第7話 ◇ 香澄SIDE ◇
◇ 香澄SIDE ◇
その日の夜。
「勇太くん、すっごくカッコよかったなぁ……」
いつものようにお風呂に肩までしっかりつかりながら、アタシは放課後の一幕を思い出していた。
怖そうな先輩たちに校舎裏に連れ込まれて涙目になっていたアタシを、颯爽と現れて、とってもスマートに助けてくれた同じクラスの男の子。
あの後、何度思い返したかわからない。
それほどまでに印象的な出来事だった。
「怖そうな先輩が3人もいたのに、平気な顔をしてるんだもん。あんなにケンカが強いなんて知らなかったし」
クラスではもっと物静かな感じだったように思うんだけど。
落ち着いた感じの男の子、それがアタシの勇太くんに対する印象だった。
「あ、ケンカじゃなくて正当防衛だよね。うん、これは大事。ちょー大事」
アタシを守るために戦ってくれたのであって、暴力とかそういうんじゃなかったから。
「いいですか皆さん? ここは毎年必ずテストに出ますからね? 『テストに、か・な・ら・ず・出・る』とノートに書いておいてくださいね」
なーんてね。
(中学の時の数学の先生の真似である)
「勇太くんは普段は本気を出さずに隠しているのかな? 目立つのが好きじゃないとか? 結構シャイだったり?」
普段の物静かな姿からは想像できない、まるで別人みたいなそのギャップが、妙にわたしの心をくすぐっていた。
「なんだろう、この気持ち……?」
うずうずして、ワクワクして、なんだかくすぐったい。
ドキドキもするような?
自分の気持ちなのに、なんだかよくわからない。
とにかくなんとも心地のよい初めての感覚が、アタシの心にいっぱいに満ち溢れていた。
「やっぱり、お礼はしないとだよね? だって助けてもらったんだもん。うん、お礼は大事。ちょー大事」
「人」という字は互いに支え合ってできているのだから。
だからshould じゃなくてmust。
……あれ?
これってどっちがどっちだったけ?
もしかして逆だったり?
たしかどっちかが強制力が強いんだよね?
まぁいいや。
日常生活じゃ使わないし。
「お礼をするなら早い方がいいよね?」
うん、これも当然。
つまりは明日。
「お弁当とか作っていくのって……ありだよね?」
たまたま偶然、勇太くんの好きな食べ物や嫌いな食べ物も聞けたしね。
勇太くんはミントやパクチーみたいな香草が少し苦手なくらいで実質、好き嫌いはないと言っていた。
しかも勇太くんは学食組。
たまたま偶然お母さんが明日だけお弁当を作ってくれた――とかでもなければ、アタシのお弁当が邪魔になることはないはずだ。
うん、カンペキ!
「べ、別に明日話しかけるための口実とかそんなんじゃないんだからねっ! あの時は本当に話の流れだったんだからっ! これが目的とかじゃなかったし! ほ、ホントだからねっ!」
って、アタシはなんで自分で自分に言い訳をしているのか……。
「それはもちろん、帰ってからラインでお礼の連絡をしようとして、緊張しちゃってどうしてもできなかったヘタレなアタシだからだね、うん!」
うう~っ!!
自分で言ってて情けなくなってきたかもぉ……。
アタシは見た目がギャルっぽい。
でもそれは中学時代の仲良しの友達がそういう感じの子ばかりだったから、自然とそうなっただけで。
アタシ自身は全然ギャルでもなんでもない。
イケイケでオラオラな男子はちょー苦手だし。
仲のいい男子のお友だちなんていなかったし(なのに唐突に告白だけはされる。困る、すごく困る)。
漫画とか読むのも大好きだし。
ちなみに最近のお勧めは、
■自称「平凡」の家柄最強Sランク高校生は、大企業の陰謀を完膚なきまでにぶっつぶす
https://kakuyomu.jp/works/822139844103780471
主人公の獅童正道くんが超カッコいいんだよね~!
正道くんは大財閥の御曹司でね?
周囲がうらやむハイスぺ男子なんだけど、普段はそれを隠してて!
しかも周りがそれがかすむくらいに超ハイスぺ過ぎるせいでコンプレックスを抱えてて、思わずキュンってしちゃうんだ~♪
……こほん、それはそれとして。
「お弁当はいい考えだと思うんだよね。料理は得意だし」
お礼にもなって、話しかける口実にもなる。
いいことしかないよね?
「べ、別に勇太くんが気になってるとかそんなんじゃないし? 純粋にお礼がしたいだけだし? 美味しいとか言ってもらえたりして。えへへぇ……♪」
アタシは冷静に自分に言い聞かせるようにつぶやきつつも、最後につい、ふわふわとした妄想をしてしまう。
「っていうか、せっかく連絡先を交換したんだし、普通はこれはチャンスとばかりに向こうから連絡してきたりしない? 男子ってそういうんでしょ? アタシ結構可愛いと思うんだけど。もしかして勇太くんの好みじゃないのかな……?」
アタシは自分自身は日和って行動しないでいることを盛大に棚に上げながら、またこれ今日何度目になるかわからない放課後の大事件を思い返し始めたのだった――
◇ 香澄SIDE END ◇
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