23・雨無双?
「先生—、頭からキノコが生えてきそうですー」
社会の授業。
ロレッタが机に突っ伏して、いきなりそう言い出した。
「まあ……異世界にも梅雨ってのは存在する、ってことなのか」
六雨——日本の六月に相当する時期だ。
窓の外を見ると、灰色の空から雨が降りしきっている。
雨はグラウンドや校舎の屋根に落ち「ポトポト」という音を奏でている。
もうこれで三日連続だろうか?
確かに——これだけ雨が降ると気が滅入るというものだ。
「でも我慢するしかないだろ」
「先生—、薄々感づいていましたがたまにチートっぽいところがあるんで、雨とか止ませることが出来ないんですか?」
「出来ねえよ!」
ロレッタのキレイな髪も湿気のせいで、荒れ放題になっている。
それにしても……梅雨って。
中世ヨーロッパの世界観のくせに日本っぽいところがあるんだな。
「アリアちゃーん……雨を止ませる魔法とか使えないんですか?」
「残念ながら。それに常時天候を操る魔法なんて、この世に存在しないですよ」
お淑やかにアリアが窘める。
アリアも表情には出していないが、この雨続きの日々を心地よく思っていないように見えた。
「ロレッタ——魔法はないが、俺の国に伝わる雨の止まし方ってのを教えてやろうか?」
「な、なんですかっ?」
「ああ。雨が止むまで外で踊り続けるんだ。止まない雨はないんだから、踊り続けていればいつか雨は止むだろ?」
「た、確かに! それは名案です」
目から鱗が取れたような顔をするロレッタ。
「ああ。これを俺の国では『雨止ましの舞』と言うんだ」
「成る程! 早速、やってみようと思います!」
——まあ正しくはアフリカとかに伝わる雨乞いの仕組みなんだけどな。
どっかネットでトリビア的なネタを漁っていた時に聞いた。
そんな感じで喋っていたら、丁度授業終了の鐘の音が聞こえた。
「気をつけ! にゃい!」
「最近噛まなくなっていたのに……」
号令を言い終わると、ダッシュでロレッタは教室から出て行った。
「冗談だったんだけどな……」
あいつ、本当に外で踊り続ける気かよ。
まあいっか。ロレッタだし。
「それにしても先生」
「ん? なんだ、ジェシカ」
ラッキースケベに呪われた女騎士ジェシカ。
ジェシカが腕を組み、不機嫌そうな顔で言う。
「ロレッタではないが、この雨は私にとっても辛い。外でろくに鍛錬も出来ないしな。室内にこもりっきりだったら、体もサビついてしまいそうだ」
「そうだな……」
まあジェシカの言うことにも一理ある。
俺もニホンにいる頃は登下校の時が面倒臭かったので、雨はあまり好きじゃなかったしな。
「雨を止ませる方法か……」
無論——そんな方法はない。
しかし何とか出来ないだろうか?
うーん、と考えを巡らせていると、
「そうだ!」
一つ良いことを閃いた。
「ちょっと待ってろよ……雨止ましの舞じゃないが、俺の国には似たようなお呪いがあるんだ」
早足で教室を出て、購買部へと向かった。
「てるてる坊主を作るぞ!」
放課後。
俺は生徒達を教室に集めて、箱に入ったティッシュペーパーを掲げてそう宣言するのであった。
——そう。俺はニホンにあるものを仕入れることが出来る購買部でティッシュを購入したのである。
資金なら心配するな。
前のドラゴン退治のおかげで、財布の中は相当潤っている。
「先生? てるてる坊主とは何だ?」
ジェシカが立ち上がって質問する。
「てるてる坊主とはな……俺の国に伝わるお呪いみたいなものだ」
「お呪い?」
「ああ。このティッシュっていうヒラヒラとした紙を使ってな」
ティッシュを一枚だけ取り、ヒラヒラとさせてみる。
「ここを……こういう風にして……」
その後もティッシュを何枚か取り出して、糸を使いてるてる坊主を作成していく。
最後にマジックでてるてる坊主の顔を描いて、
「ほら! これで完成だ!」
手足のないティッシュ製の小さなお人形。
誰でも知っているてるてる坊主の完成だ。
「これをこんな感じで飾っておいたらな」
早速、てるてる坊主を窓の近くに吊り下げてみる。
「このてるてる坊主が鬱陶しい雨を止ませてくれるんだ」
可愛らしいてるてる坊主が窓の外を見て揺れていた。
まるで「早く止んでよー」とでも言っているように。
振り返ると、三組の生徒はジト目をして俺を見ていた。
「先生……そんなもので雨が止むとでも思っているのか?」
「そんなこと有り得ない」
「ふふふ。可愛らしいですけど、そんな魔力も込められていない人形で天気がどうにかなるとは思えないですよ」
どうやら疑っているらしい。
そりゃそうだ。
というかお呪いなんだしな。
てるてる坊主を作れば「百%雨が止む」と言われればそうではない。
だが、俺は教室の壁を叩いて、
「みんな! 諦めたらそこで試合終了だろうが。雨止ましの舞の話をしただろ? 諦めなかったらいつか夢が叶う。だからみんなもてるてる坊主を作って雨を止まそうではないか」
ちょっと俺らしくない熱血だったかな?
俺がそう活を入れると、
「先生がそこまで言うのなら……」
と——三組の生徒は渋々とてるてる坊主を作成し出した。
最初は面倒臭そうにやっていて、作業のスピードも遅かったが、
「おいおい、それはちょっと下手すぎるだろ」
「私の傑作てるてる坊主を見よ!」
「てるてる坊主様—、どうか雨を止ませてくださーい」
何事にも一生懸命になれるのが三組の良いところだ。
てるてる坊主を作る要領も掴めてきたのか。
教室がてるてる坊主を作ることによって賑やかになっていく。
「うんうん! これが俺の求めていた楽しいハーレムクラスだ!」
俺は教卓からみんなを眺め、そう口にするのであった。
……三時間後。
「しまった! 作りすぎてしまった!」
教室の至る所にてるてる坊主が吊り下げられている。
その数は百は間違いなく超えているだろう。
これだけ所狭しとてるてる坊主が並べられていたら、何だか気持ち悪くなってくるな。
「まあ……これで明日にも雨は止んでくれるだろ」
疲れているみんなを見て、「帰っていいよー。お疲れー」と声をかけようと思ったら、
「先生! びちょびちょになっただけで、くっしゅん! 雨、止まなくっしゅん! って、何ですかこの変な人形さん達はー!」
今回のオチ。
実はあれからずーっと外で雨止ましの舞を踊り続けていたロレッタ。
くしゃみをしながら、教室に帰ってきて、てるてる坊主の大群を見て腰を抜かすのであった。
後で購買部で風邪薬を買って、渡してやろう。
頭の天辺から爪先までびしょ濡れになっているロレッタを見て、俺はそう思うのであった。




