第五十三話 島の秘密
ジョンとチャミを護衛の人達に紹介しているうちに町の検問も解かれた。というより、検問の原因は町付近で大規模な攻撃魔法が使われた形跡があったかららしい。魔物や魔族の襲来かと思って町の防衛の為に行っていたそうだ。
「チャミ、ジョン。ちゃんと町の人に謝るんだよ?」
私が言うと2人はバツの悪そうな顔で頷いた。隣にいるライネル様も苦笑いだ。
「事情を説明すれば大丈夫だろう。私もいるしな。そう気を落とすな2人とも。」
ライネル様の言葉に2人はちょっと元気を取り戻した。
「まさかあんなことで検問敷かれるとは思わなかったんだよ…。なぁジョン…。」
「町の近くだから余計目立ってしまったんですね…。本当にすみません…。」
この検問はこの2人のせい…。検問は解かれたけど町に着いたらライネル様が一緒に2人と謝ってくれるそうだ。領地内だったから良かったものの、他の領地だったらどうなっていたことか…。
「ライネル様、この2人は島育ちであまり世間を知らないんです。お願いします。」
ライネル様にそう言うとチャミとジョンが小さな声で抗議してきた。
「海ちゃんに世間知らずとか言われたくないし…。」
「こっちに来たばかりの時はあんなにしおらしかったのに…なんかいつの間にか保護者みたい…。」
「2人とも。聞こえてるよ。」
見向きもしないで言うと2人はギクッとしてそっぽ向いた。
全く…早速問題起こして…。この先大丈夫かな…。
「あ、そうだ!ジョン、あの話しといたほうがよくね?」
「え?…あぁ、あれか。」
チャミとジョンが何か思い出したように言った。
「これから火山地帯に行くんだろ?それってここから南のあの山だろ?」
チャミが山を指さしながら聞いてきた。
「あぁそうだ。あの山だ。」
ライネル様の返答に今度はジョンが話し始めた。
「あの火山…いま入山規制で誰も登れないそうです。なんでも1週間ほど前に活動し始めたみたいで、噴火する可能性があるみたいです。」
「えっ?!そうなの?!」
「あの山はうちの領地ではないからそのような情報は入ってこなかったな…まずいな…。」
私もライネル様も思わぬ足止めに困ってしまった。するとチャミが思いがけない言葉を発した。
「あ、でもその山に入る抜け道を知ってるって人に会って、俺らはその山の麓をこっそり抜けてきたんだけどな!いやーー、あの抜け道結構険しかったよな!しかも山から出る時も苦労したよな!見つかりそうでさ!」
は?チャミ今なんて言った?抜け道?見つからないように?規制されてたのに山に入ったの?
私の顔色が変わったのを察したのか慌ててジョンがチャミを引っぱたいた。
「チャミ!黙ってろって!」
「痛っ!何すんだよジョン!あの人だってよくああいうことしてるって言ってじゃん!」
私はニコリとして聞いた。
「2人とも…またそういうことしたの?黙って悪いことしたの?」
チャミとジョンは目を泳がせながら言い訳を考えている。
すると聞いたことのある声が聞こえた。
「あら?ライネルと海じゃない!しかもこの間の猫ちゃん達まで!こんなとこで会うなんて偶然ね〜!」
声の方を振り向くとそこにはエステル様がいた。
「は、母上?!なぜこんなところに?!」
「あ!あん時のおばちゃん!」
「猫ちゃん達まだこんなとこにいたの?探し人は見つかったの?」
「あ、えっと…はい。見つかりました。」
ライネル様の驚きも無視してエステル様はチャミとジョンと話している。
まさか…。
私はエステル様に聞いてみた。
「エステル様…もしかしてこの2人にあの山の抜け道…教えました?」
エステル様はいつもの調子で答えた。
「えぇ!この子達、急いでたみたいだったから。山を超えるのが一番手っ取り早いからね!」
私とライネル様は頭を抱えた。その様子をハテナを浮かべながらみんなの顔を交互に見ているエステル様。状況を理解していないチャミ。マズいという顔をしているジョン。
「やだ、どうしたの?」
エステル様に振り回される日々が始まったと私は直感した。
町に着いて滞在する宿を確保し、ライネル様とエステル様、そして私が食卓を囲んでいる。
「なんだそういう事ね!やーね。あんな規制大したことないわよ!それに噴火なんて起きないわよ。火口見てきたもの。」
「母上?!火口を見てきたのですか?!なんて危ないことを!」
エステル様の言動にライネル様が慌てふためく。私は黙って食べながら2人の会話を聞いている。
ライネル様…苦労してるなぁ…振り回されてるなぁ。
「危なくないわよ。私はハーフエルフよ?火山の噴火なんて土の竜を感じられるんだからすぐに気づくわよ!危なくなったら逃げればいいの!」
ん?土の竜を感じられる?
