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16・合同授業4

久しぶりの更新です。

ジャンルをハイファンタジーから文芸コメディーに変更しました。

「よーし、じゃあ始め!」


 大将戦が開幕すると、ロレッタはその場で華麗なステップを踏み出した。

 半身になって、まるで踊っているかのようにその場で足踏みをする。


「ふふふ。私の動きに付いていけますか?」


 不敵な笑みを浮かべるロレッタ。


「そ、その動きは……っ!」


 セシルが何か感じ取ったのだろうか。

 ステップを踏むロレッタに近付けないでいる。


「ふふふ。どんどん早くなっていきますよ」


 右手を時計の振り子のように往復させ、両足はステップを踏み続ける。

 目眩がしてきそうなダンスである。


「今の内ならギブアップしてもいいですよ! というか早くギブアップしないと、大変なことになりますよ!」


 固まっているセシルに警告をするロレッタ。

 ステップが弧を描くように変化していく。

 芸術的なまでの動き。


 そう、まさに……。

 目眩がしてくるような……。


「ビビってないで、さっさと戦いやがれ!」


 審判という立場も忘れて、ロレッタの尻を思い切り蹴ってやる。


「な、何をするんですか! 先生!」


「うるせぇ! 何をするかと思って見てみれば、ただその場で足踏みしてるだけじゃねえか」


「どうしてそんなことが分かるんですか!」


「耳を見れば分かるんだよ!」


 頭に生えている猫耳は正直、そして何よりも雄弁である。

 こうやってステップ(ただの足踏み?)をしているだけのロレッタの猫耳がペタンと垂れているのである。

 これを見れば、とても戦おうとしているように見えない。


「うー、だって一人で戦うのは初めてっていいますか」


 確かに課外授業をする際には、まだ俺がついて行っている。

 さらに——俺が決めたルールとはいえ——彼女の双肩に勝敗の二文字がのし掛かっている。

 クラスの運命を背負った重圧に負け、最初の一歩目を踏み出せずにいたのだろう。


「いいから、戦いやがれ。なあに、お前の実力なら勝てるさ。今までのお前の努力を思い出せ」


 試合の最中ということも忘れて、ロレッタにアドバイスを送る。

 そう……。

 ロレッタの努力。


「気をつけ」「礼!」


 を噛まずに言えるように、いつも放課後に練習していたのを俺は見ている……。


「うん、大したことしてねえな。もしかしたら負けるかも」


「せ、先生!」


「冗談だ」


 ロレッタの体が震えている。

 マイペースのクロエや、自分の実力に絶対の自信があるジェシカとは違う。

 彼女はただの臆病な猫なのだ。


「なにをごちゃごちゃ……来ないなら、こっちから行くよ!」


 こうしている間にセシルの両足が地面を蹴る!

 力と速度を両立させた直進であった。

 模擬剣を切っ先をロレッタに向けながら疾走。

 ぐんぐんと間合いを詰め、模擬剣がロレッタに当たり——、


「ひゃあっ!」


 直前。

 間一髪でロレッタはバク宙をして、一刀を回避する。


「くそっ……ちょこまかと動きやがって!」


 むきになったようにセシルが剣を振り回す。


(凄い……っ!)


 今度は本音。

 ロレッタが踊るようにして、セシルの猛攻を回避している。


「ひゃあっ! 来ないでください!」


 ロレッタがしていることは、ただ必死になって攻撃をくらわないようにしていることだ。

 しかし獣人族の基本的な身体能力の高さがそうさせているのだろうか。

 体操の選手のようにアクロバティックな動きをしながら、剣筋を避けていく。


「セシル! 何してやがる。一発当てれば終わりなんだ!」


 リュウヤが貧乏揺すりをして、焦ったようにして大きな声を出す。


「そ、そんなこと言ったって……」


 セシルの頬に一筋の汗が流れる。

 模擬剣を横凪ぎに一閃。

 当たると思った直後、ロレッタはしゃがみ片手を地面に付いている。


「ふんっ!」


 そのままセシルは剣を振り下げる。

 だが、ロレッタは片手で逆立ちをして、またもや回避。

 さらにはそのまま逆立ちのまま、ピョンピョンと跳ねながらセシルから離れていく。


「逃げるなっ! 戦え!」


「嫌ですよー、だー!」


 まるで鬼ごっこのようであった。

 いくらセシルが剣を振り回しても、ロレッタの体には擦りもしない。


(そうか……こいつの戦い方はこれが正解だったのか)


 つまりロレッタはステータスの中でも『回避力』がずば抜けて高いのだ。

 そして——ひたすら避け続けていると、


 レベルアップ!


 そんな文字がロレッタの頭上で跳ねる。


「ん?」


 なんというタイミングの良さだろうか。

 極度の重圧をかけられ、攻撃を回避することによって大量の経験値を得た、ということなのだろうか。

 何かに気付いたようにロレッタの動きが一瞬止まる。


「これで……終わりだよ!」


 その隙をセシルは見逃さない。

 セシルは模擬剣を滝のように振り下ろす——。


「先生、私……奥義覚えちゃいました!」


 ロレッタが右手を向ける——。


 むにゅ。


 巨大な猫の手であった。

 ロレッタの前に突如出現した巨大な猫の手が、セシルが振るった模擬剣を受け止める。


「むにゅっ?」


 セシルが目の前の光景に愕然としている。

 ——誰もがその可愛らしい光景に息を呑んでいる。

 ぷにぷにとした猫の手——もといネコキュウが盾となっているのである!


「くらえ! 私の初めてにして新奥義! その名も『ネコパンチ』!」


 嬉々としてロレッタが言い、セシルを指差す。

 するとその巨大な猫の手は、そのままセシルにのしかかった!


「な、何だ……こ、この手は……っ!」


 逃げようとするが、ネコキュウに剣が挟まって逃れることも出来ない。

 どんどんと迫り来る猫の手。


 最早、セシルに次の手など存在していなかった——


「ふんぎゃ!」


 セシルの体に覆いかぶさるようにして、巨大な猫の手がのしかかる。


「ふう……やっぱり正義は最後に勝つんですね」


 ロレッタがその光景を見て、額に浮かんだ汗を手拭いする。

 やがて猫の手が徐々に消滅していく——。


「にゃ、にゃあ……」


 そこには両目が猫マークになっているセシルが。

 目を回して倒れていた。

 模擬剣は手から離れ、とても勝負を続けられるとは思えない。


「しょ、勝者!」


 クロエやジェシカとは違う。

 嬉しさが爆発しながらも、冷静を装いながら『その名』を告げる。


「ロレッタ——」


 終わってみれば三組の三勝〇敗。

 誇れる生徒を抱きしめたくなる程嬉しい。


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