15・合同授業3
「よくやったじゃないか! クロエ!」
「サッキー」
「速すぎてお前の動きがあんま見えなかったぞっ?」
「サッキー」
「やっぱりお前を先鋒にしたのは間違いじゃなかったよ」
「いいから早くサッキーを」
「……はい」
サッキーの箱を見せると、奪うようにしてもぎ取りサクサク……と食べ出した。
——これは後から聞いた話である。
クロエの新奥義『隼』。
これはジョブが暗殺者の状態でレベルを30の鍛錬をこなすと自動的に覚えるモノらしい。
この奥義を使えば、一分間程——素早さの値を十倍まで引き上げることが出来る。
結果。
ギルガマッシュがどれだけ早かったとしても、元々レベルの差があり、さらに素早さを十倍としたクロエの敵ではなかったのだ。
「次は私だな」
意気揚々とジェシカが一歩を踏み出す。
「おい、スリム。絶対、負けんじゃねえぞ……負けたらどうなるか分かってるよな?」
リュウヤ側では、スリムと呼ばれた巨体の女が鼻から息をしていた。
スリムという名前に似合わない、お腹が出てボールのような少女である。
というかどうして一組は重量級ばっかなんだよ。
まあ格闘面から考えて、体重が上の方が得なのかもしれねえけどよ。
「あー、ジェシカ……お前にはアドバイスとは必要ないよな?」
「無論だ」
胸を張るジェシカ。
健康診断の時のジェシカを思い出してしまい、視線を逸らしてしまう。
「……っ! 奥義は使うのか?」
「使わないに決まっているだろう。あんな連中、私が本気にならなくても十分だ」
ジェシカにはラッキースケベの呪いがある。
そのせいで奥義を使ってしまえば服が破れ、下着姿となってしまうのだ!
「期待に応えられなくてすまない」
「何のっ!」
「読者の、だ」
訳が分からん。
……まあジェシカは既にレベルが50を超えている強者。
見てみると、リュウヤ側の生徒……えーっと、スリムだっけな?
あの子はたったレベル3みたいだし、ジェシカが欠伸をしながらでも勝てるだろう。
「あんな弱者相手に奥義を使う状態など……最早、自分の力をひけらかしたい愚か者だけだ」
「だな」
「それに私は奥義を使わなくても十分強い。先生にそれを見せてやろう」
好戦的な笑みを向けるジェシカ。
次は先生と戦いたいぞー、と言わんばかりの表情である。
「両者——前へ」
ジェシカとスリムが正対する。
すらりと高いジェシカは女神のようで、肩を揺らしながら歩く巨体のスリムはあまりにも対照的であった。
スリムがそのまま倒れれば、ジェシカがぺっちゃんこになってしまいそうな。
「では——スタート!」
戦いの火蓋が切って落とされた——。
さて、結果だけを伝えよう。
こんなもん、レベルが二十倍程の差があるのでジェシカが負けるわけがない。
ジェシカの圧勝で試合は終了した。
問題は……、
「クッ……ついつい本気を出してしまった! クッ、殺せ!」
下着姿となったジェシカが両腕で体を隠していることだ!
「何で奥義を使ったんだよ」
そう——。
ジェシカは奥義を使わずとも楽勝だったのに、「ふん。動きが鈍すぎる。貴様が手を動かす度に、私は七度斬り伏せることが出来るぞ!」と言って、いきなり七閃を発動。
七度の剣を大きなお腹に放たれたスリムはそのまま気絶し、先鋒戦と同じく前のめりに倒れた。
倒れた……のだが、同時にラッキースケベの呪いが発動。
「戦っていたら、熱くなっていて……クッ、自分を律することも出来ないのか! クッ殺」
顔を赤らめて、さらに体を縮ませるジェシカ。
水を弾くような白肌。
全く、これだけキレイなのに何を恥ずかしがる必要があるというのか。
「まあ、相手を舐めて本気を出さないジェシカはジェシカらしくないよ」
そんな俺の呟きはジェシカの耳には入らなかった。
「ま、まさか……そんな……っ!」
自慢の生徒だったかは知らないが。
即効で自分達の生徒がやられてしまった惨状を見て。
流石のリュウヤも信じられないように、愕然として立ちすくんでいた。
「オレんとこの最強の生徒が……」
「でー、えーっと、これで合同授業は終わりでいいかな?」
二勝〇敗。
最後の一戦を仮に落としたとしても、二勝一敗となるだけなのでこの時点で勝利は確定したのであった。
振り返ると、三組の生徒の顔が心なしか明るくなっているように見える。
——ああ、自分達でもやれるんだ。
そんな自信が湧いてきているのだろう。
だからかもしれない。
「先生—! 私も! 私も戦いたいですっ!」
異常なやる気を見せて、ピョンピョンと跳ねるロレッタ。
「ロレッタ、もう終わりなんだ。正直な話、俺はお前が負けてしまうかもしれない、と思っている」
「どうしてっ!」
「最悪、殺されてしまうかもしれん」
「授業中にそんなこと起こるわけないじゃないですか!」
いや、分からないぞー。
なんてたって、大将戦——ロレッタの相手は、
「リュウヤ先生。私が! 私がみんなの仇を取ります。私に行かせてください!」
——前回、ジェシカと戦った一組のエース、セシルなのだから。
通信簿を開くと、セシルのレベルは既に10に達していた。
クラス総合レベル40そこそこの一組の中では、破格の戦闘狂。
(それでも……ロレッタの方がレベルが高いんだがな……)
しかしそれは圧倒的なレベル差ではなく、たった2の誤差だ。
セシルの方が戦闘に慣れていそうだし、もしかしたら番狂わせが起こるかもしれない。
「セシル、お前はオレに恥の上塗りをさせたいのか?」
ピクッ、とセシルの体が震える。
気をつけ、の体勢をしているセシルに向かって、
「この団体戦は一組の敗北。だからこれ以上やっても、お前が負けて三勝〇敗になるかもしれないというリスクがあるだけで、メリットは一つもなく……」
ロレッタの元気な猫耳を見て思いつく。
「この大将戦で勝ったら、団体戦の負けを認めてやってもいいぞ」
何気なく俺がそう言うと、リュウヤの顔がゆっくりと向いた。
「今、何と言った……?」
「大将戦で団体戦の勝敗を決めてやっていい。まあどうせ、うちの生徒が勝つしな」
ロレッタが負ける可能性は存在する。
だが、リュウヤと違い俺はこの団体戦の勝敗をさほど気にしてはいない。
ならば少しでも遊戯の時間を延ばしてやるのも一興だろう。
「その言葉、忘れるんじゃねえぞ?」
ニィヤァ、とリュウヤの口元が歪む。
さて、と。ロレッタ。
これでお前が戦う舞台を用意してやった。
さあ! 思う存分戦うがいい!
「えっ、先生……本当に戦うんですか? しかも私で勝敗が決まる……って。そんなことまでしてもらう必要なかったといいますか」
やる気がなくなってるじゃねえか!
——何やともあれ、合同授業の終わりも近い。




