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紫島姉妹に効果あり  作者: 釜揚げ製菓
第二章 紫島菖蒲
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「うーん、なんだか上手くいきすぎなんだよなあ……」


 黒須さんにあいさつして、俺は自室に入り、ベッドに寝転がり、天井を仰いだ。今までずっと布団で寝てきた俺だったが、ベッドの寝心地はかなり良く、俺をすぐさま眠気に誘う。俺は意識が曖昧になりながらも、頭を働かせ現状について考える。


 火事で住む場所を無くしたときはどうなることかと思っていたが、食費も家賃代も払わず、まさかこんな好待遇な部屋に住めるとは思わなかった。


「住むだけ……ねえ……」


 三日経っても何の動きが無いところを見ると、黒須さんには「他意」はなさそうだ。だがやはり、邪推してしまう。


「つか、どうしてあの人は俺が『そういう体質』だってこと知っていたんだろう……」


 俺でさえ知らなかった事実を、いつの間に黒須さんは知ったのだろう。あの言い分だと、黒須さんはかなり以前から知っていたようだが……。


「――そういや、あんまり話せてないよなあ」


 考えれば考える程よくわからない。俺は思考を変えてここ三日間のことを思い出す。ここ三日、何とか話す機会を探そうと、紫島姉妹の誰かに話しかけようとしたが、変に避けられたり、タイミングが合わなかったりで全然話せなかった。一番話しやすそうな菫ちゃんにいたっては、ほとんど部屋にいるようで全く姿を見なかった。


「まあその内なんとかなる……」


「よ」


「――そういえばこの家ってご両親いないみたいだけど、どうしてだろう」


「二人とも海外出張中だからだよ。父さんはアメリカ、母さんはヨーロッパ。ここ数年は帰ってきてないけどな」


「それにしても大きい家だよなあ。いったいいつからあるんだろう?」


「五十年くらい前だったはずだぜ。元々は父さんの父さん――アタシらのおじいちゃんの家だったらしい」


「……それにしても黒須さんって料理上手だよなあ。元料理人なのかなあ」


「違う違う。あいつが料理上手なのは、メイドのスキルの一つってだけだ。あいつ曰く、『メイドはどんなことも完璧でなければならない』らしい」


「――あ! そういえば今日始まるドラマのヒロインが、この町出身の人だってクラスの奴が言っていたなあ。……よし、見てみよう!」


「ああ、それアタシの友達。――つーか、無視すんなっ!」


「ーーいってぇっ!」


 気持ちのいい音とは裏腹に、俺の頭に激しい衝撃がおとずれた。予想以上の痛みに、俺は両手で頭をおさえこんだ。


「な、なにすんだよ!」


 俺はその痛みを与えた主、どこからともなく俺のベッドに現われた菖蒲さんを睨みつける。


「それはこっちのセリフだ! 人が話しかけてんのにわざとらしく無視しやがって!」


「人の部屋に勝手に入ってくるような奴に言われたくない!」


「『よ』って言っただろ!」


「そういう問題じゃねえよ! ……はあ、わかりましたよ、すいませんね」


 ああ言えばこう言う押し問答。このままじゃまた殴られかねないと思った俺は、不満ながらも来訪者、菖蒲さんに謝った。


「そうそう、最初からそう素直に謝りゃいいんだよ。……にしても」


「な、何すか……?」


 菖蒲さんは俺をじいっと見つめてきたかと思うと、ぐいっとベッドに片膝をつき、俺に迫ってきた。反射的に、俺は立ち上がり菖蒲さんから離れようとする。


「逃げんなって」


「うおっ!」


 ベッドにいたはずの菖蒲さんの姿が消える。と思ったら、背後から声がした。ああ、そうだ……超能力が使えるんだった……。大して気にすることじゃないと思っていたことだったので、俺はすっかり忘れていた。菖蒲さんは俺の手をガシっと掴んだ。


「な、なんすか……?」


「………」


 さらにぎゅうっと握る手に力を込めてくる菖蒲さん。わぁ、柔らかい手だなあ――。


「いた、いたいいたいっ!」


 だがその感触はすぐに激痛へと変わった。万力のように菖蒲さんは徐々に手に力を込めてきていた。俺が叫ぶも、菖蒲さんはまったく気にしていなかった。


「……ちっ、やっぱり無理か――」


 しばらくして菖蒲さんは悔しそうな声を出して、手を放した。俺はすぐさま距離を取った。手は真っ赤になり、しばらく動かせそうになかった。(握力すごいな……)


「……なあ、お前ってホントに何なんだ?」


「そ、その言葉、そっくりそのままお返しさせていただきます……! 何ですか急に!」


「何って実験だよ実験。にしてもおっかしいなぁ……何で『跳べ』ねえんだろ?」


 あごに手を当て、うーんとうなりながらベッドに腰を落とす。どうやらすぐに出て行ってくれなさそうだ。


「……ソレジャゴユックリ」


 結論、俺が出て行こう。俺はドアを開き、外に出ていこうとした。


「だから逃げんなって」


 ドアを開き、半歩外へ出たとき、俺の正面に菖蒲さんが立っていた。菖蒲さんは俺を再び部屋に押し戻す。


「ほら、座れ」


 菖蒲さんは再びベッドに座り、隣に座るよう命じる。


「…………わかりましたよ」


 逃げることは不可能だ。俺はあきらめ、菖蒲さんに従うことにした。



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