第21話 勇太、熊谷を諭す(2)
「俺は気にしてない。誰だってたまには調子に乗ったりはする。人間だからな。俺だってそうだ。大切なのは反省して次に生かすことさ」
「伊佐美……。ははっ、お前にはほんと勝てねぇよ。よく思い知った。お前はすげーヤツだ」
顔を上げた熊谷は憑き物が取れたような、とても晴れやかな顔をしていた。
元がいいのもあって、男の俺から見ても見とれてしまいそうなほどにカッコいい。
もしかしたら熊谷は周りから才能があると褒めそやかされて、その期待に負けないようにと変に肩ひじを張っていたのかもしれない。
自然と俺は、勇者になりたての頃を思い出していた。
勇者という大役を全うするんだって、周りが見えていない時期が俺にもあったのだ。
熊谷は昔の俺とその辺りが少し似ている。
だからついこうして、説教めいたことを言ってしまったのかもしれなかった。
「こっちこそ説教臭いこと言ってしまって悪かったな」
でも、ついお節介を焼きたくなってしまうんだよな。
身体にすっかり染み付いてしまっているというか。
どうやら俺は根っからの勇者気質らしい。
「まさか、感謝してるっての」
「ならぜひとも今後の行動で示してくれ」
「おうよ」
とまぁこうして、俺と熊谷の1500m走バトルは、特に何もなく幕を閉じたのだった。
が、しかし。
この日から少しだけ面倒事が増えてしまうことになる、
それが何かというと――
「おはよう伊佐見。なあなあ、伊佐美は運動神経抜群だろ? サッカー部に入らないか?」
俺がいつものように香澄と登校した途端に、熊谷が駆け寄ってきて挨拶もそこそこにサッカー部への勧誘を始めた。
「悪いが部活には興味ないんだ」
俺は今まで散々、勇者として頑張ってきた。
貴重な放課後を部活なんて面倒な活動に縛られるのは、俺のスローライフ高校生活にはノーサンキューだ。
「ま、考えといてくれよな」
「考える余地はないって言ってるんだが」
「伊佐見はスゲー才能を持ってるだろ。その才能をまっすぐに伸ばそうぜ」
「俺が言った言葉を真似してんじゃねーよ」
「なーに、事実を言ったまでさ! せっかくの才能を大事にしろって言ったのは伊佐美だぜ? 俺は絶対諦めねーからな! 一緒に全国大会を目指そうぜ!」
熊谷の目はキラキラと輝いていた。
「目指さないから」
全く興味がないと言うことを示すべく、そっけなく答える俺。
「つれないこと言うなよ。オレと伊佐美の仲だろ?」
「ただのクラスメイトだ」
「俺にとっては人生の師さ!」
「話にならねぇ……。香澄、ちょっと熊谷の暴走を止めてやってくれないか」
俺は隣で成り行きを見守っていた香澄に援護を求めた――のだが。
「仲良しでいいじゃん? 熊谷くん、勇太くんをよろしくね。あんまり友達いないみたいだから、仲良くしてくれると嬉しいな」
「任せてくれよ牧村さん」
「なんだ熊谷。せっかくだし名前で呼べばいいだろ?」
「牧村さんを名前で呼んでいい男子は伊佐見だけさ」
「なんでだよ。意味がわからねぇよ」
「熊谷くん、話わかる〜!」
「なんで香澄はわかるんだよ」
「オレ、牧村さんのこと応援してるんで! 情報も全部流すんで!」
「わっ、それ助かるかも〜」
「いったい誰の何の情報だよ?」
「それは、ねぇ~?」
「なぁ?」
香澄と熊谷が二人して俺に意味ありげな視線を向けてくる。
「よくわからんが、二人の仲が良さそうでなによりだ」
「わっ、なになに〜? 勇太くんってば嫉妬〜? お年頃?」
「おい伊佐見、これはそういうんじゃないからな。むしろ援護射撃の一環なんだからな。誤解するなよ、俺は伊佐美の味方だ」
「誤解も何も、だから何の話なんだよ……?」
妙に盛り上がる香澄と熊谷を前に、俺は小さく肩をすくめたのだった。
とはいえ男子の中心人物である熊谷だ。
その熊谷と仲良くなり、しかも事あるごとにベタ褒めされることで、俺はクラスの男子の多くと一気に友達となることができた。
あの熊谷が一目置くすげー奴、みたいな感じだ。
これは思わぬ副産物だった。
友達作りの手間が一気に省けた。
だが熊谷、何事もやりすぎはよくないと思うんだ。
それからというもの、俺はクラスメイトたちから妙に頼られるようになってしまった。
たとえば――
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