竜?」

私はそのまま橙竜達の所に戻ってきて、降り立った赤竜の背中から転がり落ちた。見事にベシャっという音が聞こえてくるような落ち方をした。黒竜という頑丈な体でなければ死んでいただろう。

立ち上がると目の前には大きな橙色の山と赤色の山がこちらを睨みつけている。エステル様、ライネル様、ジョンとチャミはこの2つの山の向こう側だろう。

『橙竜。放り投げるな。黒竜は好かんが死んだら困るだろう。』

『なぜか頭にきた。何も分かってない黒竜が。』

2匹の会話を聞いて私は私の中の黒竜に言った。

「あんたみんなに嫌われてるね…。何したの?引きこもってただけでこんなに嫌われるとは思えないんだけど…。」

すると赤竜が私を爪の先でつついた、私は後ろに倒れて盛大な尻もちをついた。

「いった!!」

突然のことに私は赤竜を睨んで言った。

「な、なにするんですか⁈」

赤竜は、ふっと鼻で笑って橙竜と話し始めた。

『見よ。この弱々しい姿を。今なら黒竜を殺してあげられそうだぞ?本望だろう?死にたかったのだから。』

『赤竜。さっき自分で黒竜殺すなって言ったじゃん。それに白竜が黒竜に手を貸してあげろって言ってたよ?』

『ふん!あれは白竜ではない!ただの人間よ。』

『でも赤竜…その人間と喧嘩して勝てなかったじゃん。噴火止めるの大変だったんだよ?』

『うるさいぞ!何も言わずに傍観しておったくせに!それにさっさと噴火させてしまえばいいのにお前が止めるからいつまで経っても綺麗にできないのだぞ!』

「あの~…。」

私の存在を忘れて話している2匹に向かって声をかけると、大きな目がギョロっとこっちを見た。

「お話し中申し訳ないんですけど…黒竜についてお聞かせ願えませんか?」

赤竜が顔を近づけてきて言った。

『貴様……黒竜でも人間でもない変な奴だな。貴様は何者だ?』

え?赤竜は何を言ってるの?黒竜じゃないの?いや確かに今は人間の姿だけど…。

『赤竜。こいつは黒竜が食べて生まれてきたみたい。黒竜が選んだんだよ。白竜みたいに。』

『だがそれにしては人間が感じられない。まるで西大陸の魔族のようだ。貴様、元は魔族か?』

私はふと思い出した。

私は魔物を食べて魔族になりかけてたところで黒竜になった。つまり元は人間というより魔族に近いってこと?

私はそのことを2匹に伝えた。すると2匹は笑った。

『黒竜め!魔族を選んだのか!馬鹿な奴だ!』

『君気づいてないみたいだから言うけど、君もう人間じゃないよ。魔族だよ。もしその器から黒竜に戻ったらもう二度とその人間の姿にはなれない。魔族の姿だ。』

え?私…もう人間じゃないの?

私は自分のオーラを確かめてみた。今まで自分のオーラなんて見ること頭になかったから気にも留めてなかった。

そして自分を見て驚いた。

前は赤いオーラに黄色が混じっていた。でも今は赤いオーラに紫色が混じっている。人間の黄色はどこにも見当たらず、魔族の紫色しか見えない。

私は言葉を失ってその場に崩れ落ちるように座りこんだ。

「う…そ…。なんで?」

それを見た橙竜が私に言った。

『さっき君が言ってた黒竜の破壊と消滅の力を使ったら君は器が耐え切れずに壊れるよ。魔族は人間よりステータスが高いけど、人間ほど他種族と共生が出来ない。獣人やハーフエルフがいい例だね。だから人間なら出来たけど魔族になった今の君には無理。白竜とあの人間を切り離す前に君が粉々になる。必然的に黒竜も粉々になるのかな?どう思う?赤竜。』

