第5話 香澄と一緒の帰り道
高校からの帰り道、俺の隣には牧村さん――改め香澄がいた。
『勇太くんはこの後どうするの?』
『どうするも何も、特に用もないから家に帰るだけだな。いわゆる帰宅部だ』
『電車通学?』
『いや、徒歩通学。駅のちょい向こうの住宅街だよ。この辺りは中学校の校区じゃないからあんまり詳しくはないが、まぁほぼほぼ地元だな』
『だったらせっかくだし、駅まで一緒に帰らない? アタシ電車通学なんだー』
ってな感じで香澄から誘われて、一緒に帰ることになったのだ。
とはいえ手を繋いだりとかそういうこともなく、ただ一緒に帰るだけ。
会話もいたって普通で、今日あった授業のことや、好きな食べ物の話とか中学時代の話といった当たり障りのないものばかりだった。
ちなみに帰宅部のピークタイム(放課後直後)を過ぎているため、通学路はガラガラだ。
「来週の体育、体力テストで長距離走でしょ? アタシ走るのは苦手だから憂鬱だなぁ」
力なくつぶやく香澄に、俺は苦笑しながら同意する。
「長距離走は帰宅部にとっては一番の鬼門だよな」
「だよねだよね? そもそも1000メートルとか日常生活で走ることないよね? だって1000メートルって1キロなんだよ? あ、男子は1500メートルなんだっけ? う〜、女子で良かったぁ」
「ま、1年に1回だからなんとか頑張るしかないさ」
「ポジティブだねー、勇太くんは。よーし、アタシもしっかり朝ご飯を食べて、エネルギーを蓄えていこうっと!」
「その意気だ」
とはいうものの、勇者の力を手に入れた今の俺なら1500メートル走程度はたいしたことはない。
むしろ出るはずのない異常な数値(世界記録とか)を叩き出さないように、気を付けないといけない。
長距離走の前に勇者の力に目覚めてラッキーだったな。
「朝ご飯といえば、勇太くんはお昼教室にいないし、学食組だよね?」
「ああ、学食でだいたい日替わり定食を頼んでるな」
理由は美味しいのと、量が多いのと、選ぶのが面倒くさいからだ。
今日はその中でも個人的に大当たりの白身魚のタルタルソースだった(メニューはローテーションなので予測できる)。
タルタルソースの刻みタマネギが絶妙で、食欲がめちゃくちゃそそられるんだよな。
「ふんふん」
「どうした?」
「ううん、なんでも。ちなみに好き嫌いってある?」
「特にはないな。強いて言うならハーブとかパクチーみたいな香草は苦手かなってくらいで」
「ふんふん、なるほどねー」
「そういう香澄は好き嫌いはあるのか?」
「わたしは断然、納豆かなぁ。アレはどうしても無理~! 無理めの無理~!」
香澄がグッと両手を握って言った。
よほど嫌いらしい。
「納豆美味しいだろ?」
「あの臭いとネバネバがぁ、アタシには絶対に無理なんですぅ~」
「だったら玉子とかネギとか鰹節を入れると、臭いもねばねばも少なくなって食べやすくなるぞ? 実は俺も小さい頃は納豆が苦手だったんだけど、それで食べられるようになったんだ」
「うーん……あえてそこまでして食べたくもないっていうか? だって食べられなくても困らないし?」
「まぁ、そうだよな。もし挑戦する機会があったらさっき言ったのを試してみてくれ」
「うん、そうするね」
そんな他愛のない会話をしていると駅に着き、
「じゃあな、また明日、学校で」
「勇太くんまた明日ね。ちゃおー♪」
手を振って別れる。
改札を通り駅の中の人混みに消える香澄を見送っていると、香澄が振り向いて、もう一度手を振ってくる。
それに手を振り返すと、香澄は嬉しそうな笑みを浮かべた。
それを合計3回繰り返すと香澄は完全に見えなくなり。
「さてと、帰るか」
俺は駅を後にして自宅へと向かったのだった。
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