閑話 家族
30分以内はセーフ
Side:ベル
メルの名付けが終わってからしばらくあとのこと、僕はこれまでやっていた訓練の内容を少し変えた。
その理由としては僕がどれだけ強くなってもそもそもお母さんとお父さんがいる限り力が必要になる場面があまり無いと言うのが大きい。
………まぁ、メルに泣かれるのが嫌だっていうのは否定しないけど。
でも、いつもやってる事をやめると今度は逆に違和感が出てき始めて、何かやらないと、と思い始めて、今日は山から街に降りてきた。
一応貴族の両親が、ここ周辺の領地を統括する偉い貴族に「ここは任せた! あとからついてこい!」みたいな感じで任されたのがこの街だ。
それ以上は詳しいことはよく知らないんだけどね。
まぁ、無理矢理押し付けられた街を管理するほどうちの両親は心が広くないから、「大体全部自由で!」みたいな事にして、悪漢は集まった冒険者やうちの両親がコテンパンにしたらあくどい奴らは消えていったっていうね。
つまりは結果的に良い方向に傾いたってこと。
「ベルちゃん?」
「おお! ベルにぃちゃんじゃねぇか!」
「ねぇねぇ、メルは?」「ジルねぇちゃんはいねぇのか!」
そうなると、こういう風に住民から見ると、あいつ良いやつだって結果になるんだよね。
僕はどんどんみすぼらしい教会の跡地のような場所の玄関に集まってくる子供達に向かって、奥の方にも聞こえるように言い放った。
「久しぶりに来たよ〜、元気にしてた〜?」
これは僕が敬語を使わないからと言って、変に映るわけじゃない。
むしろ敬語を使うほうが変に見える。理由はみんなが口が悪いからだ。
うん。敬語なんて知らないほうが多いからね。
「あ! やっぱりベルだ〜!」
「信じてなかったのか! 俺は見ただけで分かったぞ!」
「あぁ、今日はジルいないんだ〜………」
「メルねぇちゃんも……」
半数があからさまに落ち込んでいても気にしたない。
気にしないったら気にしない。
「お客さんが来たのに出迎えの言葉も言えないんですか? いくら何回も来てるからってベルちゃんもやってもらったほうが嬉しいに決まってるでしょう?」
「あ、フレア院長! ベルが来たよ!」
「出迎えの挨拶するぞ! 早く遊ばないと時間がなくなる!」
「ジルがいないもんな〜……」
「メルねぇちゃんと遊びたかった……」
「そんなこと言わないで、ベルちゃんが来なくなったら困るでしょう? はい、みんなで一緒に。」
「「「「いらっしゃいませ!」」」」
子供達は一列に並んで綺麗に腰を90度に曲げて頭を下げている。
「それは出迎えの言葉違いだね」
「それはお店での出迎えの言葉よ。家に迎えるときは?」
「「「「おかえり! ベル!」」」」
みんなで一斉に元気よく挨拶してくれたは良いんだけど…
「うーん、それもちょっと違う気がするね」
「これは………ベルちゃんは例外ってことでいいかしら?」
教育には妥協が必要らしい。
★☆★
Side:ベル
ところ変わって、とある道具屋(雑貨屋さん)にて。
「レイジさん今日はよろしくお願いします!」
「レイジの爺さん! よろしくな!」
「……よろしくです」
「よろしく〜」
孤児院の院長であるフレアさんの旦那さんのレイジさんのところに職業体験みたいなものだ。
ちなみにフレアさんもレイジさんも自分たちでは子供が出来なかったことから孤児院の子供達は孫のように可愛がってる老夫婦だ。
ただ、子供ができない夫婦にありがちな
「あなたのせいで子供ができないのよ!」
「お前の方に問題があるに決まってるだろ!」
と、言うことはなく、見ていて逆に微笑ましくなるくらいの円満夫婦だったりする。
その中に孤児院の子供達が入っていくから、まさに孫とそのお祖父さんお祖母さんにしか見えなくなるくらいに孤児院の子供達とも仲がいい。
「おう! 子供たちも元気がいいな! ってフレアはどうした?」
「今日はベルちゃんが一緒です!」
「院長はギルドに行くって言ってたぞー!」
「お金がないって言ってたぞ〜!」
「……皆で金稼ぎにきた……」
今日はフレアさんはギルドに用事があるみたいで、そこにのこのこやってきた僕が保護者枠としてこの職業体験を監督している。
みんな良い子だから注意する必要も無いんだけどね。
ただ、いつも遊びには来るけど真面目に手伝いに来たのは初めてだから、レイジさんだけだと大変だ、そんなわけで僕はレイジさんの目に届かないところを担当する。
「掃除道具は何処にありますか?」