「あ、あの!」
私は会話の中に割って入るのを戸惑いながらも声をかけてみた。
「ん?なーに?」
エステル様が見つめてきた。ライネル様も黙って見てくる。
「土の竜を感じられるって…どういうことですか?」
すると目をぱちくりさせたエステル様が、ポンっと手を叩いて教えてくれた。
「あ!そうか。その事は教えてなかったわね。エルフは木から生まれるって言ったでしょ?つまり植物との縁が深いの。植物は土から生まれる。つまり土の竜との結びつきが強い。土の竜が近くにいたりすると何となく感じるのよ。私はハーフエルフだけどエルフと生活してたからそういうのも感じ取れるのよね。火山の噴火も土の竜が関わってることが多いの。あの火山には土の竜がいるわ。だから安心して入山したのよ。」
なるほど。エルフは土の竜を見つけられるのか。じゃあ石から生まれるドワーフも?
「じゃあドワーフも土の竜を感じ取れるんですか?」
エステル様は首を振った。
「ドワーフは魔法を使わないからエルフより感じられないみたい。だから近くにいても気づかないことが多いわ。」
魔法が使えないと感じにくいのか…。
その会話を聞いていたライネル様はカシャン!とフォークを落とした。びっくりしてライネル様を見ると口を開けて固まっている。
「は、母上…あの山には赤竜がいるのです…。まさか橙竜もいるのですか…?」
あ、そうだった。2匹いることを伝えてなかった。ライネル様…ごめんなさい…。
「ん?赤竜もいるの?それは分からなかったわ!2匹もいるなんてラッキーね!探す手間が省けたじゃない!」
ライネル様はガタンと立ち上がり、
「急ぎ兄上に伝えねば!」
と言って、ドタバタと部屋を出ていった。
「あの子なんであんなに慌ててるのかしら?2匹いたらラッキーじゃない?ねぇ?」
エステル様…そういうことじゃないです…。言わなかった私もいけないけど…。探してた竜が同じところに2匹もいる。つまり危険も2倍ってことです…。
私はエステル様に笑顔を返して黙って食事を続けた。
エステル様との楽しい食事を終えて部屋に戻ってきたら、部屋の前にチャミとジョンがいた。
「2人ともどこ行ってたの?夕食終わっちゃったよ?食べた?」
そう聞くとチャミが笑顔で答えた。
「おう!さっき食ってきたよ!」
「そうなんだ…。一緒に食べようって誘おうと思ってたのに居なかったから…。」
「ごめん海さん。僕たちちょっと用事を済ませてきたんだ。」
ジョンの言葉に首を傾げた。
用事?
