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紫島姉妹に効果あり  作者: 釜揚げ製菓
第二章 紫島菖蒲
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「良かったのか、握手だけで?」


「はあ、まあ……」


「あいつのおっぱい、柔らかいぞ」


「たしかに柔らかそうでしたよね……ってそんなことできるか!」


 誘導尋問に乗り、危うくとんでもないことを答えそうになってしまった。俺はそれを誤魔化すように、菖蒲さんに大きな声を放つ。菖蒲さんは子供のようにニカっと笑った。

 


 あまり芸能事に詳しくない俺でも、ここ最近テレビを見ていればよく見かけ、「キレイな人だな~」という第一印象を持っていた芸能人、総山紗江(そうやまさえ)さんと握手してから十分後、俺の部屋には二人しかいなくなった。


 芸能人特有のオーラのようなものにやられたのか、俺は紗江さんと握手している間、ぽわーんと心が浮き上がるような良い気持ちになった。


「それじゃわたしはもう行くわ。菖蒲、送ってよ」


 だが三十秒ほどすると紗江さんは俺から手を放し、再び眼鏡をかけ、口調を戻した。その切替えの早さに、俺はショックを受けるよりもプロ意識を感じた。


「えー、もっと遊んでいけよー」


「ニートと違ってわたしは忙しいの。ほら、早く」


 ぶーっと渋る菖蒲さんだったが、紗江さんの発する凄みに負けたのか、めんどくさそうにしながらも立ち上がった。


「あ、えっと……応援してます!」


「ありがと、あなたも頑張ってね!」


 最後に再び芸能人モードに切り替え、ウインクを送る紗江さん。それを最後にして、菖蒲さんと紗江さんは部屋から姿を消し、五分ほどして菖蒲さんだけが戻ってきた。なぜかパスタの乗った皿といっしょにだ。


「それ、何すか?」


「パスタだ。帰り間際に買ってきたんだ。ほら、食えよ」


「は、はあ……」


 強引に手渡された。オリーブオイルの香りが俺の鼻孔を通り脳を刺激する。腹減ったな……。


「――にしても、本当だったんですね、友達って」


 誘惑に負けてはダメだと思い、俺は顔を上げ黒須さんに話しかける。


「なんだよ、お前信じてなかったのか? あいつとは小学校の頃からの付き合いだからな」


 菖蒲さんはえへんと胸を張り誇らしげにそう教える。本当に自慢の親友なんだろうな……俺はそういう風に感じた。


「紗江さんは、菖蒲さんの『能力』については知っているんですね」


 あまりにも自然すぎて気にしていなかったことを俺は訊いた。菖蒲さんはすぐさま頷いた。


「そりゃ友達だしな。ま、俺もあいつの秘密を知っているから五分五分ってことさ」


 どんな秘密なんだろう。気にはなったが、俺が聞くことではないので、この話題はここで切ることにした。


「……菖蒲さんの『能力』って、どれくらいまでの距離まで有効なんですか?」


 話題が思い浮かばず、けっきょく俺は菖蒲さんの「能力」について追求することにした。


「んー……ちゃんと測ったことはねえけど、だいたい、『行ったところ』ならどこでも大丈夫かな」


 あっけらかんと答える菖蒲さん。それとは逆に俺の目は点になっていた。


「さすがに嘘でしょ~?」


 半信半疑、すぐには信じられなかった俺は、つい挑発的な言い方をしてしまった。菖蒲さんは顔を気分を害したのか、むくっと頬をふくらませた。


「なんだよ、信じられねえのかよ!」


「いやだって……」


「おおわかったぜ! だったら絶対に『普通じゃ行けない』場所に行ってきてやるよ!」


 売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。菖蒲さんは喧嘩腰のまま、再び力を使い、「跳」んだ。


「……まあいいか」


 普通じゃ行けないって言っていたし、けっこう遠くまで跳び、しばらく戻ってこないと思った俺はせっかくなので、パスタを頂くことにした。


 ちなみに、俺はご飯は部屋で食べるようにと黒須さんに言われている。

 

 食事の度に黒須さんにいちいち食事を持ってきてもらうことが悪いと感じたので「なぜですか?」と訊くと、黒須さんは「申し訳ありません」としか言わなかった。


 ……まあ、居候だし仕方ないといえば仕方ないんだが……とか考えながら俺は両手を合わせる。


「いただきまーs……」


「つまみ食いとは……感心しませんね、一葉さん」


 ――フォークに丸めたパスタを、あーんと開いた口に持っていったときだった。菖蒲さんとはまったく違う意味で突然、何の気配もなく黒須さんが現われた。


「…………」


 俺は間抜けな形で硬直した。


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