「これはどこ置くんだ?」
「掃除道具は二階の上がってすぐにある。それはあそこの2百円って書かれてる棚の中だ。」
丁寧な言葉遣いで話すのが、レイラ。多分天然が入ってる。
種族は魔族で、本来魔族の特徴は魔力で強化してひたすら殴って時々魔法と言う魔法戦士が一般的だが、レイラは近接戦闘はからっきしで、魔法の適性が高い。
それを見抜いたフレア先生は座学を教えていて、実際に魔法を使える僕たち三姉妹が実技の先生になってる。
この世界の魔族は人類滅亡を掲げているわけではなく、むしろ人種の多様性に可能性を見出していて、スペックに頼った自分たちの戦い方ではなく、武芸を磨くところや、寿命が短いため、流行り廃りが早いところなどを利点としてみていて、それを取り入れるために自分たちの魔法の技術や知識のある人物を教師を提供して、人間と交渉をしたりしている。
ちなみに、魔族はほぼ見た目としては人種と変わりなく、強いて言うなら、寿命と魔力の質が違うくらいだ。量はあまり変わらない。
魔力の質にスペックの差があるらしく、研究しているらしい。
詳しくはよく分からないが。
見分け方としては、少し耳がとんがっていたり、魔族は頭の髪の下の生え際近くに角のような突起が2つほどある。
だから坊主の魔族は鬼っぽい雰囲気があるってことだ。髪があれば分からないってことだけどね。
掃除をしている姿を見ていてもそこまで人種と変わりはない。むしろ普通の子より礼儀正しい分レイラの方が年寄りなどには好かれると思う。
もう一人の子供っぽいのは竜人のリュカ。
体の大きい男の子で大人より身長は高いけど見た目はまだまだ子どもだ。
子供がそのまま大きくなった感じで顔は幼く、遠くから見ればただの子供だ。
某宇宙の超戦闘民族ではないが、戦うために体の大きさは先に大きくなったあとにだんだん年を取ると身長はそのままで大人になるらしい。ちなみにまだ身長を考えず見れば中学生くらいだ。
背で言えば、今の僕より全然保護者に見えるね。
見た目は爬虫類っぽい尻尾があって、常に左右にゆらゆら揺れてる。
それ以外はあまり変わりがない。ケモ耳も無い。
ファンタジー物の竜化とかも、幼い頃から大自然で弱肉強食の生活を送っていない限り、かなりの年月の修行が必要になるらしい。
強くなれば自然と使えるようになるやつもいれば、そうはならないやつもいる。
才能や血の濃さで決まるという。
ちなみに僕が見た人の中で竜人はリュカだけだったりする。
「いらっしゃい! これおすすめだよ〜!」
「……今なら私達手作りクッキーもついてくる」
「おっ! マジで? 買っちゃおーかな」
店の外で、接客(集客)をしてる元気な方は犬の獣人のレン。
ジル派の属してて、特にジルに懐いてる男の子。僕からみても多分恋とかはしてない。
多分姉とかそっちの方だと思う。時々ジルねぇとかって読んでるのを見たことがあるしね。
犬なのか狼なのか、本当なら獣人の国に居る人に犬の獣人と言えば"人に飼い慣らされた従順な獣"と言う侮辱に当たるものだが、レンは全く気にしていない。
本人の気性が争いに向いていない穏やかだからかもしれない。獣人の国に住んでないのもあるかも。
言葉は雑だが、心根は優しい子だ。
静かな方が猫の獣人でヒナ。
メル派に属してる女の子。あまり喋らないけど、自分の意見はちゃんと言うタイプ。
性格も猫みたいなもので、特になついてるメルには常に近くにいて、抱きついたりよじ登ったりする。
孤児院の最年少で、将来の夢はメルのお婿さんになって養ってもらうことだそうだ。
一応もう一回言っておくと、ヒナは女の子だ。
「いらっしゃーい!今だけ子供達が接客する道具屋だよー!」
「……買ってくれてありがとう。クッキーあげる。」
「まじでくれんの? 男共に女の子にクッキー貰ったって自慢するわ! ありがとな!」
「ポーションの在庫が残り少ないです。レイジさんどうしましょう?」
「レイねぇ、このくるくる回るのってどこに置くんだっけ?」
「ベル! ギルドにポーション買いに行ってくれ!」
おっと、仕事ができたみたいだ。
「じゃあ、買ってくるね! みんなちゃんとレイジさんの言う事聞いてね」
そうして手が回らないところに僕が適時手伝いをして、孤児院の子供達はどんどん客をさばいていった。
………
そして閉店時間になった頃に、お給料やレイジさんの家で余った食べ物を貰って孤児院に帰る。
帰る途中大通りを歩く中でこんな話があった。