宿が決まったと同時に2人の姿が見えなくなった。夕食までには戻ってくるかと思ったら全然帰ってこなくて心配したけど、エステル様に誘われてそのまま食事に行ってしまった。
「用事?…どうかしたの?」
私が聞くと2人は笑顔を消して真面目な顔になった。
「海さん。話がある。」
ジョンの緊張感のある雰囲気に息を呑んだ。
「海ちゃんの部屋で話していいか?」
チャミの提案に頷いて2人を部屋に入れた。
私はベッドに腰かけ、チャミは椅子に跨って背もたれに腕を乗せてる。ジョンは入口付近に立っている。この光景…前にも見たな…。あ、そうだ。獣人の奴隷制度の話を初めて聞いた時だ。あの時も2人は周りに人がいないか気にしていた。
私は2人の雰囲気に呑まれて心臓が脈打つのを全身で感じていた。緊張してしまう。
初めに口を開いたのはチャミだ。
「海ちゃん。あのな。俺たち海ちゃんを探しに島から出てくる時に村長にお願いしてたんだ。ある場所について調べて欲しいって。」
「ある場所?」
私の問いにチャミは頷いた。
「俺たちの島に遺跡があったんだ。島のやつらも誰一人知らなかったんだけど、たまたま子どもが森の中で見つけたんだ。子ども目線じゃないと見つからないような小さな入口だったから俺らも全然気づかなかった。その遺跡に入ってみると…中には広い部屋が1つあっただけ。しかも壁画が部屋の壁一面に描かれてた。すげぇ昔のものだって分かってさ、解読するのに手間かかったんだ。この事は島の外のやつには誰にも言ってない。フェルス王国にもだ。解読してから考えようって村長が言い出してその通りにしたんだ。そんでその解読中に海ちゃんのことを聞いて、俺とジョンは解読を村長達に任せてきたってわけ。そんでさっき、村長から転移の魔道具で手紙が届いたんだ。解読結果だ。」
私は息も止めて聞き入っていた。
「その結果…私が聞いてもいいの?」
恐る恐る聞くとチャミは頷いた。そしてジョンが言った。
「むしろ海さんにこそ聞いて欲しい。異世界人のことについてだったから。」
私は心臓がドクンとなった。
異世界人…について…。まさか…。
「まさか…異世界人の帰り方について…?」
2人は頷いた。
私は大きく息を吐いた。このタイミングでこの話が出てくるとは想像もしてなかった。そして今ここに、かなこがいないことを悔やんだ。
「海さん…話しても平気?」
ジョンが私を気遣って聞いてきた。
「大丈夫…。お願いします。」
私は覚悟を決めて話を促した。
「異世界人は召喚された時、ある条件を与えられるらしい。その条件は人によって違う。その条件を満たすと元の世界に戻れるんだって。でもその条件を満たすことなくこの世界で命を落とすと戻れなくなる。別の生き物になるんだ。魔族に。あと、これは俺らがダルシオン先生に聞いた話だけど、異世界人が魔物を食べると転化して魔族になるらしい。つまり魔族は異世界人の成れの果てってわけ。」
チャミの話を黙って聞いていて、私はペーター君のことを思い出していた。彼は黒竜になった私を元の世界に戻そうとしてくれてた時に魔族に刺されて命を落としてしまった。彼は…異世界人。そして恐らく条件を満たす前に死んでしまった。ということは…ペーター君は魔族になったってこと?でも天昇の儀で葬儀もしてその後土に埋めたと聞いている。どうやって魔族になるのだろう。
「海さん。もう1つ帰る方法があるんだ。」
ジョンの言葉に私は前のめりになりながら聞いた。
「どんな方法?!教えて!」
チャミとジョンは顔を見合わせて言おうか悩んでいるようだった。
「チャミ…?ジョン…?」
2人の様子に不安が見えて思わず声をかける。するとジョンが話してくれた。
「人間以外の種族になって異世界人に殺されること。つまり、ナコさんが元異世界人である魔族を殺すとその魔族は元の世界に戻れる。海さんは黒竜だからナコさんに殺されれば元の世界に戻れるよ。」
でもそれって…つまり…かなこはどうやって帰るの?内容も分からない条件とやらを満たすしか帰ることができないってことじゃん。
それに、もし私が黒竜と離れて人間に戻ったら、その条件を満たさない限り帰れない。白竜と黒竜をそれぞれ切り離したらこの世界は救われると思ってた。せっかく竜探しに乗り出したというところなのにもしかしたら自分の首を締める行為かもしれないってこと?
