19・合同授業7
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自分は選ばれた人間だと思っていた。
学校では友達も多く、甘いマスクのおかげか女に困ったこともない。
いつも机の隅で気持ち悪い本ばかりを読んでいるあの……七海? とかいうヤツを見下して、生きてきた。
そして異世界に転移して、オレに与えられた武器は『勇者の聖剣』。
どうやらこれを持っているだけで、攻撃力が六倍になるらしいチートアイテムだ。
対して七海とかいう根暗野郎はチョークとかいうゴミアイテム。
異世界に転移しても、やっぱり根暗野郎は逆転出来なかったし、勇者の聖剣はまさしくオレに似合ったアイテムであった。
生徒なんてどうでもよかった。
だから適当に授業を終わらせて、放課後になったら狩りに出かける。
聖剣の力もあり、レベルはぐんぐんと上昇していき、たった一ヶ月でレベルを30まで上げることが出来た。
「オレは強いんだ……オレに逆らえるヤツはいない」
今度、七海……いやタクマだとかいう野郎のクラスと合同授業をすることになった。
前回ではたまたま強い生徒がいて、不覚を取ったが次は負けはしない。
前に負けたといっても、オレのクラスにいる出来損ないの生徒が負けただけだ。
もしオレが聖剣を持って戦えば、タクマに遅れを取ることはないだろう。
——オレはリュウヤ・キクチ。
選ばれた勇者で、全ての凡人を踏みつぶす神のような存在だ。
それなのに……。
◆
「どうして、お前はオレに逆らうんだよぉぉぉおおおお!」
二本指で聖剣を挟まれたリュウヤが咆吼する。
それは地面さえも震える、まさしく龍のような雄叫びである。
「む……っ」
リュウヤが両腕に力を入れ、俺の頭を真っ二つにしようとしている。
しかし……いくらリュウヤのレベルが高くても、聖剣による攻撃力の補正があろうとも。
俺とのレベル差は覆せるものではない。
リュウヤがいくら力を入れても、剣は進む気配さえもみせない。
「よっと」
俺はそれこそ、一枚の紙を持ち上げるような軽さで。
手首を捻り、リュウヤの腕から聖剣を奪い取る。
「はっ?」
口から間抜けな声が漏れる。
今——リュウヤが持っているチート武器は俺の二本の指の中にある。
「ふうん。これ、結構軽いな」
指を離し、地面に落ちた聖剣を拾い上げる。
ぶんぶんと振り回してみる。
まるでテニスのラケットを振っているような感覚。
いや……それよりも軽く感じる。
「ど、どうしてお前がそれを持つことが出来るんだよ」
「ん? 剣くらい誰でも持てるだろうが」
「何でだよぉ! オレ以外の人間はその剣が重くて持てないはずなのに! 選ばれた勇者たるオレだけが、聖剣を持てるのに! どうして、お前みたいな根暗野郎が聖剣を——」
リュウヤの口が閉じる。
いや、正確には俺が閉じさせたのだ。
一瞬でリュウヤとの間合いを詰め、聖剣を下から突き上げる。
「勇者みたいな立派なヤツが、他人の生徒をバカにするわけないだろ」
よっ、と。
もう一度、剣を一閃しリュウヤの髪先を消滅させる。
剣の振りに目がついて行けていないだろうか。
生殺与奪権を握られているというのに、リュウヤが微動だにせず目を見開いたまま。
「ちょっとくらいお仕置きが必要みたいだな」
聖剣を突き、リュウヤの頬を擦る。
「ひっ!」
頬の皮が一枚分だけ斬られ、ビビってリュウヤが地面へと尻餅を付ける。
頬からつぅーと流れ落ちる細い血の後。
俺はリュウヤの額に剣先を向けて、
「——俺の生徒をバカにするヤツは許さねえ」
「おおおおお、お前そんなことしていいと思ってんのか! これが終わったら、どうなるか分かってるだろな?」
「やれやれ。まだお前、自分の立場が分かっていないみたいだな」
「立場?」
体中が震え、小便を漏らして地面を濡らしているリュウヤ。
そんな状態でもプライドが残っているのだろうか。
目を閉じず、命乞いもせずに、俺に気迫を向き続けている。
「俺は——」
そんなリュウヤに向けて、自分でもぞくりとするような声で告げる。
「お前より強いんだよ——」
そのまま額に向かって剣を前進させる。
光り輝く刀身は皮を突き破り、頭蓋骨を貫通し、そして脳を破壊するはずであった。
聞こえたのは肉の音——、
「ダメですぅぅぅううううう!」
——なのに。
そんな愛すべき生徒の声で我へと還った。
「先生! ダメです。元に戻ってください!」
小さい体で。
ロレッタが俺の腰に体当たりをかましてくる。
「ロレッタ……」
腕を回し、抱くような体勢でロレッタが、
「ダメです! 今の先生……とっても怖い顔をしてます。このままじゃ、リュウヤ先生を殺しちゃうかも……」
泣きそうな声。
後ろを振り向くと——ロレッタ以外も、ジェシカやクロエが恐怖を感じているような顔をしていた。
今、俺はどんな顔をしていた。
「冗談だよ、冗談」
慌てて、聖剣を地面へと落とす。
(危なかったな……ロレッタに止められていなければ、一体……俺は……)
元々、憤怒していたことも理由かもしれない。
しかし勇者の聖剣を持った瞬間、怒りの色が増してきて周りが見えなくなったことも事実である。
(攻撃力を上昇させる代わりに、所有者をバーサーク状態にしてしまう武器なのかもしれないな)
ふむ。
そうだとするならば、この勇者の聖剣。
良いところばかりではないかもしれない。
「ありがとう、ロレッタ」
ロレッタの頭をくしゃくしゃと撫でる。
するとロレッタは俺の体から顔を離し、恐る恐る上げた。
「心配させてごめんな。ロレッタ」
「先生……元の先生に……」
「ああ、何とか正気を取り戻せたらしい」
ロレッタには感謝しなければならない。
状態以上の俺を——救ったのは生徒の一声ということか。
さて。
小便を撒き散らしているリュウヤに言わなければならない。
視線を臆病者へと戻して、
「リュウヤ。試合の最中に審判とはいえ、俺んとこの生徒が乱入してきたんだからな。この勝負、俺の負けでいい」
だが。
勝敗よりも、俺にはもっと大事なところがあった。
きっと意識的に眼光を鋭くさせて、
「だが、今度から二度と俺の生徒をバカにすれば許さない。そうすれば……どうなるか分かってるよな?」
「ひっ!」
尻餅を付いたまま、ゴキブリのように後退していくリュウヤ。
どちらの実力が上か、ということを体に刻まれたのだろう。
顎が震え、ガチガチと歯がぶつかり合う音が聞こえる。
「じゃあ教室に帰ろうか! 三組へ!」
ちょっとカッコ付けすぎなのかもしれないな。
——合同授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いていた。




