10・すべてがHになる健康診断
俺が異世界にやってきてから早いもので一ヶ月が経過しようとしている。
この異世界では——元の世界でいう『四月』のことを『四花』と呼ぶらしく、その後『五緑』『六雨』と続いていくらしい。
とにかく。
四月——いや四花が終わろうとしている時。
とうとう俺達のクラスに『あの行事』が待ち構えていた。
「よーし。みんな。行ってこい」
上から下まで白色の安そうなワンピース。
みんなが一様にそれを身につけて、クラスから出て行こうとしていた。
「せ、先生……健康診断って怖くないですか? 食べられたりしないですか?」
「そうだ。短い付き合いだったな」
「そ、そんな!」
「冗談だ。健康診断は危ないことじゃねえよ」
安堵の息を吐く学級委員のロレッタ。
そう——。
健康診断である。
一組……二組……と順番ずつにやっていき、とうとう三組まで回ってきたのである。
(健康診断……下着姿になったりするのかな?)
目の前のロレッタを見て、否応がなしに想像してしまう。
——ブラジャーとパンツだけを身につけた下着姿。
「先生お願いします」
ロレッタが無防備に医者の前に座る。
そして、医者の顔は何故か俺のものだ。
「じゃあ、心臓の音を聞くから……ブラジャーを取ってくれるかな?」
「そ、そんなことが必要なんですかっ?」
「当たり前だろ。邪魔なものがあったら、聞けないじゃないか」
「むむぅ」
何処か納得していないロレッタの表情。
やがて恥ずかしそうに背中に手を回し、ブラジャーを脱ごうとするロレッタ。
膨らみかけてきた山岳の頂点には、桃色の花が咲いている。
「ゴクリ」
それを見て、思わず唾を飲み込んでしまうのだ。
そして導かれるように——聴診器を胸に当て、
「先生? どうかしたんですか。間抜けな顔、してますよ?」
ロレッタが俺の顔の前で、手を左右に往復させている。
「——っ。何でもねえよ!」
「本当ですか? 邪なオーラが見えましたけど」
いかん!
修行が足りん!
どうしてロレッタみたいな、微妙な発育しかしていない女の子の胸を想像するんだ。
どうせ想像するならジェシカみたいな、豊満な胸を……。
って違う!
「じゃあ三組のみなさ〜ん。保健室に来てね〜」
ブンブンと首を振り、浮かんでくる情景を無理矢理消していると。
教室のドアから白衣の女性が、ひょこっと顔だけを出した。
「モニカ先生、頼みます。もしこいつ等に病気があったら、滝行をして治させますんで」
「……滝行が何か分からないけど、大丈夫よ〜。百人に一人くらいは手遅れだけど、大半は何ともないから」
「結構な割合じゃないですか!」
三組のみんなを呼びに来たのはモニカ先生。
ここ奴隷学校の保健の先生を勤め上げる女性である。
男の欲情を煽るようなセクシーな目元。
生徒達とは違う、女性の体つきを見ているとどうにかなってしまいそうだ。
「はーい! じゃあみんな行きますよ。私に付いてきてください!」
無駄に張り切るロレッタが、先頭になりみんなが教室から出て行く。
……教室で一人取り残される俺。
そりゃそうだ。
奴隷学校は女の子だけの学校。
男である俺が健康診断に参加出来るわけがないのだ。
「それなのに……何なんだこのモヤモヤとした気分は」
しゃあない。
クロエの机から勝手にサッキーをパクって、食べながら本でも読もうか。
「タクマ先生〜? 何をしているの〜?」
と。
モニカ先生が教室に戻ってきた。
「どうしたんですか? モニカ先生」
「どうしたも何も、奴隷学校では担任も健康診断に参加するのよ〜」
「え?」
「奴隷達の発育っぷりを見るのも立派な先生の仕事でしょ?」
な、何と!
そうだったのか!
「やれやれ。仕方ないな。じゃあ行くしかないね」
重い腰を上げる。
仕方ないのだ!
俺は行きたくないけど、保健のモニカ先生が言うなら仕方ないのだ!
「フフフ。じゃあ先に保健室に行っておくわね」
去り際に。
モニカ先生が意味深に笑みを浮かべたのを。
幸か不幸か——気付くことが出来なかった。
◆
「はあはあ……ここが保健室か!」
荒い鼻息。
中からピンク色の声が聞こえる。
ここか!
ここで俺の生徒が全員、下着姿になって並んでいるのか。
「さて、みんなの発育っぷりを見るか」
扉に手をかける。
正直——この時の俺、正気を逸していたと思う。
生徒で欲情するのはいけないことだと思う。
しかし……この異世界にやって来て、そういう成分がなかったものだから!
ニホンの頃だったら、ネットを繋げばいくらでも収集することが出来たから!
こうして正常な判断を失っていたと思う。
「おい! お前等! 動くな。温和しくしてやがるのか!」
そう叫びながら、勢いよく扉を開ける。
すると——今、まさしくモニカ先生が聴診器(のようなもの?)を耳に当て、とある生徒と対面していた。
「っ!」
キレイな背中の女の子は、俺の声にビックリしたのか反射的に振り返った。
金色の髪。
右腕で胸を隠しているものの、その巨大な山岳は隠しきれていない。
引き締まった体ながら、肉付きがよく思わず頬張りたくもなる。
「せ、先生! どうしてこんなところに!」
そう。
そこにはブラジャーを外し、パンツ一丁の姿になったジェシカがいた。
お尻に食い込んでしまっているため、Tバックを穿いているようになってしまう。
「うぉぉぉおおお! モニカ先生! 俺が代わりに、ジェシカの心臓の音を聞きますよぉぉぉおおお!」
「へ、へ、へ、へ——」
「ジェシカぁぁあああ! お前の心臓の音を俺に聞かせろぉぉおおおお!」
プールにダイブするようにして、ジェシカへと突進する。
パンツ一丁のことも忘れているのか。
ジェシカが拳を握り、俺の顔面へと突き出す。
「この変態がぁぁあああああ!」
そのパンチはカウンター気味にクリーンヒットして。
そのまま意識が暗転する。
「冗談だったのに〜。まさか本当に来るとはね〜」
最後に聞こえたのは、モニカ先生のそんな声。
脳味噌が揺さぶられ、気分が悪いながら。
俺の心には悔いなど一切残っていなかった。
(お、大きかった……)
ジェシカは右腕で胸を隠しており、そして右ストレートを放った。
つまり——俺はジェシカの大きな『あれ』を拝めたわけである。
武士には『せめて前のめりで死にたい』という言葉がある。
だから俺もジェシカの胸を想いながら、おでこから床へと崩れ落ちたのであった。




