30・ダークドラゴン
きたよ!
高報酬の課外授業であるドラゴン退治がな!
「今回の課外授業は冒険者との合同ミッションとなっております」
教育ギルドのお姉さんの声にも力が入る。
一週間後にテスト勝負が開かれることになり、生徒達もますます授業を聞くようになってきた。
だったら良いんだけどな……、
「先生—、暑すぎですー」
今にも蒸発してしまいそうに顔を真っ赤にしているロレッタ。
頭には氷水が入った透明の袋を載せている。
これがテスト勝負の弊害。
勝負のために、座学を増やすことにしたのだが、その分水泳の授業が減らされてしまう。
どんどんと暑さも増していき、最早教室は灼熱となっていた。
そこで俺はこう言い放った。
「ええい! 少しは我慢しろ。もう少しで教室が涼しくなるものを買ってやるから」
だが、それをするためにはお金が足りない。
というわけで教育ギルドに行き、一発で高報酬を稼げる課外授業を探していたのだが……、
「冒険者合同のミッションですか?」
聞き慣れない言葉に対して尋ねる。
「はい。ここアドルフ市内にも冒険者ギルドというものが存在しているのです」
「ほうほう」
「その冒険者ギルドにあるクエストの中で、教育的意義が高いもの……もしくは冒険者ギルドだけでは手が追いつかない雑用的なクエスト……がここ教育ギルドに送られてくる、と言いましたよね」
「そんなこと言ってたような気がするな」
「今回は——ギルドが抱えている冒険者だけでは対応出来ない危険なクエストが送られたきたのです。それが『ダークドラゴンを討伐せよ!』クエストであります」
レッドドラゴンの次はダークドラゴンか。
うーん。
レッドドラゴンは青色のチョークで瞬殺出来たしな。
今回も何とかなるだろう。
「ただ……前のレッドドラゴンのような小物じゃないですよ?」
「レッドドラゴンで小物なんですか?」
いや、あいつレベル100だったぞ。
土壇場で青色のチョークの効力を発見出来なかったら、流石の俺でも負けていたかもしれない。
「そうじゃないと、教育ギルドに冒険者ギルドが応援を求めないですよ。驚かないでくださいね? 次のダークドラゴンは何とレベルが150もあるんですよ」
「へえー」
「凄いでしょ……ってもっと驚いてくださいよ!」
とは言ってもな……。
通信簿を開き、改めてステータスを確認する。
『一年三組 クラス総合レベル:2031
タクマ・ナナウミ レベル:203』
圧倒的である。
三組はバカは多いが、相変わらず魔法のチョークのおかげで面白いようにレベルが上がっていく。
というかこいつ等だけで、騎士団とか形成した方がよっぽど強いんじゃねえか?
「まあ任せてくださいよ。俺だけ、その課外授業に参加してもいいんですよね」
いくら三組の生徒のレベルが高いとはいえ、危険な目に遭わせたくないからな。
確かリュウヤが自分だけが強くなるためにそうしている、と言っていたような気がするので大丈夫なはずだ。
「……本当に大丈夫ですか? 冒険者達と一緒とはいえ、危険な課外授業ですよ?」
むっ。
どうやら俺の力を侮っているな。
「任せてください!」
自分の胸を叩いて、
「ダークドラゴンなんか俺一人で十分ですよ!」
「……気のせいでしょうか。それって負けフラグなような気がしますよ」
とはいえ、高報酬課外授業である『ダークドラゴンを倒せ!』に一人で挑戦することになったのだ。
◆
「お前が教育ギルドから派遣されてきた先生か?」
クレイモアを肩に背負った、筋肉隆々の男が質問してきた。
「ええ。新参者ですが、よろしくお願いします」
「足を引っ張らないようにしてくれよな」
「はい、頑張ります」
正直俺一人でも十分だが、ギルドのお姉さんが言っていた通り三十人くらいの冒険者との合同ミッションらしい。
俺達は今、ダークドラゴンが生息しているらしい、ヴィガラスの谷に来ていた。
一通り、見渡してみても冒険者の中に女は一人もいない。
それどころか、重そうな剣や鎧を身につけていたり、口髭を生やしたり、少々不潔な男しかいない。
