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スーパーで、必要そうな調味料やらインスタント系食品を買い揃え、帰ろうとしたときだった。ガタイの良い男が、向かいにいる泣いている子供をあやす女子と何かを言い合っていた。
「いちいちうるせえ女だな、ちょっとぶつかっただけだろうが!」
「『ちょっと』ぶつかったっていうくらいなら、ほんの『ちょっと』、謝ることもできないの? 大きい体の割には小さい男ね」
「なっ……この――!」
「はいはい、ちょっと待った待った!」
女子の言葉に怒りを露わにする男を見て、聞き耳をたてていた俺は、慌てて間に割り込んだ。
「……んだてめえ!」
怒りの矛先が俺に変わったようだ。男は突如現われた俺に明らかな敵意を向けてくる。目つきこそかなり悪かったが、年齢的には俺と同じくらいだろうと思った俺は、背伸びをして男の肩をポンポンと叩く。
「まあまあ落ち着け。何があったか知らねえけど、大の男が女相手に手を上げるもんじゃねえって」
「それは男女差別よ」
背後から女が冷たい言葉を投げかける。あっれー? 助けたつもりだったのに……?
「……放せクソが」
男は俺の手を振りほどく。まずいな……このままじゃ――そうだ。
「よし、そんなお前にはこれをやろう! 牛乳だ、飲――」
袋の中から、俺はさっき買ったばかりの牛乳を取り出し、男に差し出そうとした。だが、それは叶わなかった。
「……ふごっ!」
俺の腹めがけて、男の拳がめり込んだ。あまりに不意を突かれたこともあり、俺は抵抗する間もなくバタッと倒れた。そして、徐々に意識が薄れていった。
「……はっ!」
………そして目を覚ましたとき、俺はベンチの上にいた。目の前には年配のおばさんやらおっさんやらが数人いて、俺に心配の声をかけてくる。ふと携帯で時間を確認すると倒れてから、まだ五分程度しか経っていなかった。
俺はおばさんの一人を捕まえて話を聞くと、倒れた俺をさっきの女子がベンチに運んでくれたらしい。あの後二人がどうなったか気になったが、おばさんが妙によそよそしい態度を見せたので、あえて訊くのはやめた。
……とりあえず、これだけは言える。
「……お礼、しないといけないな」
――とまあ、そんなごく普通なことが続けて起きた日の翌日のことだった。
俺は住む場所を失くしてしまった。




