第8話 朝の通学路にて勇太を待つ香澄
翌朝、俺はいつも通りに高校へと登校していた。
俺は異世界の勇者の力を持ってはいるが、この世界の中ではただの高校生。
平日は学校が待っているのだ。
といっても、俺にとって高校生活は今日からスローライフの舞台となるのだが。
電車が着いたばかりなのだろう。
視線の先、通学路の途中にある高校最寄り駅の改札前広場には、そろいの制服に身を包んだ生徒たちが次々と改札から現れては、高校へと向かって歩いていく姿が見えた。
そんな中に俺は見知った顔を見つけた。
香澄だ。
香澄は駅前広場の脇に一人で突っ立ったまま、こちらの方角を見ていた。
「友だちか誰か待っているのかな?」
そんなことを思っていると、香澄が「あっ!」って顔をしたかと思うと、
タタタ――ッ!
迷子の子犬が飼い主を見つけたみたいに勢いよく俺のところに駆け寄ってきた。
どうやら俺を待っていたようだ。
香澄は俺の目の前までくると、胸に手を当てて大きく深呼吸してから言った。
「お、おはよっ! 勇太くん!」
「おはよう香澄。あれ、なにか約束でもしていたっけか?」
あれっと思って記憶を辿ってみるが、特にそういう約束はしていなかったはず。
連絡先を交換したけど、香澄から連絡もなかったし。
「ううん、たまたま駅から出てきたら勇太くんの顔が見えたから、せっかくだし一緒に行こうかなって思っただけだし? あ、昨日は本当にありがとねっ」
「そうなのか。俺を待っていたように見えたが、気のせいだったか」
「き、ききき気のせいですぅ! そ、そそそそーゆー自意識過剰はアタシよくないと思うなあっ!」
「返す言葉もないな」
俺としてはそんなつもりはなく、香澄の様子からそう推察しただけだったのだが。
たしかに今の受け答えは、どこからどう見ても自意識過剰君だった。
「あ、えっと、今のは言葉の綾ってゆーか……、そこまででもないってゆーか……」
謎にもにょっている香澄。
「別に気を使わなくていいぞ。気にしてない、というか今のはそう言われて然るべきだし」
勇者は誰からも注目される存在だ。
戦場でも、パーティでも、日常生活でも。
勇者というのはとかく目立つ。
だから香澄も俺を見ていたとつい勇者的に思ってしまったが、今の俺は平凡な男子高校生。
誰からも注目されない存在だった。
誰からも注目される勇者と、平凡な男子高校生。
そのギャップには気を付けないとだ。
「そんなことないからっ! 悪いのはアタシだしっ」
「や、香澄は悪くないだろ?」
「だって待ってたのは事実――」
「え? 事実?」
「はわっ!? だからちがくてね!? そういうんじゃなくて――じ、じ、時事通信の朝のニュースを勇太くんは見たかなって話だし!?」
「まず時事通信がなにか分からない上に、悪い。そもそも朝のニュースは見ないんだよな。不勉強ですまない」
多分だけど香澄の言い方から察するにネットのニュースだよな?
「だ、だよねー! アタシも見てないし」
「ならなんで聞いたんだ?」
「それは……な、なんとなく?」
「そうか」
女子の間では時事通信の朝のニュースを見るのが流行っているのだろうか。
せっかくだし物は試しで明日の朝はチェックしてみるか。
「そ、そんなことより、昨日の今日で朝から合うなんて偶然だねっ! ほら、学校に行こうよっ!」
香澄はまくしたてるようにやたらと早口で言って、プイっと顔を背けると、俺の返事も待たずに歩き出した。
クラスメイトと一緒に登校しない理由もないので、俺も香澄の隣に並んで歩き出した。




