28・勝負の予感?
職員室。
机に座り、俺はアドルフ奴隷学校のスケジュール表を眺めていた。
「んー……とうとうこの季節がやってきたか」
この奴隷学校は四花〜七陽中盤の一学期。九紅〜十二雪の二学期。一正〜三桃の三学期に分かれている。
一学期から二学期の間には夏休み。二学期から三学期の休みは冬休み……残りは春休み、とニホンにいる頃のスケジュールとはさほど変わらない。
故に異世界のスケジュールにいちいち頭を悩ませる必要はないのだ。
しかし!
俺が気に病んでいるのはそんなところじゃない。
「タクマ先生? どうしたんですか」
学年主任のクレアさんが気に掛けてくれる。
「クレアさん……そろそろ期末テストなんですよね」
「そうです! 一学期間の勉強の成果を見せる時ですよ。まあ三組の生徒はみんな優秀なので、心配することないと思いますけどね〜」
クレアさんがニッコリと微笑みかける。
心配することはない?
そんなわけないだろ!
「三組のヤツ等はレベルは高いですが……どちらかというと、勉強が出来ないというか、ペーパーテストでは実力を計れないヤツ等だといいますか……」
「どういうことですか?」
クレアさんが人差し指を口元に当て、小さく首を傾げた。
——そう。
三組の生徒は……一言で言うならば!
バカなのだ!
「あいつ等……期末テストに向けて勉強とかしてるのかよ」
期末テストは残り一週間に迫っている。
六雨・七陽に入って、三組は何をしていたか思い出してみる。
——傘を差して、アホみたいに鬼ごっこ。
一日の半分くらいはプールの授業。
「こここ、これは不味いぞ!」
何もしてねえじゃねえか!
机を叩いて立ち上がる。
「せ、先生っ? いきなり立ち上がって……ビックリしますよ!」
クレアさんが体を小さくさせ震えている。
レベルのことは心配ない。
何故なら魔法のチョークというチートアイテムがあるからだ。
しかしいくらレベルが高かろうとも。
生徒の知識が増えていくかといわれればそうではない!
簡単に言うなら、あいつ等は何だかよく分からないけど奥義を使ったり魔法を使ったり、何だか分からない状態でドラゴンとかと立ち向かったりしているのだ。
「そういうヤツ等を何と言うか……クレアさん! 知っていますか?」
「へ、へ? 何でしょう……天才肌とかですか?」
「違いますよ!」
答えは『脳筋』だ!
筋力にステータスを振りすぎて、賢さの値が低すぎる!
それが三組の生徒が抱えている慢性的な問題であった。
「タクマ先生とクレア主任……何をしているんですか?」
そんなこんなで喋っていると、職員室にオサムが入ってきて話しかけてきた。
「オサム……」
オサム。
俺、リュウヤと共に異世界に召還された人間。
最初に『賢者の石』というアイテムを貰い、二組の担任をしている先生である。
「期末テストについて話していたんだ」
「期末テストですか?」
オサムがくいっと眼鏡を上げる。
「ああ。お前んとこの生徒はどんな感じだ?」
「今更、期末テストについて心配していても仕方がないでしょう。僕のクラスは完璧です。期末テストでクラス平均九十点を狙っています」
オサムのかけている眼鏡がキラリと光った。
九十点……。
赤点だけから逃れようとしている俺とは見ているところが違う、ってことか。
そういえばオサムは賢者の石を使い、学年で一番の秀才クラスを目指しているんだっけな。
「流石、オサムだな……俺んとこは赤点を取らないようにするのに精一杯だぜ」
肩を竦めて、白旗を揚げる。
するとオサムは怪訝そうな顔付きになり、
「赤点を取らないようにする……それだけですか」
「そうだ」
「それはまた低い目標ですね。まあタクマ先生のクラスはレベルは高いものの、バカそうな生徒ばかりですもんね。そんなバカな生徒にはお似合いの目標かもしれません」
「な、何だと……っ」
ふつふつと湧き上がる激情。
気付けば、感情を抑えられなくなって大声を張り上げていた。
「俺の生徒をバカにするな!」
騒がしかった職員室が静まりかえる。
「——でも事実でしょう」
「俺のことはいくらバカにしてもいい……だが、俺の生徒をバカにするのは……」
「そんなに言うなら勝負しましょうか?」
勝負?
このパターン、前にも見たような気がするな。
しかし冷静さを失ってしまっている俺はオサムの罠に気付かず、
「今度の期末テスト。僕とあなたのクラスでどっちが高い点数を取れるか——それにあなたが勝てば発言は撤回しましょう」
「ああ、望むところだ!」
「しかし……」
考えるように顎を撫でるオサム。
「ただそれだけではつまらないでしょう。負けた方はクレアさんから貰ったチートアイテムを相手に渡す……というルールはどうですか?」
「クレアさん、そんなこと出来るんですか?」
いきなり話を振られたせいか、戸惑いの表情を浮かべたままクレアさんは、
「はい……ただ強引に奪ってしまえば、立派な窃盗になりますのでいけないですが……両人が納得しているなら、チートアイテムの譲渡は可能です」
相手のチートアイテムを使えることは、リュウヤの持つ勇者の聖剣で試し済みだ。
後から思えば、可笑しな話だったかもしれない。
何故オサムがクソアイテムだと思われていた魔法のチョークを欲しがるのか。
だが、生徒のことをバカにされ頭に血が昇ってしまっている俺は、
「それで良い! 今度の期末テスト、二組と三組でテスト勝負だ!」
と指をつけつけ即答してしまう。
「その言葉忘れないでくださいね」
オサムが踵を返し、職員室の出口へと歩き出す。
「ククク……上手いこと……。これでタクマ……チョークの謎を……明出来る……」
そんな独り言が聞こえたような気がするが……小さすぎて、よく聞こえなかった。
オサムが職員室が出て行き、静かに扉が閉められる。
リュウヤと違い、一つ一つの動作に優雅さ……というか育ちの良さみたいなものが滲み出ている。
「クレアさん!」
「へ、へぇっ?」
クレアさんの両肩を掴み瞳を見つめる。
「俺に勉強を教えてください!」
「え、えぇぇえええええ!」
魔法のチョークのおかげで目立たないが——。
俺だって! 立派なバカなのだ。
バカがバカに教えても、オサムのクラスには勝てないだろ!
——今回の勝負に早速暗雲が立ち込めてきた。




