第五十四話 火山地帯
今回少し短めです。
私とライネル様、そしてジョンとチャミはエステル様の後について火山地帯を進んでいる。人目につかない街道から離れた山の中だ。火山地帯ということもあって冬なのに暖かい。私は寒さも暑さも感じないからいいけど、他の人は上着を脱いだりしている。
「そろそろ規制線の近くよ。見つからないようにねー。」
「母上…本当によろしいのですか?事情を話せば…。」
ライネル様はさっきから何度もエステル様に同じことを言っている。
「大丈夫よ!何度も同じように通過したわ!あんたは昔から真面目で心配性ね〜。」
エステル様の返しもさっきと同じ。
歩きながらふと周りを見ると、私達はなんとも変な集団だ。ハーフエルフが2人、獣人が2人、人間が1人…と思いきやこの人間も本当は黒竜。どう見ても変な冒険者パーティーだ。
「なぁ、海ちゃん。さっき渡してた手紙なんだ?どこに送ったの?」
後ろを歩いているチャミに話しかけられた。
「あれはかなこに送った手紙だよ。大事な事が書いてあるの。きっと何とかしてくれるはず。」
そう答えると今度はチャミの後ろを歩いていたジョンが近づいてきて聞いてきた。
「大事な事って…昨日僕らが話した事?」
「まぁそれもあるかな。2人は気にしなくていーの!女の秘密です!」
最後の言葉が効いたのか、チャミもジョンも不満そうだけどそれ以上聞いてこなくなった。
すると前を歩くエステル様が急に立ち止まった。
「母上?」
ライネル様がエステル様に聞くと、エステル様は口に指を当てて振り返った。私達も覗き見ると、そこには衛兵らしき人達が10人程いた。
「見張りね。前はあんなにいなかったんだけど…。ここじゃなくて戻って回り道しましょう。」
そう言うとエステル様は後ろに私達を押し込むように戻らせた。
戻って回り道を歩いているとさすがに体力の限界が近づいてきた。ライネル様も辛そうだ。
「エステルさん。この辺りで休憩しませんか?」
ジョンが声をかけた。
あー…ジョン…ナイス。助かるよほんと…。
「え?ジョンもうへばったの?」
チャミは黙ってて!ジョンの優しさに気づいて!
「違うよ…。この2人。どう考えても僕らとは体力差があるでしょ。」
「じゃあ休憩にしましょうか。まだここは火山の2合目あたりだしね!」
エステル様の言葉に私は絶句した。
ま、まだ2合目?!半分も来てないの?!
私はヘナヘナと近くの岩に座り込んだ。体力の限界とエステル様の発言により一層力が抜けた。
「母上…。この山の火口を見てきたとのことですが、どのくらいの期間で着いたのですか?」
岩に腰かけながらライネル様がエステル様に聞く。するとエステル様は考えた後、指を3本立てて言った。
「3日よ!」
「「3日?!」」
私とライネル様がハモった。
「でも今回は回り道してるから4日くらいかな〜」
私はその言葉に絶望した。
4日…野宿するのは覚悟してたけどそんなに…。このゴツゴツした岩肌で眠れるだろうか…。想像してたよりゴツゴツなんだよな…。
「この前はもう少し歩きやすかったよな?おばちゃん!このゴツゴツしたとこ続くの?」
チャミがエステル様をおばちゃん呼ばわりして聞いた。
「そうね。この前のはそれなりに整備された道なの。でもここは回り道だから整備されてないのよ。でも安心して!おかげで誰とも会わないわ!」
エステル様が親指をグッと立てていい笑顔で言ってるけど今はどうでもいい。つまるところ、誰も通れないような所を歩いているということだ。そりゃ入山規制なんて関係ないわな…。
「はぁ…。」
ついため息をついてしまい、ライネル様に聞かれてしまった。
「すまないな。こんな事になるとは…。母上の案内なら大丈夫だろうが、辛かったらいつでも言ってくれ。聖職者としての治癒魔法もできるから。」
「ありがとうございます。私が言い出したんです。弱音は吐けませんよ。」
ライネル様と私は苦笑しながら話していると、
「さて!そろそろ出発するわよ!」
っと、元気なエステル様の言葉が聞こえて重い腰を持ち上げた。そして心の中で思った。
休憩…短くない?
