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紫島姉妹に効果あり  作者: 釜揚げ製菓
第五章 紫島蓮香
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「よ、邪魔してんぜ」


 夕食を食べ終わり、自室に戻ると菖蒲さんがベッドに寝転がって、漫画を読んでいた。


「食ってすぐ横になっていたら、牛になりますよ」


 二日に一回のペースでやってくることもあり、俺は慣れた感じで菖蒲さんに対応する。


「いいじゃねえか牛。男はみんな巨乳が好きなんだろ?」


「……そういうことじゃねえよ」


 おっさん丸出しの返事に、俺は呆れながら、ツッコミを入れる。そんな胸はお相撲さんだけで間に合っている。


「んだよ、お前貧乳の方が好きなのか? ……あ、もしかしてお前ロリ――」


「コンじゃねえよ! ……はあ、まあいいですよ。おとなしく漫画でも読んでいてください。俺は今から宿題しますから」

 危うく汚名を着せられそうになり、俺は机に向かう。なんで俺ナチュラルにロリコン扱い受けているんだろう……。菖蒲さんはちぇっと舌打ちしながら、読書を再開する。


「………」


「………」


 約四十分後、俺は宿題を終えた。高校になると宿題が増え難易度も上がると、通信教材の漫画に書いていたが、まさにその通りだった。数学のプリントに十五分、英語の和訳に二十五分かかってしまった。小腹が空いてきた。


「菖蒲さ――」


 と、俺がベッドに振り向くと、菖蒲さんは漫画を胸元に落とし、グースカといびきをたてて、寝ていた。とても年頃の女の人とは思えない、だらしない姿だった。


「……しょうがないな」


 俺はそっと菖蒲さんに毛布をかける。優しさからではなく、目のやり場に困るという理由だ。俺は部屋を出た。


「お楽しみでしたね」


「……宿題していただけなんですけど?」


 待ち伏せしていたかのように、黒須さんは部屋の近くに立っていた。俺は黒須さんの言葉の意味がよくわからなかった。


「お出かけですか?」


「ええ、ちょっくらコンビニまで。何かいるものありますか?」


「いいえ、けっこうです。栄養補給食品は絶えず所持していますので」


 黒須さんはマジシャンのごとく、手のひらから長方形サイズのクッキーのようなものを見せる。黄色い箱が目印の、有名な栄養補給食品だった。


「……もしかして、毎日それなんですか?」


「フルーツ味、チョコレート味も食べますが?」


「い、いやそういうことじゃなくて……」


 目が本気すぎて、これ以上追求できなかった。そういやこの人が料理食べているところ、見たことなかったな。


「じゃ、すぐに帰りますんで」


 俺はそう言い残し、黒須さんから離れ、玄関へと向かう。……あれ、そういえば何か忘れているような――。


「待っていたぞ下僕よ! さあ、我の修行に付き合――なっ!」


「すまん、またあとで!」


 花梨の存在を、すっかり忘れていたことを、本人によって思い出さされた。俺は逃げるように屋敷を出た。背後で、菖蒲が俺の名を叫ぶのが、かなり遠くからも聞こえてきた。


「あ、ご苦労様です」


 コンビニに向かう途中の道で、俺はパトロールをしていた警察官に挨拶をした。


「こんばんは! ……あ! 君――」


 警察官に挨拶をし、俺は角を曲がった。最後まで聞き取れなかったが、おそらく「夜道は危ないから気をつけるんだよ」とでも忠告しようとしてくれたんだろう。こんな時間までご苦労なことだ。


 それから五分と歩き、俺はコンビニに着いた。どうでもいいが、コンビニは歩いて一分くらいにあるのがベストだと思う。


 独特の音楽に迎えられ、俺はコンビニに入る。店内には三人ほどの客がいた。俺は菓子コーナーへと向かった。


「……飲み物も欲しいな」


 百円棚からポテトチップスを取り、俺はたまにはいいだろうと、コーラも買うことにした。俺は後ろの冷蔵ケースへと向かう。


「あ……」


 フタを握り、中からコーラを取り出したときだった。俺は意外な人物と遭遇した。


「……ちっ」


 思いっきり舌打ちされた。乱暴にペットボトル入りのスポーツドリンクを取り出し、そいつはレジへと向かう。俺もその後をついていくようにレジへと向かう。


「百五十円になります」


 カウンターに置き、店員が精算を始める。だが、様子がおかしかった。


「……お客様?」


 前に立つ、ジャージ姿のそいつは両手をポケットに入れたまま、固まっていた。……すぐに、理解した。


「すいません、やっぱりやめに――」


「店員さん、こいつの分と俺の分、いっしょに会計お願いします」


 横から割りこむように、俺はカウンターにポテチとコーラを置いた。


「は、はあ……」


 店員さんは少し戸惑うものの、バーコードを読み取っていく。


「三百五十円になります。……お釣り百五十円です。ありがとうございました」


 袋に入った商品とお釣りを受け取り、俺はコンビニを出た。すぐに蓮香も出てきた。


「ほい、これ」


 俺は袋の中からスポーツドリンクの方を蓮香に差し出す。だが蓮香はそれを受け取ろうとしなかった。


「いいから、走って汗かいたんだろ。早めに水分補給しないとまずいだろ」


 苛立ち、俺は強引に蓮香に手渡す。蓮香は渋々といった感じで受け取る。


「――ありがとう。お金は帰ったらすぐに返すわ」


「ああ、べつにいいよそれくらい。奢りだよ奢り」


「奢られる理由も無いし、あなたのような人に借りを作りたくないの」


 冷たく言い放ち、蓮香はキャップを回し、ゴクゴクと飲んでいく。


「……」


「…………何?」


 半分ほど飲み終え、蓮香は俺の視線に気づいた。ついマジマジと見てしまっていた。


「買い物が終わったんでしょう? 早く帰りなさいよ」


「――え? いっしょに帰るんじゃねえのか?」


 てっきり俺は、この流れはいっしょに屋敷まで帰るものかと思っていた。


「……何で私があなたと――」


「ジュース代だと思ってくれていいからさ、いっしょに帰ろうぜ」


 どうにも断られるとムキになってしまう。蓮香といっしょに帰りたいという思いが強まり、俺は脅迫まがいなことを口にした。


「…………わかったわよ」


 罵詈雑言を覚悟していた部分もある。だが蓮香の返事は思いがけないものだった。蓮香は空となったペットボトルをゴミ箱に投げ捨て、歩き出す。


「おいおい、待てって!」


 俺もすぐさま蓮香の後を追う。兎にも角にも、このチャンスを逃してはもう蓮香とまともに喋ることはない。俺は何としても、蓮香に色々訊くことにした。

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