26・水泳の授業(前編)
何だかんだで六花も終わり、七陽となった。
「夏だな……」
購買部で取り寄せた団扇で仰いで、セミの鳴き声を聞いていた。
こうしていると本当に異世界じゃないみたいだな。
「先生……暑いですぅ」
ロレッタが机に突っ伏して、暑そうに舌を出している。
衣服が汗でくっついており、鎖骨のところに浮き出る小さな汗の粒が艶やかであった。
ロレッタのくせに!
「この暑さで髪型も崩れてしまいますわ……」
アリアも微笑みを崩さないが、額のところに汗を浮かべている。
当たり前であるが、異世界にはクーラーも扇風機もない。
購買部で買ってやろうか?
いや……前、見たらとんでもない値段だったな。
傘とかティッシュとか無駄遣いしてしまったせいで、そこまで届くだけの金を持っていなかった。
「ええい! 暑いというから暑いんだ! 暑いって言うな! 暑いって言うこと禁止だ!」
「あー、四回言ったー。先生が言ったー」
「うるせえ! 俺は暑いって言ってもいいんだ暑い」
「語尾が『暑い』になっていますよっ?」
全く……。
折角、梅雨が過ぎたと思ったら次は暑さに頭を悩ませないといけないのかよ。
この暑さを何とか打破する方法は……。
ニホンにいた頃、学校で何をしていたか思い出す。
「そうだ……」
また閃いた!
学校の「夏」と言ったら、あれしかないじゃないか!
「よっしゃ! みんな! 今日は準備していないと思うから、明日の昼にな……」
その考えをみんなに提案する。
するとみんなは目を輝かせて、
「良いですね!」
「それはトレーニングにもなるな……私も賛成だ」
「サッキーが水でふやけてしまわないか心配」
ふむ、好評のようである。
女の子は嫌がるかなー、と思っていたが、精神年齢がニホンの同世代の女の子と比べて低い生徒達には素直に喜んでもらえるようであった。
教室が一気に明日のことに持ちきりになる。
「よし……じゃあみんな! 明日は楽しみにしてろよ」
とは言っても、一番楽しみにしているのは俺だったり。
胸に手を当てると、ドキドキと鼓動を打っていった。
翌日。
「プールの季節だぁぁああああ!」
俺は一足早く、プールの飛び込み台に立って叫んでいた。
そう!
夏といえばプールなのである!
このアドルフ奴隷学校にも二十五—メートルプールが備えられている。
それが夏にだけ解放され、こうして授業等で使うことが出来るのである。
「とはいっても……生徒の水着なんて期待してないんだけどな」
当たり前である。
だってあいつ等、十三歳くらいの幼い見た目をしているんだぜ?
そりゃあジェシカとかは凹凸がある体をしているけどよ。
「俺は生徒の水着姿になんて興味がない……興味がない……興味がない……」
言い聞かせるようにして、呟きを繰り返す。
俺だってプールで泳ぎたいのだ!
俺は現在、学校から配布された水着を穿いている。
プールに並々と張られた水の表面は太陽光によって反射しており、まるでダイヤモンドが水底に落ちているようであった。
涼しい風が通り抜ける。
「だから俺もあいつ等に混じって泳ぐだけ……」
「先生—!」
更衣室の方から生徒の声が聞こえた。
振り向いた瞬間——今までの俺の考えは全て吹っ飛んでしまう。
「なっ……」
ロレッタやジェシカ、といった三組の生徒が更衣室からこちらへと近付いてくる。
みんなが身につけている水着は所謂『スクール水着』と呼ばれるものだ。
他の水着と比べて肌の露出も少なく、紺色のスクール水着は一見セクシーの欠片もないように思える。
しかしそれは間違いであることを声高らかにして言いたい。
ただ裸になればエロい、だなんて大きな間違いだ。
ピッチリと肌に引っ付いた水着はボディーラインを強調させる。
水着から伸びる二本の生足は非日常を感じさせた。
ロレッタなんかは胸はあまり大したことはないが、突き出たお尻は男のものと違っていた。
ジェシカは……もう、何というか、凄い。
胸にメロンを二つ入れているようだ。それが歩くたびに揺れていて、目を奪われてしまう。
「先生?」
いつの間にかロレッタが目の前に近付いてきて、覗き込んでくる。
「ぬおっ! いきなり声かけるんじゃねえよ」
「いや……そんないきなりでもないような気が」
「俺にとったらいきなりなんだよ!」
訳の分からないことで大きな声を出してしまう。
ロレッタは釈然としない顔をしながらも、
「……まあいっか! 先生—! そんなことよりも早く泳ぎましょうよ。私、もう我慢出来ませーん」
ロレッタが無自覚なことがさらに腹立たしい。
まあ良い……。
その魅力的な体を、一端水の下に隠してしまえばこのドキドキも収まるだろう。
走りだそうとするロレッタを制し、
「まあ待て。まずは準備体操だろうが。心臓が口から飛び出しても知らねえぞ」
「体操しないとそんな弊害が!」
「ああ。だからみんなも! まずは準備体操をするぞ」
俺はみんなを一列に並べさせ、予め買っておいたラジカセのスイッチを入れる。
『ラジオ体操—第一!』
まあここは定番でいいだろう。
ラジオ体操のお兄さんの声を聞きながら、みんなが準備体操を始める。
初めてのラジオ体操だったので、殆どの生徒が出来ていなかったが。
しかし……体を動かすことによって、余計にラインが強調されると言うか……。
意識的に目を逸らしながら、俺もラジオ体操をする。
「よし! これで終わりだな」
さっさとこいつ等をプールに入らせてしまおう。
眼福……じゃなくて目の毒だ。
「入れぇぇぇええええええ!」
太陽に向かって叫ぶ。
すると弾けるようにして、みんなが走りプールへと飛び込む。
水飛沫が空高く舞い、同時に女の子のきゃぴきゃぴとした声が響き渡る。
「ふう……何とかこれで無事に済みそうだしな」
そう。
浮上してしまった問題。
先ほどは煩悩を消し去ることによって、危機を乗り越えたがこの先耐えられるか分からない。
「……持ってくれよ。俺の下半身」
——男なら分かるだろう。
エロいことを考えるとむくっと起きあがってしまうあの一物だ。
生徒が水をかけあったり、泳いで遊んでいるのを眺めながら、俺は背中で太陽光を受けているのであった。