日も傾いてきて今日はここで野宿をしようということになった。ライネルも海もかなりへばってるわね。猫ちゃん達は平気そう。
火をおこして夕飯を作りながら、隣で食材を切ってる海に聞いてみた。
「ねぇ海。あんたなんでそこまで黒竜であることを隠すの?あたしだったら竜の力手に入れたら絶対力使いまくるのに。」
すると海は困ったように微笑んで話し出した。
「私は…死のうと思って黒竜に食べられたんです。役たたずでみんなに迷惑ばかりかけてたから…最後くらい囮として役に立ちたかった。でも結局黒竜になっちゃいました。その後も迷惑かけっぱなし。色々あって今は人間の姿ですけど闇魔法を甘く見てました。あんなに危険だとは…。それで黒竜の気持ちがわかったんです。そりゃ隠れてたくもなるなぁって。私は…力が欲しかったわけじゃないんです。人間として役に立ちたかったんです。だから黒竜になっても力を使いたくないんです…。」
あたしは話しながら表情が暗くなっていく海を見つめていた。そして思った。
あぁ…海は昔のあたしと同じなのね…。ハーフエルフなのにエルフと暮らしてて、エルフに比べたらあたしなんて役たたず。人間の世界へ憧れてても勇気が出なくて1歩を踏み出せずにいた。力があればと思ってたけど、いざ人間の世界に飛び出したらそんな悩みどうでも良くなった。自分は自分。そう教えてくれた人がいたっけ…。
「じゃあやっぱり黒竜と離れたいの?力を利用しようとは思わないわけだ。」
「そうですね…。役に立たなくても人間でいたいんです。あの人のように強くないから…。」
あたしはそれ以上聞かなかった。海が誰かを想っているのが分かったから。
夕飯をみんなで食べた後、海とライネル、ジョンを先に寝かせて、見張りをあたしとチャミでやることにした。火の番をしながら星を見ていると、チャミが突然変なことを聞いてきた。
「おばちゃんさ。死んでくみんなを送るの辛くなかった?」
あたしは吹き出してしまった。
「やだ!どうしたのよ急に!」
するとチャミは照れくさそうにしながらも話し出した。
「俺は親父死んだ時凄く辛かった。あんなこともう二度と味わいたくねぇって思ったんだよ。でもおばちゃんはハーフエルフだから何度も経験してるんだろ?辛くならないコツとかない?」
あたしは旦那のことを思い出しながらチャミに答えた。
「死んだ後も生きてるのよ。あたし達の中で。エルフはね、死んだら天国に行くんじゃなくてあたし達の側にいるって考えなの。見えないだけでいつも側にいるの。道に迷ったら導いてくれたり、泣いてたら背中をさすってくれたりね。だから寂しくない。目に見えないだけ。」
「ふーん。確かにそれなら辛くないかもな!」
「でしょ?だからあたしはみんなの死を乗り越えていけるの。」
チャミは納得したように火に薪をくべている。あたしは自分で言ったことを旦那にも伝えたことを思い出した。
だから旦那もあんな満足そうな顔して死んだんだろうなぁ。全く…子供たちのことも考えなさいよね!
