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紫島姉妹に効果あり  作者: 釜揚げ製菓
第一章 紫島姉妹
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「ほんと、どうすっかなー……」


 しばらく顔を上に向けていたら、首が痛くなった。俺は首を元に戻した。いつの間にか、日は暮れて親子たちの姿も消えていた。


「……ホームレス高校生……ってダメか」


 一瞬頭にそんな言葉が浮かぶも、未成年の俺がそんなことをすれば速攻で問題になるだろう。そもそもそんな根性は俺には無い。


「一度実家に戻るか……でもなあ……」


 三日後には入学式が控えている。今のこの状況ですら面倒なのに、このまま実家に戻れば最悪別の高校に通うことになりそうだ。――というより、両親いないからそれも無理か……。


「…………」


 あまり使いたくなかったが、こうなってはもう仕方ない。俺は早くも最終手段を使うことを決意した。


「もし」


 最寄りのコンビニに公衆電話があることを思い出し、立ち上がり向かおうとしたときだった。俺の目の前に誰かが立っていた。


「ん、何です――か!?」


 誰だろうと顔を見上げ、俺は思わず絶句した。俺は再びベンチに腰を落とした。


「……どうかしましたか?」


 その女性は俺の反応に不思議そうな声を出す。いやいや、それはこっちのセリフだって……!


 丈の長い黒のワンピース、その上から着られた白いエプロン。そして頭に付けられたカチューシャ……。漫画やアニメなどで見られる――早い話がメイド服を着た「メイド」さんが立っていた。


 え? 何かのコスプレ? いやそれにしては生地が本格的だ。中学の時にいわゆる「リアルメイド」さんと接する機会があったが、あれと同じくらい高級かつ、機能美にあふれている感がある。俺の目の前にいる女性は、完全にメイド服を着こなしていた。


「…………」


 あまりに突然すぎる事態に、俺は無言となった。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、女性はマイペースにも自己紹介を始めた。


「はじめまして八城一葉やしろいちはさん。私の名前は『黒須』と申します」


 スカートをほんの少したくし上げ、礼儀正しく、黒須という女性はあいさつした。


「……あ、どうもご丁寧に! 俺の名前は――」


 こういう一つ一つの所作から、俺はやはりこの人も本職のメイドだとわかった。名前を名乗られた限りには同じように名乗らなければならない。判然としない気持ちはありながらも、俺は元気よく名乗ろうとした。


 だが、ここで俺は一つの疑問を覚えた。


「あの、黒須さん……」


「私が『どうして貴方の名前を知っていたか』という問いでしたら、『調べた』からです。それで一葉さん、私が貴方へ――」


「いえべつにそれはそうだろうと思っていたからいいんですけど……あの、黒須さんの下の名前って何ですか?」


「………え?」


 俺の問いがあまりにも意外だったのか、黒須さんは表情を崩さないも、目を若干見開いた。


「…………」


 しばらく無言となる黒須さん。見た限りでは、言葉を選んでいるような感じだった。


 ……あれ、俺もしかして変なこと訊いたか? 普通、自己紹介って名前も言うものだと思っていたんだが……。


「――あ、やっぱいいです。それで黒須さん、俺に何か用事ですか!?」


 慌てて俺は話題を打ち消し、本題へ入る。黒須さんはごほんとわざとらしく咳をたて、俺を見据える。どことなく「助かった」という感じがあった。


「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。私は『メイド』なんですから」


 わけはわからないが、妙に説得力のある言葉……久しぶりに聞いたな。メイド業界じゃ流行ってんのか? まあ、おかげで少し緊張がほぐれたが。


「単刀直入に申し上げます。八城一葉さん、住むところにお困りのようでしたら、紫島家で住み込みで働きませ――」



「はい! お願いします!」



「住む」、「住み込み」というワードに反応した俺は、無意識の内に即答していた。今の俺の頭には「住むところをどうにかしねければ」というものしかなかったからだ。


「――それではこちらの方にサインを」


 黒須さんは俺の返事にぴくっと体を反応させるも、すぐにどこから取り出したのか、一枚の紙を見せた。


「はい! 名前を書けばいいんですね!」


 渡された紙には何やらよくわからないことが書かれていたが、俺は嬉しさに酔いしれたまま、すらすらと調子よく名前を書いた。


「……それではさっそく案内しますね。来てください」


「――え、もうですか?」


 喜んだのもつかの間、黒須さんは俺にそう指示した。というか、俺も俺だけどこの人まったく動じてないな。


「『時は金なり』です。それに、貴方には一秒でも早く『慣れ』てもらいたいですから」


 黒須さんはスカートをひらりとさせ、振り向くと、そのまま公園出口まで歩いて行く。慌てて俺も立ち上がり、黒須さんのあとをついていき、公園を出た。

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