第29話「チッ、今に見てろよ帰宅部。この試合で後悔させてやるからな」
「お前、白坂に声かけられてたみたいだけど?」
ノッポは自己紹介もせずに、敵意むき出しの剣呑な口調で話しかけたきた。
「軽く話しただけだよ」
「はん! スカシやがって。白坂にバスケ部のマネージャーになってあげるって言われたのに、おまえが無下に断ったのは知ってるんだぞ」
「別に無下には断ってない。放課後は拘束されたくないから部活はする気ないって、ちゃんと丁寧に説明してる」
「そんな理由で白坂のお願いを断ったのかよ。マジで許せねぇ!」
「なんでそうなる……」
「チッ、今に見てろよ帰宅部。この試合で後悔させてやるからな」
ああもう、またそれかよ。
お年頃だな、とはもちろん言わないが、話しかけられただけで痛くもない腹を探られるのはなんとも面倒だ。
まったく話を聞く気もないし。
しかもこの激しい敵意。
審判とグルになってるっぽい様子も見受けられるし、ともすればダーティなことまでしてきそうな雰囲気だ。
「おいこら、うちの伊佐見に因縁つけてんじゃねーよ!」
そして冷静に状況を観察する俺の代わり、とでもいうようにヒートアップする熊谷を、
「落ち着け熊谷。相手に乗せられるな。あいつはそう思った、俺はそうは思わなかった。単なる主張の対立だ」
俺は軽く手で抑えて制した。
まだ何も起ってはいない。
まずは相手の出方を窺ってからだ。
それで何もなければそれでいい。
今はまだ、な。
「でもよぉ……」
「いいから。それに熊谷にもそんな時期があったろ? 人のことが言えるのか?」
香澄を名前で呼ぶなと俺に突っかかってきたのは当の熊谷だ。
俺が少しだけ意地悪に聞くと、
「そ、それを言われるとオレも辛いものがあるっつーか……。ああもう、わかったよ。伊佐見が気にしてないなら、それでいいさ」
思い当たる節がありまくりの熊谷は、不満気な顔をしたまましぶしぶといった様子で頷いた。
「ああ、俺は気にしてないから。あと俺の代わりに怒ってくれてありがとな。熊谷のそういうところ、嫌いじゃないぞ」
「お、おう!」
「ほら、ジャンプボールだ。今回もジャンパーは任せたぞ」
「おうともよ!」
こうしてなんとも不穏な空気で最終戦は幕を開けた。
開戦を告げるジャンプボールは熊谷vsノッポ。
ホイッスルとともにボールが上がって、熊谷が跳んだ!
「おりゃっ!」
運動神経モンスター熊谷の跳躍力は、控えめに言って半端ない。
助走なしで80センチ近く跳んでいる。
が、しかし184cmでバレー部のノッポはやはり無法だった。
すらりと長い手も利用して悠々と熊谷の高さを上回ると、まずはボールは相手に渡った。
「くそっ、すまねぇ」
「この身長差だ、仕方ない。まずはディフェンス行くぞ」
俺たちはディフェンスに入った。
が、4組にハイボールを繋がれてあっさりと先制点を奪われてしまう。
俺と熊谷以外は、4組の圧倒的な高さにまともに対抗することができなかった。
4組の平均身長175センチは伊達ではない。
とはいえうちのクラスには運動なら何をやらせても上手い熊谷がいる。
熊谷のドリブルとパスはバスケ部並だ。
高さが物を言う空中戦では負けても、技術勝負の地上戦なら負けはしない――はずだったのだが。
「いてっ!? おい――!」
ドリブル中の熊谷があっさりとボールを奪われた。
そこからカウンターを受け、またもやハイボールパスを繋がれて連続失点となってしまう。
熊谷が簡単にボールを奪われた理由、それは――




