22・ドラゴン退治(後編)
「こ、これは……っ!」
眉間に電気が走るようにして文字が脳内に浮かび上がってくる。
『この青色のチョークは名を書くことによって、自動的に魔法が発動されるアイテムとなっています』
「……名? 魔法の名前、ということなのだろうか?」
突如、流れ込んできた情報を信じるとそういうことになる。
つまり《ファイアーボール》と書けば《ファイアーボール》が。《ウォーター・シュート》と書けば《ウォーター・シュート》が発動されるということなのだろうか。
なんというチートアイテム!
今まで授業では白色のチョークしか使ってこなかったが、まさか青色のチョークにそういう効果があったとは。
「でも……ここには黒板がない。何処に書けばいいんだ?」
青色のチョークに語りかけるように呟いたら、
『いや別に黒板じゃなくてもええやろ。書くところは何処だってええ。木に書くのもええし、地面に書くのもええ。とにかく『文字』として残せるところやったら何処でもええ』
「なんでいきなり関西弁っ?」
意外にフランクな青色のチョーク……の精霊? だったらしい。
「先生っ!」
青色のチョークと漫才のようなやり取りをしていると、ロレッタの声が聞こえて我に戻る。
見上げると、レッドドラゴンの巨大な足裏が迫ってきていた。
一踏みするだけで俺の体なんて紙みたいになっちまうだろう。
「ちいっ!」
舌打ちし、地面を横転しながらレッドドラゴンの攻撃をかわす。
「本当に……そんなことが出来るか分からないが……っ!」
しかしやらなければ愛すべき生徒が傷ついてしまうのだ!
『うっかり言うのを忘れていましたが、一緒に魔法を当てたい相手の名前を書くとそこに向かって魔法が発動します』
そんな大事なことを言い忘れるなんて。
青色のチョークはちょっとおっちょこちょいらしい。
『我に近付くモノは全て焼き払う』
レッドドラゴンの大口が開かれる。
不味い!
もう一度、あの火炎が発射されたらタダでは済まないぞ。
「やってみるか!」
俺は近くの木に向かって青色のチョークで文字を書く。
どんな魔法が良いだろうな。
そうだ。暇な時に教科書の後ろの方を呼んでいたら、上級魔法の名前が書いてあったな。
いくら原理が分かっても、俺では魔法を使うことが出来なかったが。
その名前を思い出しながら——さながら授業をするようにして、魔法の名を綴る。
——《アクア・ストーム》
「勿論……対象者は……」
《アクア・ストーム》と書いた下にレッドドラゴンと書き込む。
『死ね』
レッドドラゴンの喉元から今にも火炎が発射されようとしているのが見える。
全てを焼き払う灼熱。
——口から火炎が飛び出そうとする瞬間であった。
「……っ!」
青色のチョークで書いた文字が青く光り出したではないか!
それは光の粒子となり、レッドドラゴンの周囲を取り囲む。
『……むっ! 何だこの魔力は!』
レッドドラゴンが怯み、火炎が口の中に引っ込む。
——発動した魔法は水の嵐であった。
水が渦となり、その中央にいるレッドドラゴン。
『ぬ、ぬおぉっ!』
レッドドラゴンの巨躯が嵐によって持ち上がっていく。
最初は抵抗の意志を見せていたレッドドラゴンであるが、魔法によって作られた自然には勝てない。
『ぬぉぉおおおおおおお!』
やがてその大きな体が舞い上がり、嵐と共に回転する。
圧巻の光景であった。
時間が経過する毎に、レッドドラゴンの鱗が剥がれ弱っていく。
うん。ちゃんとダメージを与えられているみたいだ。
やはりアリアの言う通り、魔法の属性が関係しているのであろうか?
「す、凄い……わたくしでも……いえ、エルフの中でも名だたる魔法使いしか使えない上級魔法を……これ程までに容易く……」
レッドドラゴンが舞い上がっている様子を見ながら、アリアが震えた声を発する。
あまり感情を表に出すことがないアリアでも、流石に目の前の光景には唖然としているようである。
魔法アクア・ストームが終わりに近付いていく。
水の嵐はその勢いを弱め、それと同時にレッドドラゴンが降下していく。
『かはっ!』
《アクア・ストーム》が終わり水の嵐が消滅。
レッドドラゴンは地上に勢いよく叩きつけられ、地面に横頬を付けた。
『ま、まさか……このような魔法を使える人族がいるとはな……』
苦しそうなレッドドラゴンの声。
息も絶え絶えで呼吸をしているだけでも精一杯のようだ。
「まだやるのか?」
レッドドラゴンに接近し問う。
『ふっ……我にはもうそのような力は残されていない。それに我が全力を使ったとしても、到底貴様には及ばないだろうな』
「そうか。じゃあ三組の生徒には危害は加えないか」
レッドドラゴンが黙って首肯する。
『人族よ。最後に問う。貴様は何を望む? 世界を蹂躙する力か。全てを手に入れる財産か。それだけの強大な力を得て尚、貴様の双眸は何を見る』
「俺が望むのは……」
腰に手を当てて、自信満々に言い放つ。
「俺だけのハーレムクラスだ!」
それを聞くと、レッドドラゴンが「ふっ」と息を吐き、
『成る程……よく分からないが、強大な力を持つ貴様のことだ。さぞ凄いことなのだろう』
ああ!
ハーレムっていうのはみんなに好かれてないとダメだしな!
一朝一夕で出来ることではないのだ。
『良かろう。では我の力——貴様に授けようではないか』
突如、レッドドラゴンの全身が白い光に包まれる。
その光はどんどん縮小されていった。
やがて白い光は小さなボールのような形となる。
それは独りでに浮き上がり、俺の手の平に載った。
「こ、これは……?」
そう念じると、脳内に文字が浮かび上がってきた。
『レッドドラゴンのオーブ』
白い光はなくなり、今では金色の宝珠が手の平にあるだけ。
成る程。
力を認めた相手にだけ与える、レアアイテム的な?
まあこれは教育ギルドに届けて、たんまりと報酬金を頂くとしよう。
「よし! みんな! 魔法については理解出来たか?」
俺は青色のチョークをチョーク入れに戻し、生徒の方を振り返って質問する。
それに対し、アリアも含め三組の生徒は一様にこう言うのであった。
「凄すぎてよく分かりません」
今回の教訓。
勉強は基礎から順番にやっていきましょう。
『アリア
種族:エルフ
ジョブ:魔法使い
レベル:28』




