29・テスト勝負
——というわけでオサム率いる二組との「期末テスト合戦」が行われることになってしまった。
あの後、オサムと細かいルールを決めた。
まず「言語」「数術」「魔法」「体術」「社会」の五教科で、それぞれ代表を決めて、代表同士の点数の良し悪しによって勝敗を決める。
これは俺が放り込んだルールである。
クラスの平均点数になってみろ。
そんなのワンチャンも何もないじゃないか。
なので五人だけにしてしまえば、三組にも「一教科だけならトップクラス」の生徒がいるので、勝負になると考えたのだ。
勝負は一週間後の期末テスト。
負けた方がチートアイテムを相手に渡す。
言わずもがな、俺なら魔法のチョーク。オサムなら賢者の石である。
五人の代表同士の戦いについてのルールでも「まあ、僕はどうなろうと勝てると思うので大丈夫です」と承諾してくれた。
「……というわけで、一週間後の期末テスト! 何としてでも、二組に勝たないといけないんだ!」
教卓を叩いて、大きな声を出す。
ちなみに生徒にはチートアイテム譲渡云々は聞かせていない。
というか自分達のレベルが急激に上がっているのは魔法のチョークのおかげ……ということも知らないしな。
「先生—、それで誰を代表にするんですか?」
ロレッタが尋ねる。
「ふむ……それについて、だが……四人までなら決めている」
俺はチョークに教科と名前を書き記していく。
『言語 クロエ
数術 シャーロット
魔法 アリア
体術 ジェシカ
社会 ???』
「これで行きたいと思っている」
メンバーの選出については特に説明する必要はないだろう。
アリア、シャーロット、ジェシカの三人については単純にこのクラスで一番の秀才を割り当てただけである。
正直、この三人で三勝して勝負を決められる……とさえ俺は思っている。
特に体術については、実技ではなく筆記にはなるのだが、勝負事になるとペーパーテストであろうが、凄まじい実力を発揮するジェシカ。
クラス一……下手すりゃ、学校一の秀才であるシャーロット。
この二人についてはまず勝利を計算出来るだろう。
「先生? どうして言語がクロエちゃんなんですか」
「そのことなんだが……」
クロエは机に座り、サクサクと音を立ててサッキーを食べている。
机に山盛りになっているのはサッキーの入った箱だ。
「サッキーで買収した。勝ったら、それ以上にサッキーをプレゼントする……と褒美をちらつかせたら、これ以上ないやる気を見せてくれて、な」
「……頑張る」
幸せそうに頬にサッキーを溜め込むクロエ。
まるでハムスターのようだ。
実際、サッキーが絡んだ時の彼女の集中力は目を見張るものがある。
「そして……社会について、だが……これについてはまだ決めていない。誰かやりたいヤツはいるか?」
「はいはい! 私がやりたいです」
「却下だ」
「何で!」
積極性だけはクラス一のロレッタが真っ先に立候補する。
というかこういう時、バットを振りすぎだろ。積極打法、とかの緑能力を持っていないか。
「……薄々気付いていると思うが、お前はバカだ」
「そ、そんな!」
愕然とし一歩下がるロレッタ。
もしかしてこいつ……気付いていなかったのか?
「そんなヤツに勝負を任せられるわけがないだろ?」
「な、何でですか! やる気だけなら誰にも負けませんよ」
「やる気で済むなら警察はいらん」
「でも他にやろうとしている子はいないですよ! ねえ!」
ロレッタが教室を見渡すと、みんなは「私は関係ないですよー」と目を伏せる。
そりゃそうだ。
クラスの代表に選ばれれば、呑気にテストに挑めなくなってしまうだろう。
だからロレッタのように立候補するのは稀な生徒なのだ。
「そうだな……」
やる気だけはあるようだ。
それに勝利至上になってしまうのは俺の主義に反する。
(アリアとジェシカ……シャーロットで三勝すれば大丈夫か?)
最悪、保険としてクロエも控えているしな。
一つくらい捨て駒があっても良いかもしれない。
「分かった。ロレッタ……お前に社会の代表を任せるよ」
「やったー!」
喜びのあまり飛び跳ねるロレッタ。
教室の生徒はほっと安堵の息を吐いている。
「そうだ、ロレッタ。折角、代表になったんだからな——」
「何ですか?」
「今日から一日二十時間は勉強しろよ」
「そ、そんな!」
あからさまに嫌そうな表情を浮かべるロレッタ。
……お前、単純に「代表」っていう言葉に惹かれただけだろうが。
◆
「それで……ここは、この公式に当てはめて」
俺は今、クレアさんの部屋に招かれている。
先日、職員室でクレアさんに「勉強を教えて!」とお願いしたのだ。
クレアさんの部屋は宿屋のような大きな建物の一室にあった。
中もニホンでいう高級な分譲マンションのように清潔感があった。
二部屋しかなく、決して広い方ではないが……こまめに清掃をしているのであろう。床や壁も白く輝いているようであった。
「いや、ここ公式当てはめても答えが求められないんですけど?」
「あっ、そこは公式だけじゃなくて……」
クレアさんの顔が近付く。
クレアさんと二人っきりで、テーブルで隣同士になって数術について教えてもらっている。
一週間後のテスト勝負は俺が戦うわけではない。
しかし勝負のために教えるのは俺の役目だ。
その俺の知識が曖昧なままでは不味いだろう。
だからこそクレアさんに教えてもらおうと考えたのだが……、
(これはなかなか……良いことだったかもしれないな……)
「どうしたんですか? 先生。集中力が足りないように思えますが?」
クレアさんの顔が近付いてくる。
いつも幼い生徒達を見ているものだから、クレアさんの「ちょっと天然が混じっているお姉さん」という雰囲気も新鮮で心が奪われてしまう。
クレアさんの吐息は桃の香りで。
仄かな髪の香りは一輪の花を思わせた。
「いや! 大丈夫です。やましいことなんて考えていませんよ!」
「そうですか……じゃあ続きを……」
クレアさんが髪を耳にかけて、さらに顔を近付いてくる。
そのせいで首から肩にかけてのラインが余計に見えてしまって、集中力がなくなってしまうのであった。
(いかん! このままじゃ集中出来ん!)
結局、クレアさんの家庭教師大作戦の一日目。
美女と同じ部屋に二人っきり、というシチュエーションのせいでろくに集中出来ずに終わってしまうのであった。




