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「……えーと、つまりあなたはこの小学校の保健医で、決して小学生女子に情欲を抱かない人だと思っていいんですよね?」
確認するように、俺はもう一度葛城さんに、先ほどの件について聞き直した。
ショッキングなものを見てから数分後、興奮し叫んでいた俺だったが、白衣を着た女性に「静かにしろ!」と怒鳴られ、イスに座らさせられた。
そこから白衣を着た女性は、俺に質問させるよりも早く、さきほどの現状説明を始めた。白衣の女性はこの学校の保健医で、名前を葛城心美というらしい。その後、誕生日、血液型など意味のないことを教えてくれたが、俺は強引に割り込み、さっきの「件」のことについて尋ねた。
すると葛城さんは、さっき菫ちゃんに胸を触らせていたのは、菫ちゃんの「能力」を使ってもらっていたからと答えた。
あっけらかんと「能力」なんて言うものだから少し驚いたものの、とにかく変なことではなかったとわかり、ほっとした。
「はあ、しつけーなお前も。あたしゃガキにゃあ興味ねえんだよ。それが女なら尚更だ。スミレ、お前からも何か言ってやってくれよ!」
葛城さんはカーテンを開き、もう一つのベッドにいた菫ちゃんに呼びかける。さっきの光景を見られたことがよほど恥ずかしかったのか、菫ちゃんは布団に覆いかぶさっていた。だが、それでも菫ちゃんは小さな声で、返事をくれた。
「は、はい……! 一葉……さん、決して変なことをしていたわけではないんです……信じて……ください……!」
「わかった、信じるよ!」
「はえーなおい!」
俺の元気良い受け答えに、葛城さんは力強くツッコミを入れてくる。
「菫ちゃんが嘘をつくような娘に見えますか?」
「まあ……見えねえな」
「でしょう!? そういうことです!」
まだ出会って数週間程度の関係、それでいて論理性にかける判断の仕方だが、恥ずかしそうにしながらも、必死に訴える菫ちゃんの姿を見れば、何一つ疑う必要はない。そんな俺の力説に二人はきょとんとした顔になる。
「で、ロリコン野郎。お前はいったい、何をしにきたんだ?」
だが葛城さんはすぐに蔑むような表情になり、冷たい言葉を俺に浴びせた。……この際、ロリコンという部分には反論しないでおこう。
「忘れ物を届けに来たんですよ。はい菫ちゃん、お弁当!」
俺は満面の笑みを見せ、菫ちゃんに弁当箱を渡そうとする。
「え……あ……その……?」
だが菫ちゃんはそれを受け取らず、困ったような表情を浮かべた。……あれ、なんだか嫌な予感……?
「何いってんだお前? ……あ、やっぱお前ロリコンだろ!」
「なんでそういう結論になるんですか! 俺はただお腹を空かせて困っている菫ちゃんにお弁当を届けに来ただけですよ?」
くそ、菖蒲さんみてえな人だな……! 俺は必死に事の次第を伝えようとした。だが、
「ウチの学校は弁当じゃねえよ!」
「――え?」
「はい、葛城先生と菫ちゃん、持ってきたわよ!」
その時、保健室のトビラが開く。そこからマスク姿で白いエプロンと帽子をかぶった、女の人が入ってきた。
「お、待ってたぜ! おばちゃん、いつもありがとな!」
「いいのよべつに! それよりこの前はありがとうね、おかげで『若返った』ような気がするくらい、元気になったわあ!」
「いいっていいって! あんなもんでよければいつでもしてあげるよ!」
「あらありがと! それじゃあね!」
葛城さんに、持ってきた「お盆」を二つ渡し、礼を言って「おばちゃん」は出て行った。
「おーウマそう! それじゃスミレ、さっそく食べるか!」
「は、はい……」
葛城さんは右手に持ったお盆を菫ちゃんに渡す。葛城さんも菫ちゃんも、自分の分のお盆を膝の上に置いた。
白いご飯が盛られた茶碗に、唐揚げとサラダが載った皿。そしてビンに入った牛乳と、お盆の上には「食事」が載っていた。小学校中学校と、学校がある日はたいていこういったものだったので、俺はすぐに意味がわかった。
「……給食なの?」
すでに答えは目の前にあるものの、俺はそう聞かざるを得なかった。
「だからそういってんだろ。いっただきまーす!」
マヌケな顔で硬直する俺をあざ笑うかのように、葛城さんは給食を食べ始めた。
「――ふ、ふふふ……! 謎は全て解けた!」
どこぞの探偵漫画のようなカッコつけたセリフを放ち、俺はようやく黒須さんに「騙された」ということを理解した。




