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紫島姉妹に効果あり  作者: 釜揚げ製菓
第一章 紫島姉妹
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「一葉くん、本当に体は大丈夫なの……?」


 肩を落とし、自暴自棄へとなりかけた俺に、大家さん(名前はまだ覚えていない)が気遣うように俺に声をかけてきた。


「あ……大丈夫っすよ……! こうして命が助かっただけ儲けモンですし!」


 たった三日程度の付き合いだが、俺は心配させまいと無駄に声を張り上げる。


「そう? それならいいんだけど。……それにしても、本当に災難だったわね。ご両親にはこのことはもう伝えたの?」


「……あーはい、一応は……」


「ごめんなさいね、私も何か力になれればいいんだけど……」


 申し訳なさそうに俺を見て、大きくため息をもらす大家さん。まあたしかに、今後のことを考えると、俺なんかより大家さんの方がきついだろう。


「平気っすよ! 実は両親がすでに新しいところ根回ししてくれたらしくて……今からさっそく、そこに行ってくるつもりなんです!」


 どんと俺は胸を叩き、力強くそう言った。声を張り上げなければ、どうにかなりそうだった。


「だからもう心配しなくていいですから! あの、お互いこれから頑張りましょう! それじゃ大家さん、短い間でしたけど、お世話になりました!」


 最後に深くお辞儀をし、俺は大家さんに別れを告げて、逃げるかのように立ち去った。

 大家さんは背後でまだ何かを言おうとしていたが、俺は走るスピードを上げ、大家さんの優しさから目を背けた。



「――なに意地張ってんだよ俺は~!」


 運動不足な体を無理やり動かし、走りついた場所は数日前、火遊びしていた女の子と会った公園だった。俺は渇いた喉を水道水で潤し、ベンチへ座った。


 平日ということもあり、公園には子連れの親子が数人ほど、俺のいるところとは真向かいの砂場やブランコで遊んでいた。


 その純真無垢さが今の俺には目の毒で、俺は無理やり天を仰ぎ目をそらした。


「太陽……熱い……火……」


 だがそれは失敗だった。俺は連想ゲームのごとく昨日の朝の出来事を思い出していた。

 

 昨日、目を覚ました俺が一番初めに見たのは、防火服を着た消防士だった。


 わけもわからないまま、俺は消防士に連れられ、大きな毛布のようなものに丸まり、部屋を出た。外に出て、アパート全体を見回すと、アパート全体が「真っ黒焦げ」になっている事に気づいた。


 意外にも頭は冷静になっていたことめあり、何が起きたか大体わかった。俺は駆け寄ってきた大家さんに「火事」の原因を教えてもらった。


 話によると、昨日の深夜十二時を回ったところ。このアパートに住む住人の一人が怪しげな人物を目撃した。


 住人が声をかけるとそいつは慌てて逃げ出した。だが、火はすでにつきはじめていた。


 住人の呼びかけもあり俺以外の全員は避難を完了し、けが人は一人もいなかった。なぜ俺に気づかなかったかは、俺が引越したばかりで入ったことを知らなかったからだろう。気づいたのは、大家さんが着いてからだった。


 だがアパート全体を包み込む大火事にも関わらず、俺は怪我一つなく、ごく普通に目覚めた。


 というよりも、二階の一番端っこにある俺の部屋は、他の部屋に比べてそこまで損傷はなく、多分俺の部屋までは火が上手く回ってこなかったのだろう。

 不幸中の幸い……それに周りはかなり驚いていたが、俺が一番驚いていた。こんなことはありえるはずがない。だが、実際に俺は生きている……その事実だけで十分だ。……まあ、もう一生分の運を使ったんだろうなこれで……。


 一応病院で検査を受けたが、本当に何ともなかった。けれど一応一晩病院で過ごした。(両親への連絡はいったのだろうか?)


 放火の疑いがあるということと、俺自身ずっと寝ていたということもあって、警察の人にはにはそれほど詳しくは尋ねられることはなかった。


その後俺は、一度アパートに戻り無事だった荷物を整理することにした。あまり荷物を持ってきていなかったこともあり、バッグ一つに全てしまい込むことができたので、それは助かった。


 ショックを受けなかったといえば嘘になるが、それでも本当に命があって良かったと思っている。


 ……ただ今後住むところについてはかなり困った。いくら俺の部屋が損傷が少ないといっても、アパート全体を見れば住めるような状態ではない。


財布の中身はギリギリで無事だったのだが、どこか「アパートを借りる」という行為は、未成年の俺にすぐにどうにかなる問題ではなかった。


 何とか記憶に残っている両親の携帯電話の番号に、公衆電話から電話をかけて、事の次第を伝えようとした。(携帯は、不幸にも焼け焦げた)


……だが、電話はまったくつながる気配をみせなかった。


 ――先が見えない未来に、俺は背筋がぞっとした。両親くらいしか頼れる存在のいなかった俺には、「両親と連絡が取れない」という事実は絶望的なものだった――。

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