いつも女の子に囲まれているからであろうか。
こんな男に囲まれていると、どうしても汗臭さが気になってしまい、無駄に集中出来ないような気がした。
「全く……奴隷学校の先生なんか来ても、戦力にはならないのに」
「心配すんなよ。俺達が守ってやっから。あんたは適当に隅で震えてろ」
「弱そうだしな。あんた、ちゃんと食べているのか?」
冒険者達からクスクスとした笑い声が聞こえる。
俺以外の冒険者達からは——仲が良いのか、一体感のようなものを感じた。
(まあ仕方ないか……)
冒険者からしたら「学校の先生なんか来ても役に立たねえよ」と思われているだろうしな。
そりゃあ自分達は本業としてモンスターを狩っているのに、学校の先生なんかに遅れを取らないと考えているのだろう。
そのような心理を読めるから、自分の立場を弁え体を小さくして、冒険者の列に付いていった。
やがてヴィガラスの谷に入ってから、数分が経過した後、
『ククク……人間共よ。無謀な戦いを挑みに来た、というところか』
突如、何もない空間が歪みゲートが出現する。
絵の具を溢したようなゲートから、黒くてでかい塊が現れる。
「ダ、ダークドラゴンだー!」
冒険者の一人が叫び、緊張感が走る。
マジかよ……。
レッドドラゴンとかと違って、異次元から転移してきたみたいに出現するのかよ。
そんなの強いに決まっているじゃねえか。
「みんな慌てるんじゃねえ! 俺の指示に従え!」
クレイモアを持った大男が先頭で構え、ダークドラゴンと正対する。
ふむ。
両足が震えているのを見るに、どうやら恐怖を押し殺してでも戦おうとしているらしい。
こいつめ。
口は悪いが、強者に出逢っても逃げ出さない程度の勇気は持ち合わせているみたいじゃないか。
そういうヤツは嫌いじゃない。
『ククク……ワシに立ち向かう人間がいるとはな。良かろう——ワシの全力を受け止めよ!』
黒く鉄のような体をしたダークドラゴンが口を開く。
その場で螺旋を描きながら、紡ぎ出されるのは黒色の球体である。
見れば分かる。
あれが発射されれば、ここにいる冒険者は一瞬で消滅する、って。
「——下がっておいてください」
やれやれ。
冒険者達では役不足らしい。
ギルドもこんな危険なクエストを、こんな未熟な冒険者に与えるなよ。
まあ心意気だけは気に入ったけどな。
「お、お前! 隅の方で震えてろ、って忠告したばか……」
「これが良いな……《レイ・アロウ》」
岩石に青色のチョークで魔法の名を刻む。
すると——そこから光の矢が一直線に放たれる。
『——く、くぉっ?』
発射された《レイ・アロウ》は黒色の球体ごと、ダークドラゴンの体を貫いた。
『み、見事だ……人間よ……』
口に光の矢を放たれ、後頭部まで貫通してしまっているダークドラゴンの体が薄くなっていき、やがて消滅してしまった。
その場に残されたのは『ダークドラゴンのオーブ』というアイテム。
「んー……どうやらレベルが上がる度に、魔力が増強されていくみたいだな」
つまりレベルが高くなればなる程、魔法の威力も上がっていく仕組みらしい。
右手には青色のチョーク。
左手で本を開きながら、チョークについてそう考察する。
というかまた一発で終わってしまったな。
強すぎる、というのも退屈なものだ。
みたいな台詞……吐いてみたり。
「い、一体……何が起こっ……お前、もしや……先生というのは仮の姿で本当は魔法使いだったのか!」
「いえ先生です」
青色のチョークがなかったら、魔法も使えないんだからな!
先ほどまで、偉そうにしていた大男の冒険者は地面に座り込んでいる。
よく見ると、股間のところが濡れているように見えた。
ダークドラゴンのせいか、それとも俺のせいか分からないが……漏らすなよ、こんなところで。
「その本は何だ? 魔法書か?」
冒険者の一人が興味深げに、左手で持っていた本を観察する。
「ああ、これは教科書だ」
パタン、と教科書を閉じ戦いのスイッチを切る。
——こうして簡単な課外授業『ダークドラゴンを倒せ!』をクリアしたのであった。




