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「ここが一葉さんのお部屋になります」
三日前、住むことが許可され浮かれたのもつかの間、俺は黒須さんにこれから俺の部屋となる場所へ案内された。
掃除こそされて綺麗だったが、どうにも人に使われた形跡はない廊下を通って俺は屋敷の一番右奥にある部屋の前に着いた。黒須さんはドアを開け俺に部屋の中を見せる。
「――え……マジで?」
「ベッドよりも床の方が良かったですか?」
「い、いえそれはべつにいいんですけど……なんでもう、用意されているんですか?」
部屋の中を見て俺は驚愕した。大きな屋敷だから使われない部屋の一つや二つはあると思っていたから、部屋を案内されたことには驚かなかった。俺が驚いたのはその先だ。
窓一つだけの、壁全体が真っ白な部屋だった。これだけなら寂しさと気味悪さがある。
だがその中身は違った。まずはベッドに目がいった。その辺のホームセンターに売っているような安っぽいものではない。高級ホテルにありそうな豪華な飾り付けがされた、「ふかふかベッド」だった。(寝心地良さそ!)
続いて勉強机、その棚の上には教科書類や辞書といったものが綺麗に並べられていた。さらにノートパソコンも置かれていた。
そして液晶テレビに、クローゼットにエアコン……冷蔵庫までもがあった。
「……誰かの部屋だったんですか?」
まるですでに誰かが「住んで」いたかのような部屋だった。黒須さんは首を横にふった。
「いいえ、私が一葉さんに会いに行く前に、あらかじめ用意していたものです。ご満足、いただけましたでしょうか?」
「は、はあ……」
わぁ嬉しい! ……というよりも逆に不気味だった。事前に用意したって……それって俺が住むか住まないかを決める前ってことだよな? 俺が住む場所を無くしたのは昨日だから……つまり――。
「それではご自由にお使いください」
「――待ってください!」
出て行こうとする黒須さんを、俺は呼び止めた。黒須さんは止まり、振り返る。
「夕食の時間ですか? それでしたらあと小一時間ほどお待ちください。今日のメニューはペペロンチーノです」
「いえそうじゃなくて……」
「ノートパソコンのメーカーですか? 申し訳ありません、私は機械事には弱いので、そういったことは……」
「そうでもありません! もっと大事なことが訊きたいことがあるんです!」
とぼけたような反応に、俺はつい声を荒げてしまった。つかこの人、天然なのか?
「何でしょうか?」
「はい、その――」
あまりにも出来すぎた待遇に、思考が麻痺していたが、このまま流されてはダメだ! 俺はすうっと息を吸い込み、問いを投げかけた。
「俺の、この屋敷での仕事は、何なんですか!?」「『住む』ことです」
たった一言、間髪入れずに黒須さんは即答した。
「……住むだけ?」
「ええ、『住む』だけです」
「………」
「………」
両者しばらく沈黙する。そして今度こそ黒須さんは部屋を出て行った。
「住むだけって…………仕事かそれ!?」
ツッコまざるを得なかった。何か裏があるんじゃないだろうか……いやそれにしては……。この時の俺は、そうした疑いをもたずにはいられなかった。
しかし三日も経つと、俺はそんな疑問など微塵と思わずほとんど「普通」に、この屋敷で暮らせるようになっていた。