空に輝く星を見ながら心の中で旦那に悪態をついた。
翌日、僕たちはまた火山を登っている。前を歩く海さんはまだ慣れない道が続いて辛そうだ。先頭のエステルさんはどんどん進んでいく。後ろのライネルさんとチャミは何か話しながら着いてきている。僕は海さんに声をかけた。
「海さん。大丈夫?休憩入れる?」
海さんは辛そうだけど笑って答えた。
「まだ大丈夫だよ。ありがとう。」
普段通りの海さんのように見えるが僕は何かが引っかかっている。嘘をついてるなら匂いでわかる。隠してることもなさそうだ。じゃあなんだろう…この違和感は…。
「そろそろ休憩にしようか!」
エステルさんが振り向きながらみんなに声をかけた。それを合図に座り込んだり伸びをしたり様々だ。僕は水を海さんに渡した。
「はい水。」
「あ!ジョンありがとう!いやー…体力の差を感じるよ。みんなよく倒れないね。」
海さんは水を飲みながら明るく言ってるが相当な疲労が見える。実際僕も結構疲れている。今日の昼過ぎになってから道の雰囲気が変わった気がする。たまに崖のようなところを登ることもあり、落石にも注意しないといけない。
「ねぇジョン?」
海さんが話しかけてきた。
「赤竜と橙竜ってここで何してるのかな?火山の…浄化?」
「えっ?」
僕は思いもよらない質問に戸惑った。
「赤竜は気性が荒いって聞いたことあるよ。橙竜は…分からない。あまり騒ぎを起こしたって話は聞かないな。浄化かどうかは分からないけど…もしこの火山が噴火したら麓の町どころかもっと離れた場所にも影響出るらしい。」
返答になっているか分からないような事を言うと海さんは遠くをボーッと眺めながら呟いた。
「まっさらにするならここがちょうどいいってことか…。」
海さんは水を飲み、何もなかったかのような顔で立ち上がった。
「よし!頑張ろう!」
誰に言うでもなく気合いを入れて、笑顔で水を僕に返してきた。
その後も過酷な道を登っていった。
夜は見張りを順番に回して過ごし、昼間は崖のような道を進む。そんな日々を繰り返して3日目。ようやく火口付近までやってきた。
振り返るとこの山が相当高い山だと感じる。遠くの海までしっかりと見えるし、運河なのか地図上で見るような細い線が張り巡らされているのがわかる。
エステルさんは海さんとライネルさんと竜の居場所について話している。
「橙竜の居場所ならなんとなく目星は付くわ。でも赤竜は分からない。同じところにいるのかも分からないし。どうする?」
「まずはハッキリしている橙竜の元に向かうべきかと。母上の案内で近づき、海さんが声をかける。向こうはきっと黒竜であると気づくでしょう。」
「安全とは言えないよね?私が会ってる間みんなは大丈夫?防御魔法とか使えるとはいえ相手は竜でしょ?私が言うのもなんだけど…竜は大きいし危険だよ?私だって安全とは限らないし。」
先ずは橙竜に会おうってことになってるな。竜か…。僕は黒竜がフェルス王国に来た時遠くから見てただけだけどかなりの大きさで鱗も硬そうだった。いざって時…どうしよう…。
するとチャミがみんなに向かって声をかけた。
「なぁ。今なんか聞こえなかった?」
全員が視線をチャミに移して耳をそばだてる。するとかすかにだけど何か音が聞こえる。石の転がる音?
すると次の瞬間突然地面が揺れた。
「地震?!」
「いや…まさか噴火?!」
海さんとライネルさんが慌てて姿勢を低くしながら驚きをあらわにした。
「噴火じゃないわ!地震…でもない。もしかして…。」
エステルさんはゴクリと喉を鳴らして言った。
「橙竜…来ちゃったかも…?」
その言葉を合図に地面が大きく盛り上がってきた。僕はチャミを引っ張って3人の元に駆け寄り、僕は海さんとエステルさん、チャミはライネルさんを抱えて盛り上がっていく地面から飛び降りた。
そして平坦な地面まで離れると目に飛び込んできた物に息を呑んだ。
橙色の鱗が地面の中からゆっくり出てくる。あまりの大きさに言葉も出せない。山から山が生まれるみたいだ。
「と、橙竜……。」
ライネルさんの呟きと共に全貌があらわになった大きな竜を前に僕らは全員動けなくなった。
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