27・水泳の授業(後編)
「先生も泳ぎましょうよー」
プールの中でロレッタが手招きする。
何処から持ち出したのか分からないピーチボール。
ロレッタの周りにはジェシカやアリアといった所謂「発育優良児」達がいた。
「ん……いや、俺は良い」
「そんなところにいたら暑くて死んじゃいますよ!」
実際——俺はプールに入らず、背中で太陽を受けているだけなので、火傷してしまっても可笑しくはない。
しかし! 今、プールに入るのは危ない!
というより三組の生徒に近付くことが危険なのだ!
「先生! 早く来てください!」
ロレッタがプールから上がり、俺の手を取る。
(こ、こいつ……っ!)
その時、ロレッタの胸の谷間に気付いてしまう。
ジェシカやアリアのように大きくはない。
けれど……今から大きくなる未熟な果実のような。
正直、ただでかいだけよりエロい。
『私は今から女の子になっていくよ!』
そうやって、胸の谷間が自己主張しているようであった。
「ちょ、ちょっと待って!」
引っ張られ、立ち上がってしまう。
それは両足で立つ、という一つの意味。
もう一つは——男なら分かるであろう。下半身がもっこりと盛り上がってくる現象だ。
(不味い!)
このままじゃ、生徒に不味い光景を見せてしまうことになる!
ロレッタの手を振り解き、走ってプールの中に飛び込む。
「先生! そんな勢いよく飛び込んだら、危ないじゃないか」
ジェシカが非難する。
「悪い悪い」
仕方ないのだ。
要はどれだけ下半身が「もっこり」してしてようが、水の中に入ってしまえばいいのだ。
下半身が水に浸かってしまえば、何となく誤魔化せることが出来るからな!
「はあ……それにしても」
気持ちいい……。
温泉に浸かるようにして、体を浮かび上がらせる。
暑くなっていた体がプールによって、急速に冷却されていく。
ひんやりとした水の感触がとても気持ちよかった。
「先生先生! 鬼ごっこしましょ」
傘鬼ごっこによって、追いかけっこの楽しさに目覚めてしまったのだろうか。
ロレッタの右手が俺の肩に触れた。
「な、何だいきなり?」
「先生鬼ですよー、だ。タッチされたら鬼なのです!」
舌を出しながら、背中を向けるロレッタ。
あいつ……言っておくが、ニホンにいる頃は水泳結構得意だったんだぞ!
いや……自由時間に友達と遊ばないで、ひたすら一人で泳ぎの練習をしていたら上手くなっただけどよ。
「待て! ロレッタ!」
ロレッタが必死に逃げようとするが遅い!
俺はクロール泳ぎをして、あっという間に追いついてしまう。
「はい、タッチだ」
ロレッタの背中をタッチする。
「反撃です!」
すぐさま手を伸ばして、タッチし返してきたが回避する。
一度、避けてしまえば後は簡単。
次は平泳ぎでロレッタから離れ、安全な範囲まで移動する。
「むーっ!」
むきになったロレッタ。
「ジェシカちゃん!」
「わ、私か!」
たまたま近くにいたジェシカに向かって、一直線に突き進んでいく。
ロレッタの泳ぎ方は……うん、犬かきと呼ばれるものでそんなに速くない。
だがいきなり名前を呼ばれたジェシカはビックリしてしまい、反応が遅れてしまう。
結果——ロレッタがジェシカをタッチし、鬼の権利が移行してしまう。
「ジェシカちゃんが鬼です! 私を捕まえてみなさい」
「ふん——誰に喧嘩を売っているやら。後悔させてやろう」
ジェシカがロレッタを追いかけ始める!
身体能力ならジェシカの方が何倍も上であっただろう。
しかし大きな邪魔をしているのか、水の抵抗をもろに受けている。
「ク、クソ〜」
ジェシカの口から悔しそうな声が漏れる。
「ふふん。ジェシカちゃんに勝っているのです!」
勝ち誇った表情を浮かべるロレッタ。
いや……ある意味、お前負けているんだからなっ?
ジェシカが犬かきのロレッタを追いかけていると、
「くっ!」
突如、ジェシカの顔が苦悶で歪む。
「あ、足が……攣った……っ!」
バシャバシャと手をばたつかせて、慌てるジェシカ。
「大変だ!」
どうやらジェシカは溺れているらしい。
こういう時こそ、先生である俺が助けにいかなくちゃな。
「ジェシカ! 俺に掴まれ」
「先生!」
ジェシカを救出すべく、水を掻き分けて彼女に近付く。
ジェシカは俺を見るなり、真正面から抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと待ちやがれ……もう少し、乙女としての恥じらいを、だな」
首に手を回して、力一杯抱きしめてくるジェシカ。
体が必要事情に密着してしまっている。
そのせいで……ジェシカの大きな胸を感じてしまう。
(で、でかい!)
そして柔らかい!
やっぱり大きいのは正義だ!
何せこれだけの柔らかい感触を味わうことが出来るのだから。
脳が蕩けていくような感覚。
下半身に血が集中し、どんどんと膨張していく。
「はあはあ……ジェシカ。もう十分だろうが……」
何とかジェシカに抱きつかれたまま、プールサイドへと移動する。
ここまで来れば、大丈夫だ。
これ以上ここにいてしまったら、マジでどうにかなっちまうかもしれない!
「じゃあ残りは自由時間だ!」
慌ててプールから上がり、更衣室の方向へと逃げようとする。
「先生! 何処行くんですか。もう少し遊びましょうよ!」
ってロレッタ?
ロレッタもプールから上がってきて、俺を引き留めようとしてくる。
「また今度な」
しかし俺にはそんな余裕はない。
ロレッタを無視しようとすると、
「ダメです——!」
ロレッタが俺の——を掴んで、何としてでも制止させようとする。
何処を掴んだのか?
水着一丁の姿なのに、一体何処を掴むことが出来たのか。
答えは——そう。水着であった。
「ぬおっ!」
水着を掴まれたのを知らないまま走ったものだから、盛大に転んでしまう。
「ロレッタ。何しやがる! 急に引っ張りやがって……」
「——先生!」
転んだまま、足を広げてロレッタに非難する。
だがロレッタの視線はそんなことを気にせず、一部分に集中しているように見えた。
……何処だ?
その視線の先を辿っていくと——そこは水着が剥がされ、生まれたままの状態になっている俺の股間が。
「——って!」
水着を引っ張られたものだから、それのせいで脱げてしまったのか。
つまり俺の股間をロレッタは凝視してしまったことになる。
真っ赤にして、両手で顔を隠しているロレッタ。
「おおおおお、お、お前が悪いんだからな!」
動揺する。
俺は股間を手で隠して、更衣室へと緊急脱出するのであった。
……後日談。
「あっ、先生。お、おはようございます……」
「おお、あ、おはよう……」
廊下でロレッタと擦れ違った時。
こうやって挨拶してくるのはいつも通りだが、あの事件があってから何処かぎこちない。
「じゃ、じゃあ教室で待ってますね」
「あ、ああ」
ロレッタがそれだけを言い残して、教室へと向かっていった。
……何というか。
しばらくの間、ロレッタは俺と顔を合わせるなり顔を赤らめていた。
「俺は悪くないよな?」
周りに誰もいないことを確認し、溜息を吐いて呟くのであった。




