第27話 浮気疑惑?
うちのクラスの集まるエリアに戻ると、香澄が腰に手を当てて仁王立ちしながら待ち構えていた。
見るからに不満気な顔をしている。
その隣では熊谷が苦笑しながら、両手を合わせてごめんのポーズをしていた。
察するに、俺が白坂と話していたのを見た香澄がちょっと怒りんぼして、熊谷がそれとなくなだめようとしたが上手くいかなかった――みたいな感じか。
「白坂さんと楽しそーに話してたねー?」
やはり開口一番、さっきの件で詰められる俺。
推察はおおむね合っていたようだな。
別に香澄が嫉妬深いとは思わない。
俺と香澄は友達以上恋人未満――とまでは言わないが、異性としてはかなり仲がいい。
そんな相手が人気のある別の異性と仲良くしていたら、思うところがあって当然だ。
人間誰しも常にイエス・キリストではいられないのだから。
「普通に話してただけだよ」
「その割には話が弾んでいたみたいだけどー?」
「さっきの試合で活躍したねって褒めてもらってたんだ。話しかけられてるのに無視はできないだろ?」
「ふーん?」
「それと、もしバスケ部に入ったらマネージャーになってあげるって言われた。丁重にお断りしたけどな」
隠すことでもなかったので、俺はさっきの話の内容を端的かつ正直に告げた。
「ふ、ふーん?」
「以上だ」
「以上って――えっ、それだけ?」
香澄がきょとんとした顔を見せた。
「それだけだよ」
「ほ、ほんと? もっとこう……アレでナニな話はなかったの?」
「アレでナニな話ってなんだよ?」
「アレは、だから……ソレっていうか……」
香澄がもじもじとし始めた。
ギャルっぽく見えて実は恋愛に初心な様子を多々見せる香澄だ。
あまりからかうのはよくないよな。
「本当にちょっと話しただけだよ。だから変に気にしないでくれると嬉しい」
「べ、別に気にしてとか、な、ないし……ちょっと気になっただけだし」
どっちなんだよ、ってツッコミは野暮な話だ。
そりゃ気にするっての。
ってなわけで俺の疑惑は無事に晴れた。
「ならよかった。それより俺、さっきの試合、結構頑張ったんだけどな?」
俺はここがタイミングだと見計らって話を変える。
「そうそう! 伊佐美は32得点の大活躍だったんだぜ!」
すると、ここまでハラハラした顔で見守っていた熊谷が、これまたここぞとばかりに話に入ってきた。
ナイスアシスト。
サッカーで鍛えた勝負所を見極めるセンスはさすがである。
「えへへ、見てたよ~! すごかったね! シュートいっぱい決めてて!」
香澄もいつもの笑顔でにへらーと笑った。
「熊谷がいいパスを回してくれたんだ。ありがとな熊谷」
「決めるから回すんだっての」
「そうそう、シュートを決めるのはすごいと思うよ。アタシなんてシュートしてもボールがゴールに届かないこともあるのに。ってゆーか、バスケのボールって重くない?」
「あれは本当は男子用のボールらしいな、本当は女子はワンサイズ小さいボールを使うんだってさ」
「わっ、そうなんだ! どーりでずっしり来ると思ったよ~!」
「比較的大きさが近いサッカーボールやバレーボールなんかと比べても、バスケのボールは明らかに大きくて重いもんな。それが男子用ともなればなおさらだ」
女子にはかなり重く感じるだろう。
「だよねだよね? か弱い帰宅部女子の力で、あんな高いところにあるゴールに届くわけないじゃんねー」
「まぁその、香澄はシュートがちょっと怪しいもんな」
「気を使わなくていいよー。入る気しないし」
「それでも放課後一緒に練習して、時々は入るようになったじゃないか。すごく進歩してるぞ?」
実は俺は香澄と一緒に近くの運動公園に行って、香澄のシュート練習を手伝っていたのだ。
見方によっては放課後デートと言えるかもしれない。
「えへへ? そう?」
「ああ。最初と比べたらレベチだよ。ってわけで今日は一本でもいいからシュートを決めようぜ。せっかく練習したんだから」
「だねっ! 目指せイッポン!」
「なんだ、2人でこっそりそんなことしてたのかよ」
熊谷が妙に嬉しそうに言ってくる。
「こっそりじゃない、秘密特訓だ」
「だ、だよね!」
「放課後デートくらい普通だろ? 隠さなくてもいいっての」
「別にそういうんじゃない。秘密特訓だっての」
「そ、そうだよ?」
「はいはい、そういうことにしておくな」
すっかりいつもの調子の俺たちだった。
こうして俺の浮気疑惑――というと語弊があるが――は一件落着となった。
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