「ナコちゃんがフェルス王国に戻ったって聞いて俺ら不安になったんだ。もしナコちゃんが死んだら…。ナコちゃんは魔族になっちまう…。」
かなこは魔族との戦いのためにフェルス王国に戻った。もし…もしもの事があったら……。考えたくもないが、かなこも魔族になっちゃうの?
私はふと頭をよぎったもう1つの可能性について聞いてみた。
「異世界人以外に殺されたらどうなるの?例えばチャミやジョンが魔族を殺したら、その元異世界人だった魔族は帰れるの?」
ジョンが目を伏せながら答えた。
「分からない。そこの部分は壁画が崩れてて分からなかったんだ。でもその部分の先を読み解いていくと2つの結果が見えてきたらしい。1つは完全なる死。もう1つはこの世界の人間に生まれ変わる。記憶も何もかも無くなって赤ん坊として生まれてくるんだ。」
私は頭が混乱している。最善策が全く見つからない。魔族と戦いに行ったかなこが心配で仕方がない。それと同時に魔族を殺すことも出来なくなってしまって、このことを早く伝えた方がいいのかさえ分からない。フェルス王国のことを考えたら…。でも魔族も同じ元異世界人…。これじゃ、ただの人間同士の戦いだ。
「海ちゃん…ごめん。悩ませるつもりはなかったんだ…。」
私が悩んでるのを見てチャミが謝ってきた。それほど私は深刻な顔をしていたようだ。
「ナコさんはフェルス王国にいる。それに簡単にやられるとも思えないし、春までまだ時間はある。それまでに竜探しをしてナコさんのとこに行けばいいと思う。」
ジョンが私の悩みを解決する案を言ってくれた。
確かに今はそれしかない。魔族との衝突が始まるまでに何とかこっちの用事を済ませてかなこの元に行こう。そして魔族も救おう。
「そうだね。ありがとうジョン。チャミもそんな顔しないで。話してくれてありがとう。帰り方が分かっただけでもありがたいよ。」
チャミとジョンが部屋から出ていって私はさっきの話を思い出して考えていた。
かなこと私が無事に元の世界に戻る方法は2つ。
1つ目は、2人とも与えられた条件を満たす。これはかなり難易度が高い。その条件が分からないのが問題だ。でもこれが一番平和。
2つ目は、かなこも人間以外の種族になって私たち以外の異世界人に殺されること。これも異世界人を探さないといけないから難しい。それに人間以外の種族って…魔族くらいしか思いつかない。かなこを魔族にはしたくない。
私は白竜と黒竜とマスターを救うつもりだった。この世界のために。でもそれと同時に敵対している魔族も救う対象に入ってしまった。この竜探しを急がなくてはいけない。春までに竜を探して話を聞いて、黒竜を焚きつけるしかない。そうすれば黒竜は私と離れる。そして白竜とマスターを切り離せる。白竜と黒竜の力で世界を浄化して、フェルス王国と魔族の衝突を止める。
私はどんどん自分に責務がのしかかってくるのを感じて頭が痛くなった。何か1つでも代わりにやってくれる人はいないだろうか、とネガティブなことを考えていると、ふと思い出した。
そういえば。島で初めてマスターに会った時、マスターは何か調べていたと言っていた。そして収穫があったとも。もしかして遺跡を調べていた?それにジョンとチャミに異世界人の聞き取り調査について書かれた手記を渡したと言っていた。もしかしてマスターなら何か方法を見つけているかもしれない。
それと…あの研究者体質の鬼畜魔術師…。この情報を渡したら喜んで飛びつきそうだ。
私は机の上の紙に書きなぐるようにペンを走らせていった。
最後までお読みくださりありがとうございます。
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