11・戦う職員会議
「あなた達が異世界にやって来てから一ヶ月ですか——」
しみじみとクレアさんは言った。
ちなみに忘れているかもしれないが、クレアさんとは学年主任の女神のことだ。
四花も終わり、徐々に奴隷学校の先生にも慣れてきた。
今日は月に一度の『職員会議』であり、初めての『職員会議』でもある。
「一体、何を話すんだよ」
機嫌が悪そうに、両足を机に上に放り出しているのはリュウヤだ。
「そんなに大したことじゃないですよ〜。今回は現状報告です。みなさんのクラスについて報告し、意見を交わそうじゃないかという集まりです!」
「大したことじゃなかったら呼ぶんじゃねえよ」
今にもリュウヤは殴りかかってきそうである。
今、俺達は使われていない空き教室にいる。
机を円卓のように囲み、クレアさん、リュウヤ、俺——そしてオサムの順番で並んでいる。
「みなさん。クラス総合レベルはいくつになりましたか?」
誰も喋らないことを見て、クレアさんが質問をする。
「40くらいだ。あいつ等、なかなかレベルが上がらないもんでな」
「40! 早いですね。普通の先生なら、30超えれば良い方ですから。やっぱり異世界からの召還者は優秀なんですね」
「そうか?」
クレアさんが手を叩き褒めている。
そこには何ら皮肉も込められていない。
なのでリュウヤも頭を掻き、得意気な表情になる。
リュウヤの機嫌アップ!
……みたいな文字が頭上でホップするわけがない。
「オサムさんはいくつですか?」
「僕ですか」
久しぶりに見るオサムの顔。
賢者がゲームで着るような白色のローブを身につけている。
机の上では右手で『賢者の石』が入ったガラスの瓶を弄んでいた。
「150——」
「え?」
「150です。何か問題でも?」
オサムの理知的な表情。
メガネの奥の瞳は何を見ているのだろうか。
「ひゃ、150ですか! す、すす凄すぎですよ。そんなの奴隷学校が設立して以来、初めてのことです!」
大袈裟に椅子から転げ落ちるクレアさん。
あっ、さっきパンツが見えたな。
クレアさんのパンツはコバルトブルーか……って俺は何を考えてやがる。
どうやら例の健康診断の時間から、何かが可笑しいのである。
「そんなに驚くことではありません。先生がちゃんと授業の内容を理解し、生徒に分かりやすく教える。これが出来れば、生徒のレベルを飛躍的にアップさせることが可能でしょう」
表情一つ変えず、オサムがメガネをくいっと上げる。
150……クラスの人数は同じ30人だから、一人平均レベル5くらいになっているのか。
驚異的な数字のようにも思えた。
「お前、調子に乗るんじゃねえぞ?」
リュウヤから殺気が放たれる。
今にも腰からぶら下げている、鞘に収まった勇者の聖剣を抜き放ちそうである。
「生徒のレベルなんていくら上げても、意味がねえんだ。重要なのは『オレ達自身』の強さだろ?」
「レベルのことを言っているんですか? 《共立成長》というスキルを知っていますか? そのおかげもあって、僕のレベルは現在、18です」
「はっは! 大したことねえじゃねえか。オレはレベル30だ」
リュウヤとオサムから放たれる刃の言葉。
レベルの数値を聞く度にクレアさんは「こ、これが召還者同士の戦い……!」と少女漫画のヒロインのように驚いている。
ゴゴゴ……。
二人の背景で炎がメラメラと燃えている。
「どうしてクラス総合レベルがたった40だけのあなたが、そんなにレベルが高くなっているんですか?」
「高難易度の課外授業をこなしてな。そこでドラゴンやら、キングオークやらを倒してたらこんなレベルになってたんだ」
「……課外授業は生徒のレベルを上げるものでは?」
「あいつ等、弱っちいからな。まずはオレのレベルを上げようと思ったわけだ」
成る程。
俺は課外授業を生徒のレベルを上げるため、そして報酬を得るために利用している。
リュウヤがクレアさんから貰ったアイテムは勇者の聖剣。
何でも攻撃力を飛躍的にアップさせるアイテムらしい。
勇者の聖剣の力を使い、高レベルのモンスターを倒して大量の経験値を得たということか。
「み、みなさん! 凄いです。こんな短期間でレベルを上げるなんて」
クレアさんは興奮しているのか、少し声が上ずっていた。
「タクマさん! タクマさんのクラス総合レベルはいくつですか!」
椅子に座り直すクレアさん。
とうとう質問の順番が俺へと回ってきた。
(えーっと、いくつだったかな……)
そういえば、最近。
生徒とイチャイチャすることだけを考えているため、レベルなんて気にしてこなかったな。
久しぶりに通信簿を開き、クラス総合と俺のレベルを確認する。
『一年三組 クラス総合レベル:931
タクマ・ナナウミ レベル:93』
「えーっと、931かな?」
「へ?」
正直に告げると。
クレアさんの口から間抜けな声が漏れた。
「カッカッカ。タクマよぉ。お前、オレ達に敵わないからって、適当な数値言うんじゃねえよ」
「いや嘘じゃないんだが……」
「931なんて有り得ません。僕のように授業を最適化しても150が限界だったのですから。会議で冗談は止めた方が良いですよ」
否定してくる二人。
むっ……。
そんなに否定されるとむかついてきた。
といっても、通信簿を開けば他のクラスの総合レベルも確認することが出来る。
しかしはなから嘘だと決めつけているのだろう。
二人は通信簿を開く素振りも見せない。
「嘘なんか言う必要なんてない。本当に931なんだ」
「なんなら、お前んとこのクラスとオレんとこのクラス。合同で授業をしてみようか?」
リュウヤが提案する。
「合同授業……?」
「ああ。面白そうじゃねえか。そこで本当にお前んとこのクラス総合レベルが931なら……さぞ、生徒さん達は凄い動きやら奥義、魔法を見せてくれるんだよなぁ?」
見下すような視線。
合同授業……か。
ふむ。
一年三組にとっても、他のクラスと授業をすることは良い刺激となって、さらなる成長を見込めるかもしれないな。
「良いぜ? 細かいことは全部、そっちで決めてもらってもいい」
「よっしゃ、決まりだな」
ニヤッ、と笑みを浮かべるリュウヤ。
「前のセシルとお前んとこの生徒の戦いでは遅れを取ったがな。どうせ、あの生徒一人だけだろ? 強いのは」
確かにジェシカが三組ではレベルが一番高い。
しかし……レベルが一番低いロレッタでも、セシルが勝つのは難しいことだと思うが。
「戦いですねー」
そんな様子を見て。
クレアさんがニコニコと笑っていた。
——結局、一週間後。
一組と三組の合同授業が行われることとなった。




