17・合同授業5
本日まさかの2回目更新。
「あいつ、いつも教室の隅で本を読んでやがんぜ」
「ブックカバーつけてるけど、気持ち悪い表紙の本を読んでるの丸分かりだな」
「女の子とろくに喋ったこともないんだろうな」
思い出すのは高校時代。
俺は人とコミュニケーションを取ることが苦手だった。
そして積極的に自分からコミュニケーションを取る必要もないと思っていた。
陰口なんて慣れている。
だから周囲の音が耳に入らないような振りをして、ずっとラノベを読み続けていた。
「……っ!」
本の世界に没頭していると。
突如、机が動いて本を落としてしまう。
「おう、悪い悪い」
どうやらリュウヤが机に当たってしまったらしい。
リュウヤは俺のクラスでも目立つ生徒であり、ちょっとワルぶっているところが女の子のウケが良いのだろう。
それに俺とは違い友達が多いようにも見えた。
「ほらよ」
無造作に本を拾い上げ、机に置くリュウヤ。
それは自然な動作だったかもしれない。
だが、本を開いた状態で表紙をこちらに向けて置くようなヤツにろくなのはいない。
——開きクセが付いちゃうじゃないか。
だから無意識にキッとリュウヤを睨んでしまったのだと思う。
「ああ? 何か文句あんのかよ」
凄むリュウヤ。
「いんや……何でもない」
「チッ。この根暗が。文句あんなら、言ってみやがれ」
この時の俺は何も言い返すことが出来なかった。
口は悪いものの、リュウヤに悪気がないことは分かっていたからだ。
だから口を閉じて、一言も発しない。
「そうだ、タクマ。オレ達、今からカラオケに行くつもりなんだけど、お前もこねえか?」
ニヤニヤとゲスめいた笑みを浮かべるリュウヤ。
俺がそんなところに行かないことを分かったうえで誘っているんだ。
そんなことは分かっていたから。
俺は首を振り、
「いや……悪いけど、止めておく」
「おう、そうかよ」
そのままリュウヤは興味を失ったように、仲間を引き連れて教室から出て行く。
俺は本を閉じ、開き癖が付かないように一生懸命伸ばすように持った。
(どうして——)
溜息。
周囲の音がだんだん消え去っていく。
スイッチをオフにすればいいんだ。
そうすれば何も感じなくなる。
だけど——俺の心は勝手に点灯し、
(どうして俺は主人公になれないんだろう)
そんなことを考える時点で子どもだ。
それは俺も分かっていた。
しかし子どもの俺は、そんなことも割り切れずに——。
再度、本を開いて物語の世界へと帰還する。
◆
「有り得ない……どうして、オレがタクマみたいな陰キャラに負けるんだ……?」
リュウヤは下を俯いて、何やらぶつぶつと呟いている。
「えーっと、じゃあリュウヤ。これで合同授業は終わりで良いん」
「有り得ない!」
バン!
地面を思い切り蹴って、鬼気迫る顔をしてリュウヤが詰め寄ってきた。
「何でなんだよ!」
リュウヤに胸倉を掴み上げられる。
今にも額と額がぶつかってしまいそうな近距離。
ニホンにいる頃のリュウヤを知っている俺からしてみれば、やはり心臓がキュッと縮むような気迫。
「リュウヤ、一体何が気に入らないんだ。勝負は終わっただろ?」
「有り得ないって言ってんだよ!」
リュウヤの唾が顔に付着する。
「どうして、お前にオレが負けないといけねぇんだよ。しかも一度ならず二度も……有り得ない……お前んとこの生徒、イカサマでもしたんじゃ」
それでスイッチが入った。
「くっ……」
リュウヤの手首を掴み、捻り上げる。
ゆっくりと手が離され、リュウヤが痛そうにして手首を押さえている。
「俺のことはいくらバカにしてもいい。だけど生徒のことはバカにするな」
自分でも驚く程、低い声を出せた。
沸騰していくような感情。
長らくこんな感情を忘れていた。
俺はこの正体を知っている。
「言って悪いかよ……お前んとこのヒョロヒョロの生徒。
甘やかされて育てられたせいで、呑気な顔をしてやがる。
それなのに……どうして、オレがお前んとこの生徒に……」
「これ以上言うな。これ以上、生徒をバカにすれば……」
どうなってしまうか分からない。
三組の生徒が心配そうな視線を向けている。
「お前みたいな弱いヤツが育てたヤツに……オレんとこの生徒が負けるわけがねえ」
「だったら決着を付けるか?」
ピクッ。
言葉に反応し、リュウヤの肩が小さく震える。
「俺のことを弱いヤツ、っていうなら俺とお前でどっちが強いか……戦ってみるか? もし俺が負けたら、土下座をしてやってもいい」
「冗談じゃねえんだろうな?」
リュウヤに生気が戻り出す。
以前の俺だったら、凍り付いてしまうような睨み。
俺はそれに怯まず、堂々としてリュウヤにこう言う。
「ああ、本当だ——決着を付けよう」
戦いの宣言。
するとリュウヤは獲物を捕まえた蛇のような顔をして、
「その言葉、忘れるんじゃねえぞ?」
リュウヤの腰からぶら下げられた勇者の聖剣が角度を変えて光ったように見えた。
ぐつぐつと沸き立つこの感情。
「先生……」
後ろからロレッタの声が聞こえた。
「心配すんな」
生徒を不安にさせるなんて申し訳ない。
だからロレッタの頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でた。
久しく忘れていた。
そう——。
この感情はまさしく怒り。
生徒をバカにされたことによって甦った感情。