「なぁなぁ、ベル。普通はこんなに種族が違うやつが仲良くしてるのは珍しいって冒険者の兄ちゃんが言ってたけどそうなのか?」
レンが何気なく訪ねてくる話はやっぱりその通りで、本来なら人間の街に別の種族の冒険者や旅人は来ようとも、孤児院で身寄りの無い別の種族を育てることは無い。
それは人種の人間も獣人の人間も皆、自分と違うことが恐ろしく感じるし、その子供だけが周りと違うことに恨みを持たないか、あるいはこの子の親を殺したのは我々の種族じゃないのかと、考えてしまうせいもある。
でもこの街は孤児院だけは領主の直営で、成り立っている。それは僕の両親が、街の集まりにお金だけ渡して、孤児院を作るように言ったからだ。
でもそれは人種の孤児たちが通う孤児院の話。人種以外の種族は受け入れていない。
街の集まりの人たちはやはり別の種族を恐れているのかもしれない。
それでも僕がそれに気づけたのはフレアさんとレイジさんがこの四人を家で育てていたから。
それを僕の両親に話してみたら予想外に「なんとかする」とは言わずにこう言った。
「もしその街の領主が別の種族を贔屓していたら、それだけでその子達は迫害を受けるかもしれない。だから私達には主だって解決するための何かは出来ない。」
話を聞いて僕はなるほどなぁ、と思った。
確かにお金を持っている僕の両親には子供達の生活を良いものにすることは簡単かもしれない。
でもそれをすれば、あの子達は妬みや恨みを買って虐められるかも知れない。
或いは法整備がなってないこの世界では、日本でさえも起きていた人身売買や拉致を行うのは容易だ。
それも人種では無い、親無しの力の無い子供であれば誰もが見てみぬふりをして助けようともしないかもしれない。いや、むしろ居なくなって清々する人も居るだろう。
そう考えると確かに両親が動くのは得策じゃ無いし、むしろ保護してくれている人が居るならその人達にも悪い事が降りかかるかも知れない。
そう考えて諦めようとしたとき、お父さんがこう言ってきた。
「うん。でも主だって出来ないだけでそうとは気づかせず支援することは出来る。ベル、パイプ役って知ってるかい?」
そう言われてから、僕はジルとメルと一緒にギルドで仕事をしたりして、稼いだと見せかけて、両親のお金でレフ―レイジさんとフレアさんの頭文字を取っただけ―孤児院を建てた。
一応立場としては僕が一番上だけど、給料もまともにフレアさんには渡せていない。
人種以外の種族が嫌いな人は「子供がそんなに稼げるわけがない! あいつらどっかから盗んできたんだ!」とか言ってくる前に対策として、出来るだけ僕が稼いだと記録のある分だけを出している。
それでも全員が大袈裟に感謝してくれて、良い人って居るんだなぁって思った。
でも、確かにレンの言うとおり、別の場所ならならどれだけお金を貯めて孤児院を建てたとしても領主や異種族嫌いのお偉いさんに邪魔されて終わりだったと思う。
このルイセントにこの子達が来たことも、フレアさんたちが見付けて保護したことも、僕がそれを見て助けようとした事も、それが実現できたことも、全部何かを間違えればこの子達はここにいなかったのかも知れない。別の子がここにいたかも知れない。
でもそれを理由に気に病む必要は無いと思う。
僕は転生者だから違うけど子供はそんなことを知っても運が良かったと言って、無邪気に遊ぶのが似合ってる思う。
だからこそ僕は軽くこう答えた。
「確かにそうかもね。でもここに居るじゃん。それで良くない?」
「ベルちゃん……それは答えになってなくない?」
「レイラは頭が硬いぞ! 俺らが仲良くしてるから珍しく無いじゃんか!」
「………リュカは考えなさすぎ」
お兄ちゃんらしくあろうとしているリュカにはヒナの言葉は衝撃的だったようで、ポカーンと口を開けたまま、後ろにいるヒナの方を見て固まっている。
それを見た全員が笑って、笑われたリュカはしばらく呆然とした後、特にツボに入ったようで、腹を抱えて笑っているレンに目を付けたらしい。
「よし、レン。この前強くなりたいって言ってたよな? 今度俺と一緒に道場でも行くか?」
リュカがギロリとレンを睨むと笑っていたレンは緩んでた口元を引き締めて、そろ〜りそろ〜り、レイラの方に逃げようとする。
バッとリュカが、飛び出すとレンが「助けて〜!」と僕らの周りをくるくると逃げ回る。
それを見て、レイラもヒナもクスクスと笑っている。
僕はやっぱり人が楽しそうに笑っているのが好きなのかもしれない。




