13・合同授業1
一週間後。
とうとう一組との合同授業の日がやってきた。
「カッカッカ。タクマ、ちゃんと準備してきたのかよ」
「何の?」
「とぼけんな。合同授業だ。差し詰め、今日のことが怖すぎて部屋の隅で震えてたんじゃないのかよ」
「どうして怖がる必要がある? ただの授業じゃねえか」
リュウヤは可笑しなことを言うヤツだ。
「……チッ。まあ良い」
舌打ちして、俺から離れていくリュウヤ。
そんなリュウヤを見て、三組の生徒が、
「一組の先生を挑発するなんて……」
「タクマ先生は豪気なんですね!」
「クッ、ちょっとカッコ良いと思ってしまったぞ。クッ殺」
「サッキー食べたい」
と羨望の眼差しで俺を見ていた。
訳が分からない。
だって当たり前のことしか言ってないだろ?
「というわけだ、みんな。何も恐れる必要はない。というかただの合同授業だからいつも通りにしていればいいんだ」
「でも……先生……」
ロレッタが指差す。
震える指の先には、一組の生徒がリュウヤの元へ集まっていた。
みんな虚ろな瞳。
まるで最初、俺が三組にやってきた時の生徒のようだ。
「おい、お前等。三組なんかに負けんじゃねえぞ。もし負けた場合は……分かっているんだよな?」
リュウヤが一組の生徒に凄んでいる。
確かに、一組の生徒は評判通りのように見受けられた。
クラスで地味な生徒だけが分かる、『不良レーダー』ってのがあるだろ?
素行の悪そうな生徒を見た目だけで見極める力。
俺の不良レーダーがピコピコと反応してやがる。
「チッ……しみったれた顔してんじゃねえよ!」
リュウヤが近くの生徒を蹴っている。
「お、お前……」
リュウヤの乱暴を制止しようとする。
しかしそんな俺の体をロレッタが止めていた。
「先生、ダメです! 気持ちは分かりますが、今の先生怖い顔してますよ?」
まあロレッタの言うことにも一理ある。
リュウヤに蹴られた生徒は地面に手を付いており、見上げている。
今更、助けに行っても遅かった。
「……どうやらただの合同授業というわけにはいかないようだな」
そんな一組の姿を見て。
波乱の幕開けを予感せざるにを得なかった。
「こんなもんか……」
グラウンドに腰に手を当てて立ち。
みんなの様子を眺めて、俺は独り言を呟いた。
「ああ? まだまだこれからが本番だろうが」
鞘に収まった勇者の聖剣を杖代わりにして。
隣に立つリュウヤが眉間に皺を寄せて返した。
「みんな疲れてるじゃないか」
合同授業といっても、特別なことはしていない。
いつも通り、模擬剣を使った素振り……ランニングによる基礎体力の向上……。
一組の生徒も、三組も顎が上がりだしている。
「疲れてる……って。お前等の生徒はいつもそんな理由で授業を止めたりするのか?」
「何か可笑しなことか?」
熱中症で倒れたらヤバいだろうが!
まあこの世界で熱中症があるのかどうか分からないが。
スパルタではなく、あくまでスローに学園生活を楽しんでもらいたい。
「はっ! だからお前んとこの生徒はあんなヒョロヒョロなのか」
リュウヤよ。
お前は一体、何を見ている。
クラス総合レベルたった40程度のヤツが、900超えの俺に喧嘩を売ろうとするんじゃない。
まあ相手の力を侮って、通信簿を開こうともしないリュウヤには分からないのだろう。
というか通信簿すら持ってきてない。
「お前の考えがどうか知らないが、そろそろ授業の時間が終わりだろ?」
奴隷学校においては、五十分を一単元としている。
アドルフ市内の全景を見る高い時計塔を見ると、残り十五分で授業は終わろうとしていた。
「ふん……まあ良い」
リュウヤは鼻を鳴らし、
「おい! てめぇら、集合だ!」
リュウヤが叫ぶと、一組の生徒の体がビクッと震える。
そして軍隊のように並び、全力疾走でリュウヤの元へと集合した。
「はあ……一体、どんな教育してんだよ。三組のみんなー、集まってくれー」
俺が言うと、三組は「はーい」と間の延びた返事。
今していることを止めて、ゆっくりとダラダラした足取りで集まってくる。
「クロエ? 何してんだ」
「サッキーを食べてる」
「集まってから食べやがれ!」
リュウヤの一組とは三倍くらいの時間がかかって、やっとのこさ三組が集合。
「はんっ! 遅すぎだろうが」
「集合する速度で生徒の良し悪しは決まらないだろうが」
「全く……たるんでいる。てめぇんとこの生徒が静かになるまで、三分はかかったぜ」
防火訓練の校長先生みたいなこと言うんだな。
俺は頭を掻いて、三組と——そして一組の生徒を眺めながら、
「よし。今日の合同授業は終わりだ。一組の生徒はありがとう。これを活かして、立派な生徒になって欲しい——おい、ロレッタ」
「はい!」
ロレッタが元気よく手を挙げる。
猫耳がピョンピョンと跳ねている。
「ふふふ。やっぱり最後は学級委員の出番なんですね!」
「さっさと言いやがれ。休み時間が短くなるだろうが」
「はい! では——気をつ」
「ちょっと待てよ」
途中で終わりの号令を止められ、前につんのめるロレッタ。
……リュウヤ。
やっぱり最後に動いたか。
「このまま合同授業を終わりにしてもつまらないだろ? 最後に余興をしてみねえか?」
「余興?」
「ああ——てめぇには前の貸しがあるからな。一組と三組の生徒の模擬戦だよ」
ああー。
やっぱりそんなことを言ってきたか。
合同授業の話を聞いてから、どうせそんなこと言ってくるだろうな、と思ったんだ。
まあリュウヤのような低レベルの一組を怖がる必要もないだろう。
「良いぞ?」
「せ、先生!」
それなのに。
ロレッタは慌てて、俺の服の裾を引っ張り、
「何を言ってるんですか! 怪我するかもしれないじゃないか」
「大丈夫だ。危ないことがないようなルールにするから」
ロレッタを宥める。
「決まりだな」
口元を歪めるリュウヤ。
「一対一はつまらねえし、どうせこんなに奴隷がいるんだから団体戦にしょうじゃねえか」
「そこんとこはお前に任せる」
結局、三対三で勝敗数を競い合う団体戦となった。
「オレの方はもう決まってる。てめぇんとこの生徒も選出しやがれ」
そうだな……。
三対三か……。
三組の中でもとびっきり高レベルの生徒、そしてどういう相手が出てきても柔軟に対応出来るヤツがいいよな。
俺が選んだ三人は——。




