20・魔法を使ってみよう
「成る程——タクマの貰ったアイテムは役立たずじゃなく、何か不思議なスキルが備わったものなのでしょうね」
暗くて狭い部屋。
本棚にはぎっしりと本が詰められており、室内を一本の蝋燭だけが照らしている。
そこで——オサムは賢者の石を見つめていた。
「リュウヤのレベルは30……対してタクマのレベルは93……一体、タクマの貰ったアイテムにはどのような力が備わっているのでしょうか」
オサムは通信簿を開き、タクマのレベルを確認する。
どうやらタクマが職員会議で言っていたことは妄言じゃなかったらしい。
——今、賢者の石の表面にはテレビのように映像が映し出されている。
タクマとリュウヤが合同で行っている授業である。
この世の理の全てを見通すことが出来るチートアイテム。
賢者の石——それがオサムの所持するアイテムである。
この賢者の石を使えば、遠く離れた場所の映像をも映し出すことが出来る。
「ただ……気になるのは賢者の石を持ってしても、タクマの持つチョークの正体が分からない」
タクマがここまで短期間でレベルを上げられたのは、あの謎のチョークしか考えられない。
いくら授業効率を良くして、生徒のやる気を引き出そうが、一ヶ月でクラス総合レベルを931まで持ってくるのは不可能だと考えたのだ。
尤も——この授業で三組の総合レベルはさらに上昇したのだが。
「リュウヤがダメだった点」
それは相手の力を見くびったこと。
戦いに際して、通信簿を開き相手のレベルを確認しなかったこと。
さまざまなことが考えられる。
それ以上に……オサムが考えるリュウヤの失敗とは、
「それはレベルがモノを言う『戦闘』という手段でタクマに戦いを挑んだことだ」
いくらリュウヤの生徒に度胸があったとしても、体術や剣術が優れ技術があったとしても、圧倒的なレベルの前では見劣りする。
レベルは確かにこの世界では重要な意味を持つ。
しかし——レベルを上げるだけでは、難しいことがある。
「謎のチョークの正体……あれを突き止めることが再重要課題だ」
全ての理を知る賢者の石を使っても、何故かあのチョークの詳細を知れることはなかった。
とはいってもリュウヤの持つ勇者の聖剣も見ることが出来なかったので、召還者が貰ったアイテムは賢者の石の管轄外かもしれない。
「さて——どう料理しましょうか」
オサムがクイッと人差し指で眼鏡を上げる。
理知的な瞳が生徒に囲まれ、幸せそうな顔をしているタクマの顔を捉えていた。
◆
「よっしゃ! 今日も授業を始めるぞ!」
合同授業も終わって、クラスも平常運転に戻った。
今日の一限目は魔法の授業。
この世界にもお約束的にMPを消費して、使用する魔法というものが存在するらしい。
自分でも辿々しい動作だと思うが、魔法の教科書を開いて黒板に書き込んでいく。
レベルアップ!
うんうん。
今日も魔法のチョークは絶好調らしい。
何もしなくてもレベルが上がっていく!
うん! 相変わらず良いアイテムを引いたものだ。
最初は「何だ、このクソアイテムは……」と思っていた俺を叱ってやりたい。
「せんせー」
ロレッタが手を挙げる。
「魔法……ってのは確かに理解は出来ました。だけど実際見てみないといまいちイメージが浮かびにくいと申しますが……せんせー、魔法使ってくれませんか?」
「お、おお」
まいった。
魔法のチョークは確かにチートアイテムであるが、いくらレベルが上がろうとも魔法を覚えることはなかった。
教師ジョブでは魔法を覚えることが出来ないかもしれない。
(どうしようかな……適当にはぐらかすのも先生としてはどうかと思うし)
と内心、冷や汗をかいて悩んでいると、
「先生? 良ければ、わたくしが使いましょうか?」
透き通った声。
声のする方を振り向くと——アリアが座ったまま発言していた。
「そういえばアリアってジョブが魔法使いだったんだよな」
「はい」
三組の生徒とは少し違う、大人びた声。
アリアはジェシカと同じ金色の髪をした少女である。
耳の先端が尖っており、『エルフ』と呼ばれる種族。
エルフは長命でありながら、容姿が美しいことが特徴的でアリアもその例に漏れない。
思わず教師という身分も忘れて、求婚してしまう衝動に駆られる程の少女である。
まあそんなことしないけどな!
一人の少女に肩入れしていたら、ハーレムを形成出来ないじゃないか!
「そうだな……じゃあアリア。お願い出来るか?」
「はい」
アリアが立ち上がり、目を瞑って精神統一をする。
エルフという種族は魔力が多く優れているものが多く、魔法使いというジョブに相性が良い。
さらにアリアは三組の中でも聡明で、魔法だけではなく他の教科の成績も良かった。
「……《ファイアーボール》」
アリアの手の平にサッカーボールサイズくらいの火球が出現する。
それは周囲の酸素を喰らいながら、俺——の方へ突撃してきた。
「こ、このバカ!」
焦りながらもファイアーボールの直撃を避ける。
火球は近くの花瓶に当たり、見事に消し炭だけの残した。
「お前! 別に発射する必要がないだろうが。火球を出現させたところで発動を止めておけよ」
「あら……すみません。そうすれば良かったですね」
困ったような顔になるアリア。
こいつ、頭は良いんだけど何処か抜けているんだよな。
もし俺に当たったらどうするつもりだったんだ……。
まあレベルが高すぎるせいで、大事には至らないと思うけどよ。
「それでロレッタ。今ので魔法の仕組みは分かったか?」
「分かりませんよ! 一瞬のことでしたし」
ツッコミを入れるロレッタ。
ロレッタが言うことも無理はない。
現に他にもいきなりの魔法発動に困惑している生徒が大半いる状態だ。
「……けどもう一回、発動させるのも怖いしな」
こんな狭い教室で魔法を発動させることが問題だったのだ。
俺は腕を組み、一頻り考える。
「そうだ。あれがあったな」
前——教育ギルドに行った時、面白そうな課外授業があったことを思い出した。
丁度、鐘の音が鳴り響き授業終了を知らせた。
俺は中が入ったチョーク入れをポケットに入れ、
「よっしゃ! 次の授業はみんなで課外授業をするぞ!」
と——三組のみんなにそう宣言するのであった。




