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紫島姉妹に効果あり  作者: 釜揚げ製菓
第四章 紫島菫
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 ここで第四章は終わりです。

「一年くらいまえに……わたしは『能力』に目覚めたんです」


 ゆっくりと、震えるような声を出しながら菫ちゃんは自身の「能力」について語りだした。


「一葉さん、『サイコメトリー』って知ってますか」


 菫ちゃんは顔を上げ、俺にそう尋ねてきた。


「……ああ、うん知っている……かな」


 少し沈黙の後、俺は自信なく答えた。というのも、漫画で得た知識でしか知らないからだ。たしか……


「それと同じで……私の『能力』は手で触れたものの『記憶』が読み取ることができるんです……」


 俺が思い出そうとする前に、菫ちゃんはそう説明した。たしかその漫画も同じようなものだった気がする。


 菫ちゃんはそこで一度言葉を区切り、俺に手のひらを見せる。歳相応の可愛らしい、小さな手にしか見えなかった。


「わたしが『能力』に目覚めた時には、すでにもう菖蒲姉さんや花梨姉さんが『能力』を使っていたので、『ああ、わたしも姉さんたちと同じになって嬉しいな』って思っていたんです。でも……それは大きな勘違いでした。『能力』は決して『良いもの』ばかりじゃないんです」


 菫ちゃんは再び顔を俯かせ、声のトーンを下げた。


「目覚めてから一ヶ月くらいは大変でした。まだその時はちゃんと姉さんたちみたいに『抑え』が効かなくて、触れたものすべてに対して『能力』が発動してしまいましたから。

 断片的な『記憶』から本質に関わる『記憶』まで……色んな情報が頭の中に入ってきていたんです。

『頭がパンク』するっていうのもおかしいんですけど、その頃のわたしはまさにそんな感じでした……。だから、しばらく学校に行くこともできませんでした……。

 でも……姉さんたち、黒須さんや葛城先生が協力してくれたおかげで、わたしはだいぶ『抑え』が効くようになったんです。……といっても、かなり意識しなくちゃいけないんですが……一葉さん、初めて会った時のこと、覚えていますか?」


 長いセリフの最後に、菫ちゃんは俺にあの時のことを尋ねた。


「もちろん!」


 嘘偽りのない本心から、俺は即答した。菫ちゃんの表情に微かな笑みがこぼれ出る。


「あの時は……本当に驚きました。意識していない……『能力』が勝手に発動してしまうような状態だったのに、一葉さんにはわたしの『能力』が効かなかったので」


「……ああ、だからあの時ぎゅっと握りしめてきたんだね」

 

 俺はあの時、菫ちゃんが驚いた理由と、手を握りしめてきた理由についてやっと分かった。


「……っ! ご、ごめんなさい! あんなこと初めてでしたから……!」


「ああ! いやいやそんな気にしないで!」


 菫ちゃんは顔を真っ赤にしながら、あたふたと俺に謝る。やべ、余計なこと言っちゃったな……と思う反面、少し菫ちゃんが調子を戻してくれたような気がして嬉しかった。


 だが、それはすぐに終わった。


「だから……もしかしたら……『能力』を完全に『抑え』られるようになったんじゃないかと思っていたんです。もう一度、クラスのみんなといっしょに遊べるって……でも……一葉さんが『能力』の効かない体質だと分かって……だから……わたしは……やっぱり……学校には……みんなに会う資格は……」



 どんよりとした空気が立ち込める。菫ちゃんはどんどん口数を減らしていき、そして、


「……ごめんなさい、体調も、だいぶ良くなったみたいですから……ここからは一人で帰りますね……」


 菫ちゃんがそれ以上は言うことはなかった。菫ちゃんふらつきながら立ち上がった。


「ちょっ、菫ちゃん……」


 ぼーっとなっていた頭が再起動する。俺は慌てて菫ちゃんを止めようと立ち上がる。


「――あっ……」


 しかしそれは遅かった。急に立ち上がったこともあり、菫ちゃんの足元がフラフラ揺れ、そして――


「あぶないっ!」


 頭の中に最悪な光景が浮かぶ。俺はパンチを出すかのような速さで右手を突き出し、菫ちゃんの背中を支えた。


「菫ちゃん、大丈夫!?」


 ぐいっと押して俺は菫ちゃんの体をきちんと立たす。本当に良かった……。


「す、すいません! あ、ありがとう……ございます……もう本当に大丈夫ですから」


「あのさ、菫ちゃん」


「は、はいっ!」


 さっきの説明だけではすべてはわからないが、菫ちゃんは俺という存在に、ほんの少しであろうとも、「希望」を抱いたことは理解した。

 偶然だろうと、その「希望」をぶっ壊したのは、自分のせいだ。俺のような居候がこれ以上突っ込むべきことではないということもわかっている……。


 だが、俺はこれ以上菫ちゃんに悲しい表情を作らせてはいけない。そう本能が訴えていた。


 俺は菫ちゃんの前に立ち、同じ目線になるように膝をしゃがませる。


「な、なんですか……!」


 菫ちゃんは頬を少し赤らめ、上ずった声を出す。俺は菫ちゃんの右手をがっちりと握った。


「い、一葉さん……!?」


 さらに声に余裕がなくなる。『能力』が効かないと分かっていても、菫ちゃんにとって「手を握られる」という行為は苦しいはずだ。俺はその不安を打ち消すように、腹から声を出す。


「えっとさ……上手くは言えないんだけどさ……その、さ……俺がいるから!」


 テンパっていたせいか、かなり変なことを言ってしまった。顔から火が出そうだった。


「……え」


 うつむきがちだった菫ちゃんの目が大きく開かれる。俺は腹を決めた。


「俺には『能力』が使えるってわけじゃないし、そもそも『能力』ってやつが一切効かないみたいだから、正直なところ、菫ちゃんが自分の『能力』にどれくらいに苦しい思いをしてきたか、まったくわからない」


「そう……ですよね……」


「――けど! それを抜きにしても菫ちゃんが『悲しんでいる』ことは十分わかるんだ! ……菫ちゃん、悲しいことがあったら俺のことを頼っていいから! 何にもできないけど、菫ちゃんを『助けたい』っていう気持ちは誰にも負けなから!」

 

 喉が枯れるんじゃないかというくらいの声を出した。こんなに声を出したのはいつ以来だろう。

 

 臭い言葉だ。自分でもそう思う。けど、本当の気持ちだ。俺は菫ちゃんにとっての「希望」であり続けたかった。


「…………」


 案の定、菫ちゃんは無言となる。中途半端に膝を曲げていたこともあり、だんだんきつくなってきた。俺の顔から笑みが消えてくる。


「そ、それじゃそろそろ帰ろう……か!」


 我慢の限界がおとずれた。俺は膝を伸ばし元の姿勢に戻る。膝ががくがくと震える。ほんの数分なのに、おっさんか俺は……。


「……が……」


 自身の体への情けなさに苛立ちを覚えたとき、菫ちゃんは何かをつぶやいた。菫ちゃんは今度ははっきりと口にした。



「ありがとうございます!」



 あの時みたいに俺の手を力強く握り返し、菫ちゃんは一言、はっきりとした口調でそう言った。


 菫ちゃんの「心」がすべて濃縮されたかのような、最高の笑顔だったーー。

 これ以降はまだあまり書けていないので、更新はかなり遅くなると思いますがよろしくお願いします。

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