14・合同授業2
「ロレッタ、ジェシカ——そしてクロエ! 君に決めた!」
某ボールを投げつけてモンスターをゲットするアニメの主人公のように名前を呼ぶ。
「先生。私は分かるが、どうしてロレッタとクロエを選出したのか聞かせてもらえないか? 高レベルなら他にもいるだろう」
ジェシカが訝しむような顔をして答える。
現在、ジェシカのレベルは56。
レベルが高くなりすぎて、上昇の幅は少なくなっているものの、文句なしで三組のエースである。
勝利することが全てだとは思わないが、リュウヤが調子に乗るのも精神衛生上でよろしくない。
戦いにも慣れているし、確実な一勝を得るためにジェシカは絶対必要なところ。
「団体戦っていうのは、個人の能力が全てじゃないと思うんだ」
サクサク……。
クラスの代表になったものの、いまいちやる気が感じられないクロエを見ながら言う。
「クロエのジョブは暗殺者。レベルはクラスの中では平均的なものの、自分の姿を見せなくする影牢といい、面白い奥義を覚えている。クロエには先鋒で出てもらって、相手の様子を探ってみるよ」
ちなみにクロエのレベルは32。
クロエの豊富な奥義があれば、どんな相手でも柔軟に対応出来ると思ったのだ。
「ふむ……それなら分かるがクッ殺」
「明らかにクッ殺使う場面じゃなかったよな?」
「でもロレッタはどうなる? ロレッタは間違いなく、クラスで下から数えた方が早い程弱い」
「むーっ!」
ジェシカの物言いに腹が立ったのか。
頬をハムスターのように膨らませるロレッタ。
「ジェシカちゃんは優等生だからって調子に乗りすぎです!」
「事実のはずだが?」
「私は学級委員なんですよっ? 学級委員が代表なのは普通のことじゃないですか。きっと先生も……私のリーダーシップを期待して」
「ロレッタを選出したのはぶっちゃけノリだ」
「違うかった!」
空気が抜かれた風船のように床にしゃがみ込むロレッタ。
いちいちこの子はオーバーリアクションを取ってくれて、面白い。
「まあまあ、ノリといったのは事実なんだけど」
「そこは否定してくださいよ!」
「学級委員のロレッタのリーダーシップに期待した、っていうのも一部では本当だ。精神的支柱? みたいなもんかな。ロレッタには大将として、どーんと構えていて欲しい」
「シチュー? 何だか美味しそうですね」
「おう、後で作ってやんよ」
精神的シチューを、な。
想像しているのか、口から涎が垂れるロレッタ。
やっぱりこいつ、バカの子だ。
「……まあ大将がくるまでに勝負は終わるだろ」
正直、クロエとジェシカで二勝をゲット出来るので、最後の一人は誰でも良かった。
それに万が一、勝負が大将戦にもつれ込んでも、ロレッタなら何とか倒すことが出来るだろ。
「というわけで団体戦のメンバーを改めて言う」
何処から運んできたのか——。
移動式のホワイトボードにメンバーを記入する。
ちなみにマジックで書いたので、これだけでレベルが上がるはずもない。
『先鋒:クロエ レベル32
中堅:ジェシカ レベル56
大将:ロレッタ レベル12』
◆
「ルールは前回と同じ。模擬剣を使った模擬戦だ。どちらかがギブアップするか、審判役の俺が途中で試合を止めるか——それで勝敗を決める。両方、質問は?」
問いかけるが、クロエはやる気がないのだろうか。
相変わらず、サッキーをサクサクと食べている。
「あんた、やる気があるのかい?」
リュウヤ側の生徒が、渡された模擬剣でポンポンと肩を叩きながら言う。
ちなみにリュウヤ側の生徒は『ギルガマッシュ』というらしく、レベルも4とそこそこ高い部類に入る。
「名前だけ強そうだな……」
通信簿を見ながら呟く。
まあクロエとはレベルの差が天と地程あるので、負けるわけがないだろう。
「おい、ギルガマッシュ。お前のお得意の体当たりをぶちまけてやれ」
何処から運んできたのか。
リュウヤが椅子に座り、ギルガマッシュに激を投げかける。
「ま、任せてください。リュウヤ先生……あんなヒョロヒョロとした女、あたいの体当たりで一発です」
「よーしよーしそれで良いんだ」
ギルガマッシュは制服が小さいのだろうか?
服の裾が届かず、そのセクシーさの欠片もない大きな腹を見せている。
体重だけでいうと、クロエとは二倍……いや下手すれば、三倍以上の差があるのかもしれない。
成る程。
確かにその巨体で体当たりをすれば、いくらレベルの差があるとはいえ吹き飛ばされてしまいそうだ。
問題は……偉そうなくせに、技がショボそうなことであるが。
「クロエ大丈夫か? 油断するんじゃないぞ」
「サッキー」
ん?
クロエはサッキーの箱を逆さまに振って、
「サッキーがなくなった……」
「この試合で勝ったら、いくらでも買ってやるから!」
「ホント? 先生、約束した」
その言葉にやる気を出したのか、クロエが両肩を回し出す。
相変わらず、サッキーを食べさせておけば機嫌がコントロール出来る単純なヤツだ。
「じゃあそろそろ始めるか……スタート!」
ゆるーい感じで始まりの号令。
その瞬間——。
その光景は広がった。
「あたいのことをパワー系だと勘違いしているようだけど……あたいは一組屈指のスピードスターなのさっ!」
一陣の風が通りすぎる。
そう思ったら、芝生を巻き上げギルガマッシュが疾駆。
目にも止まらぬ体当たりでクロエに体当たりをぶちまかす!
(しまった……体当たり……そしてあの巨体……それで騙されていたが、疾風の如き速度で体当たりをするスピード系の生徒だったのかっ!)
巨体に似合わない俊敏な動きを見て驚愕する。
おそらく、クロエも勘違いしていただろう。
ギルガマッシュの体が目の前にくるまで、クロエはたった一動作もすることが出来ず——、
「——レベルが上がって、こんな奥義も覚えた」
クロエのやる気のなさそうな声。
「だから初めて試してみる——」
風の中に声。
声が風となって、俺の耳元を通り過ぎた。
ギルガマッシュの巨体がクロエに衝突しようかとする刹那。
クロエの体は消滅し——俺が瞬きしている間にギルガマッシュの後ろへと回り込む。
「なっ……!」
すぐに振り向こうとするが、遅い。
風のように走るギルガマッシュでは、所詮風となったクロエには勝てなかったのだ。
「新奥義——隼」
クロエが持っていた模擬剣でギルガマッシュの後頭部を揺らす。
それが絶妙な角度で当たったのだろう。
「——っ!」
ギルガマッシュの黒目がスロットのように回転し、その巨体がゆっくりと前のめりに倒れていく。
ずしーん!
受け身も取れず、ギルガマッシュが倒れ地面を揺らした。
ただ一撃でクロエはギルガマッシュの意識を刈り取ったのだ。
「しょ、勝者! クロエ!」
最早、勝負は決した。
俺はクロエに近付き、右手を上げてやった。
——まずは一勝。