『まぁそうだろうな。唯一生きながらえる手段としては…黒竜そのものになることだ。貴様の自我を捨て、黒竜に呑み込まれるのだ。』

なにそれ…。結局私は何もできないじゃん。黒竜に呑み込まれるしか道がないじゃん。だって私が力を使ったら黒竜も死んじゃうんでしょ?それだけはダメだ。

「海!」

「海さん!」

エステル様とジョンの声が聞こえてハッと我に返った。2人は赤竜の脇から回り込んでこっちに向かってきている。

「海ちゃん!」

「海さん!」

反対の橙竜側からはチャミとライネル様だ。

『なんだこの者たちは。』

『あ、そうだ。忘れてたよ。なんか呪いの浄化して欲しいんだって。』

幸いなことに赤竜も橙竜もみんなに手出しはしないようだ。今のところ…。

私はその場に土下座をして大きな声を張り上げた。

「赤竜!橙竜!お願いします!呪いを解くのを手伝ってください!」

私はさっきまでの自分のことではなく、ライネル様達のお願いをした。すると走ってきたみんなは驚いて立ち止まって私を見つめた。私は構わずお願いし続けた。

「お願いします!呪いの浄化だけでいいんです!もしくは呪いを解く方法を教えてください!お願いします!お願いします!」

すると隣に誰かが来て同じように土下座をした。

「お願い!海のお願いを聞いて!私はハーフエルフのエステル。この身が尽きるその時まであなた達のために働くわ!」

それにつられてライネル様もエステル様の隣に来て土下座した。反対側を見るとチャミとジョンも同じようにしている。

『なんだ…うるさい奴らだな。橙竜。面倒だからさっさと呪いとやらを解いてやれ。うるさくてかなわん。』

『えー。赤竜がやってよ。君との喧嘩で起こったことなんだから。』

『はぁ⁈』

『ほら…500年くらい前に喧嘩したでしょ?あの時のだよ。結局赤竜が悪いってことになったじゃん。』

赤竜は嫌そうな顔で遠くを見ている。私が黙って様子を窺っていると赤竜は小さくため息をついた。

『仕方ない。呪いを解いてやろう。その代わり。黒竜。貴様はさっさと黒竜の姿になれ。そして白竜をあの人間から解放しろ。これが条件だ。』

私は震える手をぎゅっと握って答えた。

「わかった。」

すると赤竜は大きな風を巻き起こしながら飛び立った。そしてそのままライネル様たちの領地の方へ飛んで行った。

「何?どうなったの?海どうなったの?」

エステル様が私の肩をグワングワン揺さぶりながら説明を求めてきた。

「エ、エステル様!落ち着いて!赤竜が呪いを解きに行ってくれました。もう大丈夫です。」

そういうとエステル様とライネル様は抱き合って喜んでいる。私はその姿を複雑な思いで見つめた。

条件…どうしようかな…。

するとチャミとジョンが声をかけてきた。

「海ちゃん。全部話せよ。俺らは竜が何言ってんのかわからなかったんだ。」

「そうだよ。最後に海さんが言った『わかった』って何?」

私は2人のその真っすぐな目に嘘をつけなかった。そして今まで我慢していた分の涙が一気に溢れ出た。

突然泣き出した私に驚いた2人は何が何だかわからないまま焦っている。エステル様とライネル様も寄ってきて、どうした、なんだ、と騒いでいる。

『馬鹿みたい…。』

橙竜の呟きを聞きながら私は止まらない涙を拭った。





白竜が人間と契約したと知った時はみんながショックを受けた。その中でも黄竜は特に酷くてどこかに行ってしまった。我ら竜にとって白竜は特別な存在。喧嘩していれば仲裁し、誰よりも浄化に勤しんでいた。黒竜を庇ったのも白竜。浄化と正反対の力を持つ黒竜なんて邪魔でしかなかったのに。それに黒竜自身もそれを知ってて死にたがっていた。

『黒竜には黒竜の役目があるのだ。皆わかってくれ。』

白竜のお願いだから皆聞いて、浄化を続けた。そして…浄化をまた1匹…また1匹とやめていった。そして最後まで浄化していたのは白竜。あいつはよく言ってた。

『人間を嫌わないでくれ。我らとは違う生き物なのだ。それにとても美しいものを生み出す。皆も人間に歩み寄ればわかる。』

そして白竜は人間になりたくて人間と契約した。あの大魔術師とか呼ばれてる人間に。それから何百年後…白竜は消えた。あの人間の中に。我らはあの人間を殺してやろうと考えた。だが殺せなかった。白竜も一緒に殺してしまうことになるから。

そしてついこの間…緑竜が死んだ。西大陸の魔族に食われた。西大陸にいた赤竜はここに来て言った。

『緑竜も白竜と同じことをしようとしていた。歩み寄ろうとしたらしい。だが食われた。騙され利用され、殺された。』

助けようと思わなかったのか?と聞いたら赤竜は、フッと笑って言った。

『手を出すな。どんな結果になろうとも。と言われた。』

自業自得ってやつだ。


赤竜の帰りを待っている間、黒竜とハーフエルフ、獣人達は何やら話をしていた。

赤竜が出した条件についてのようだ。そんなに悲しいことだろうか?そんなに憤ることだろうか?我は何故この者たちが悲しみ、怒っているのかわからない。人間より、魔族より、竜のほうがいいだろうに。

「海!そんなのダメよ!あたしが赤竜に話しつけてあげるわ!」

「母上。それはあまりにも無謀です。一度約束を交わしてしまったのですよ?」

「あの赤竜ってやつ許さねえ!殺してやる!」

「チャミ、落ち着きなって。返り討ちに合うだけだって。」

赤竜を殺す?そんなことできないでしょ。だから人間ってやつは馬鹿なんだ。無駄なのに向かってくる。頭悪いのかな?創造神から『知恵』ってものを貰ったのに馬鹿みたい。

我らがなぜこんなにも黒竜に黒竜になれって言ってるのかが分かってないんだな。君らが願ってる浄化ってやつをするためだよ。まっさらな状態に戻すんだ。人間のいない、エルフやドワーフもいない世界に。一度まっさらにするんだ。創造神がいない今、それができるのは我らだけなのだから。


最後までお読みくださりありがとうございます。


感想、レビュー、評価など頂けたら励みになります。誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