第4話『香澄』と『勇太くん』
「それはもちろん! 助けてもらったんだから全力で証言するからねっ。だからもし伊佐見くんが先生に呼び出されたらいつでも言ってね。グラン・カフェで新作パフェを食べる直前でも、すぐに飛んで駆けつけるから」
「グラン・カフェ?」
「あ、伊佐美くんは知らない? 駅前のスイーツ屋さん。創作パフェが美味しくて、テレビで取り上げられたこともあるんだよ?」
「へぇ、そんなお店があるのか。機会があったら今度行ってみようかな」
「ぜひぜひ! もうちょー美味しいんだから!」
「そいつは楽しみだ。あとサンキューな。牧村さんの証言があれば鬼に金棒だよ」
不良3人組の証言vsスマホの録音&クラスの人気者の証言。
大人がどちらを信用するかは火を見るよりも明らかだ。
と、そこで会話が途切れる。
わずかな沈黙の後、牧村さんが言った。
「ねぇねぇ、せっかくだし連絡先の交換しない?」
牧村さんははにかみながら言うと、おずおずとスマホ取り出した。
「いいのか?」
「もちもち!」
「なら遠慮なく」
俺もスマホを取り出して、そのまま流れでラインを交換する。
それは俺にとって初めての女子とのライン交換だった(もちろん母親は除く)。
そのことに俺の高校生の部分がちょっと感じ入っていると、
「えへへ、初めて男の子と連絡先を交換しちゃった♪」
牧村さんがにへらーと嬉しそうに笑いながらスマホの画面を見つめていた。
「ウェーイな男子はいっぱい近づいてきたんだろ? 1人くらい交換したことなかったのか?」
「そんなの1人でも交換したら大事でしょ? 芋づる式っていうの? もうバーッて!」
「それはたしかに」
最初に交換した奴が自慢する。
他の奴が俺も俺もと群がるのは想像に難くない。
可愛すぎるのも大変だなと改めて思う俺だ。
「あの、伊佐美くんも初めてだったり……?」
「俺も初めてだよ。あんまり女友だちができるタイプじゃないし」
内気でモブな男子高校生に女子との連絡先交換はハードルが高すぎる。
それこそ棒高跳びの高さを飛び越えろと言われるようなもの。
「えー? そんなことないと思うけど? アタシから見ても、結構いい感じだよ?」
「あはは、ありがと。牧村さんのお眼鏡にかなうなら、俺も少しは自信になるな」
それはきっと俺が勇者の記憶を取り戻したから。
以前の俺は不良チャラ男に物申すのにも必死にならないといけない、根っからの軟弱者だった。
――なんて説明はもちろんできないので、俺は曖昧に笑って牧村さんの言葉を受け流した。
『イチ、ニ、サン・シ!』『ゴ、ロク、シチ、ハチ!』
運動場の方から、部活動に励む元気な声が聞こえてくる。
「勇太くん――」
と、牧村さんがぽつりとつぶやいた。
「ん? 急に名前で呼んでどうした?」
「あ、ううん!? ラインの名前が『勇太』だったから、つい――。ごめんね、馴れ馴れしかったよね」
「別に牧村さんがそれで呼びたいなら構わないぞ」
「ほんと?」
「呼び名に特にこだわりはないから」
「じゃあ勇太くんって――呼んじゃうよ?」
牧村さんが上目づかいで尋ねてくる。
反則的に可愛い姿を前にして断る男子はいないだろう。
「じゃあ俺も香澄って呼ばせてもらおうかな」
こんな軽口まで飛び出してしまい、さすがにこれはどうかなと思ったのだが、牧村さんはむしろ嬉しそうにうなずいた。
「もちろんいいよー。だって勇太くんは特別だから」
「そういやそうだった」
こうして俺は勇者ユータリアとしての記憶を取り戻すと同時に、
『香澄』と『勇太くん』
クラスのアイドル牧村香澄と名前で呼び合う関係になったのだった。
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