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紫島姉妹に効果あり  作者: 釜揚げ製菓
第三章 紫島花梨
20/42

ここで第三章が終わりです。

「ご、ごほん……! ひ、火のきゃみ『アドリャ』はわれに対してはひきょうりょくてきでな。ま、まあそういうわけで、われは修練を積んでいるわけだ! わきゃったか!」

 

 取り澄ましたように、口調を戻そうとした花梨だったが、かなり噛み噛みだった。よほどさっきの「素の自分」を出してしまったことに動揺していることがすぐにわかった。


「……えーと、つまりお前はさ、自分の『苦手』を克服しようとしているってことでいいんだな?」


 神云々についてはさっぱりだが、俺は花梨が火の『能力』を操るために、特訓していると理解した。


「……ふん、その通りだ。期待に添えずにわるかったな……」


 ぷいっと顔を俺から背け、花梨は悔しそうに答えた。俺はやっと、花梨の行為の意味がわかった。


 そして、感動した。


「なにいってんだ、自分の苦手に向き合うなんて中々できることじゃないぞ。お前はもっと自分を誇っていい」


「…………へっ?」


 がっしりと両肩に手を置き、俺は本気で花梨に賛辞を送った。花梨は俺に肩を触れられていることに気づいていないかのように、ただただ呆然としていた。


「――よし、乗りかかった船だ! お前の特訓に付き合うぜ! 何でもいってくれ!」


 無駄にテンションが上った俺は、そんなことを言っていた。だが、それなりに本心でもあった。



『三年間、一度も休むことなくサッカー部に行きました!』


『夏休みのボランティアに毎日行きました!』


『予習復習をきっちりこなし、学園行事にも積極的に参加しました!』



「努力」という点では同じだが、そういった風に公然と自分の頑張りを言うのではなく、決して自分の弱みを見せないように、誰にも知られないように影で隠れて努力するという行為の方が中々できることじゃない。少なくとも、俺には無理だ。


 だからこそ、俺は花梨の頑張りを評価すべきだと思った。


「……………ふ、ふふはっはっは!」


 高らかに、うれしそうに花梨は笑い声をあげた。


「そうか、それならば仕方ないな! 仕方ない、い、一葉よ、特別に我の従僕となることを許してやろう!」


「おー、ちゃんと名前を呼んでくれたな! うれしいぜ!」


「ふ、ふん! 光栄に思うのだな!」


「だが従僕は断る」


「なっ! き、貴様……先ほどと言っていることが違うではないか!」


「『能力』が効かない体質でも、『そういった』体質ってわけじゃねえんだよ! 勘違いすんな!」


「だ、黙れ下僕!」


 花梨はピンッっと俺に向かい指を突き指す。するとその指先に徐々に光が――火が形成されていた。水の玉に比べたらまだ小さいものの、明らかにさっきの火よりも大きかった。


「―――うそ?」


 俺以上にその変化に驚く花梨。火の勢いは花梨の人差し指に集中されたままだ。


「おし、そのままそれを投げてみろよ! ほらほら!」


 練習の成果が出たのか偶然なのかはわからないが、このチャンスを逃してはならないと、俺は花梨にそう促す。


「う、うん! わかった……!」


 意外にも花梨は素直に俺の言葉を受け入れた。花梨は眼を閉じ何度か呼吸をし、集中力を高める。


「ふう……はあ……ふう……はっ!」


 力強く息を吐くと同時に、花梨は手首のスナップを利かせ、「火の玉」を前に向かって投げつけた。


「お……お……!」


 ひらひらと、ゆっくりとだが前に向かって飛んでいく火の玉。やがて火の玉は屋敷の壁にぶつかり、消えた。


「おー、やったなかり――」



「――やったあぁっ!」



 ねぎらいの言葉を送ってやろうとする前に、花梨は両手をバンザイをし、今にも飛びたたんばかりの歓喜の声をあげた。


「…………」


 無言で俺は花梨を見つめる。花梨も俺の存在を思い出したようだった。


「…………ご、ごほん! ……まあ、こんなものかな! 本調子ならばこの屋敷くらいすぐさま焼きつくすことができたんだが……」


「冗談でもそういうこと言うのはやめとけ。にしても、頑張ったじゃん。おめでとう」


 俺が頑張った際には親に必ずされてきた「頭を撫でる」という行為を、俺は自然に花梨にしていた。


「なっ……! き、貴様……!」


 俺から離れようとする花梨だが、力は俺の方が上だった。


「ははっ、いい子いい子~!」


「こんな時間まで夜遊びですか一葉さん……」


 調子に乗って頭をつかみ、さらに力強くワシャクシャとやっていた俺の手が、たった一声ですぐに止まった。


「あ……黒須さん……ちーす……!」


 俺はカクカクした動きで黒須さんに手を上げる。その隙を突き、花梨が俺から離れた。


「まったく……何をしているのかと思えば……一葉さん、あなたはそういった趣味があるんですか?」


 蔑むような眼で俺を見てくる黒須さん。ま、まずい……完全に誤解している!


「違いますよ! 俺はただ頭を撫でただけで……。なあ花梨、お前からも何とか言って……」


「…………」


 まさかの無言だった。花梨は黒須の背中に隠れるように立っていた。さっきの態度はどこいった!?


「おーい、花梨ちゃん? 何か返事してよー」


「……っ!」


 必死になり俺は花梨の顔を覗き込み呼びかける。だが花梨はそんな俺をはねのけ、ダダダッと小動物のごとく屋敷内に戻っていった。


「…………」


 屋敷の外から犬の鳴き声が響き渡る。どこか寂しげで、怯えているような鳴き声だった。


「――とりあえず一葉さん、詳しい話はまたあとで聞きましょうか?」」


 などと考え、現実逃避しようとした俺を、黒須さんは冷たく鋭利な声を出し呼び戻す。


「はい」


 反射的に返事した。黒須さんの発する、異様な威圧感から、言い逃れはできそうになかった。


 その夜俺は、黒須さんと楽しい楽しいおしゃべり(一方通行な)を楽しんだ……。


 そしてその翌日。


「……おはよ~……」


 寝不足気味で誰かわからないままに、俺は部屋の前に立っていた人物に挨拶した。


「……!」


 その誰かは何も言うことなく、脱兎のごとく俺の前から姿を消した。ドアのすぐ下に封筒があった。


 拾い上げ中を見てみると、中学生がノリで書いたようなよくわからない文が載ってあった。最後のところには俺の名前を書く欄があった。


「……」


 仕方ない、書いてやるか。寝ぼけていたのもあり、俺はそれが何を意味するかも知らないままに、名前を書いた。


 だがその瞬間を境に、俺は紫島花梨と「契約」を結ぶことになってしまった。

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